Snapdragonがワイヤレスオーディオを変える! クアルコム「XPAN」とは何か?
クアルコムの新しいモバイル向けチップセット「Snapdragon 8 Elite」が登場したことにより、Androidスマホで楽しむワイヤレスオーディオ再生がまた大きく変わるかもしれません。鍵を握る新技術「Qualcomm XPAN」(クアルコム エックスパン)を解説します。
超低消費電力のWi-Fiオーディオ再生
「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology」(以下、XPAN)は、2023年にクアルコムがハワイ・マウイ島で開催したSnapdragon Summitで初めて発表したワイヤレスオーディオ再生の新しい技術です。
クアルコムが開発したチップセットを載せたスマホと、イヤホン・ヘッドホンやスピーカーなどのワイヤレスオーディオ機器をWi-Fiの技術で直接つなぐところがXPANの特徴です。
現在、特にイヤホン・ヘッドホンに代表されるポータブルタイプのワイヤレスオーディオ機器とスマホは、Bluetoothオーディオの技術を使って接続する方法が一般的です。互いの機器同士をWi-Fiで接続すれば、より高音質でロバストネス(接続安定性)にも富み、さらに遅延を低く抑えたオーディオリスニング環境が実現できます。ところが、現在ある技術でそれを行ってしまうと、ポータブルオーディオ機器のバッテリーが急速に消費され、体験が損なわれてしまいます。特に、ワイヤレスイヤホンのように筐体が小さなオーディオ機器は搭載できるバッテリーの容量が限られているので、バランスを考えれば「Wi-FiよりもBluetoothがベター」ということになります。
対応するオーディオ製品の登場も間近
クアルコムのXPANは、消費する電力を低く抑えながら、一般的なWi-Fiプロトコルの上にあらゆるBluetoothのオーディオのコーデックによる信号を載せて伝送する独自技術です。2023年には、この技術を初めて載せたBluetoothオーディオ向けのプレミアム級チップセット「Qualcomm S7+ Gen 1 Sound Platform」を発表しました。送り出し側となるモバイル向けチップセット、Snapdragon 8 Eliteの準備が整ったことで、間もなくXPANの真価を多くのユーザーが実感できる日が訪れようとしています。
Snapdragon 8 Eliteを搭載するスマホは、10月下旬から順次HONOR、シャオミ、ASUSのROGブランドを皮切りに、続々と対応デバイスが商品化されることが発表されました。
XPANに対応するワイヤレスオーディオ機器が発売される見込みについて、クアルコムのオーディオとウェアラブル部門の責任者であるディノ・ベキス氏が「本当に間もなく」だと、日本から集まった記者によるグループインタビューの中で答えています。
XPANが実現する「3つのベンリ」
ポータブル機器でWi-Fiによるワイヤレスオーディオ再生が可能になると、具体的には以下のようなメリットがあります。
ひとつは、最大96kHz/24bitのハイレゾロスレスオーディオ再生が楽しめること。もうひとつは、オーディオ信号の伝送遅延が低く抑えられるため、モバイルゲーミングや音楽創作系アプリを使った演奏の際に「再生音のタイミングのズレ」が解消されて快適に楽しめるようになります。
さらにもうひとつ、XPANはワイヤレスオーディオのリスニングエリアを広く拡張します。例えば、2階建て住宅の1階にスマホを置いたままBluetoothオーディオを再生すると、2階など離れた場所に移動したときに電波が届かずサウンドが途切れてしまいます。
XPANがあれば、ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンをWi-Fiルーターなどのアクセスポイントに直接つないでオーディオストリームが受けられるようになります。Wi-Fi中継器などをネットワーク環境に導入すれば、クアルコムが提案する「Whole home coverage」(家全体を広くワイヤレス再生環境にする)が実現できます。
ベキス氏によると、ワイヤレスオーディオのチップセット「S7+」に搭載される超低消費電力のWi-Fi RFモジュールにより、「イヤホンが内蔵するバッテリーのサイズは現在のまま変えず、左右独立型のワイヤレスイヤホンであれば最大で約9~10時間前後という十分なリスニングタイムが確保できる」といいます。
普及拡大のため対応するチップセットも増やす
ベキス氏は「XPANに対応するワイヤレスオーディオ機器の接続設定はとてもシンプルだ」と話します。Snapdragon 8 Eliteシリーズを搭載するスマホとのBluetoothによるペアリングを済ませる時に、スマホ側に保存されているWi-Fiアクセスポイントの設定が自動で引き継げるからです。
さまざまな便利さが実感できそうなXPANですが、スタート後から徐々にクリアすべき課題も見えています。
ひとつは、利用できる環境をさらに広げることです。XPANに対応するオーディオ機器もさることながら、送り出しができるモバイル側のチップセットがSnapdragon 8 Eliteに限られるとなると、ハードルは高く感じられてしまいます。
クアルコムは2023年にXPANを発表した時に、当時のフラグシップ級のモバイル向け「Snapdragon 8 Gen 3」と、コンピューティング向け「Snapdragon X Elite」がXPANに対応すると伝えていました。ベキス氏は「今後それぞれをソフトウェアアップデートによりXPANに対応させたい」と話しています。また、モバイル向けのチップセットについては、フラグシップ級以下の7シリーズや6シリーズにもXPAN対応を拡大することが急務であることもベキス氏は認識しているといいます。
S7+は現行のBluetoothオーディオ向けチップセットのフラグシップなので、これを搭載するオーディオ機器も当初はハイエンドモデルに限られそうです。ここはひとつ、スマホとオーディオの両方にSnapdragonのチップセットを採用するシャオミのようなメーカーに一肌脱いでもらって、XPANのクオリティが手軽に体験できる環境が生まれることを期待しましょう。
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
超低消費電力のWi-Fiオーディオ再生
「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology」(以下、XPAN)は、2023年にクアルコムがハワイ・マウイ島で開催したSnapdragon Summitで初めて発表したワイヤレスオーディオ再生の新しい技術です。
クアルコムが開発したチップセットを載せたスマホと、イヤホン・ヘッドホンやスピーカーなどのワイヤレスオーディオ機器をWi-Fiの技術で直接つなぐところがXPANの特徴です。
現在、特にイヤホン・ヘッドホンに代表されるポータブルタイプのワイヤレスオーディオ機器とスマホは、Bluetoothオーディオの技術を使って接続する方法が一般的です。互いの機器同士をWi-Fiで接続すれば、より高音質でロバストネス(接続安定性)にも富み、さらに遅延を低く抑えたオーディオリスニング環境が実現できます。ところが、現在ある技術でそれを行ってしまうと、ポータブルオーディオ機器のバッテリーが急速に消費され、体験が損なわれてしまいます。特に、ワイヤレスイヤホンのように筐体が小さなオーディオ機器は搭載できるバッテリーの容量が限られているので、バランスを考えれば「Wi-FiよりもBluetoothがベター」ということになります。
対応するオーディオ製品の登場も間近
クアルコムのXPANは、消費する電力を低く抑えながら、一般的なWi-Fiプロトコルの上にあらゆるBluetoothのオーディオのコーデックによる信号を載せて伝送する独自技術です。2023年には、この技術を初めて載せたBluetoothオーディオ向けのプレミアム級チップセット「Qualcomm S7+ Gen 1 Sound Platform」を発表しました。送り出し側となるモバイル向けチップセット、Snapdragon 8 Eliteの準備が整ったことで、間もなくXPANの真価を多くのユーザーが実感できる日が訪れようとしています。
Snapdragon 8 Eliteを搭載するスマホは、10月下旬から順次HONOR、シャオミ、ASUSのROGブランドを皮切りに、続々と対応デバイスが商品化されることが発表されました。
XPANに対応するワイヤレスオーディオ機器が発売される見込みについて、クアルコムのオーディオとウェアラブル部門の責任者であるディノ・ベキス氏が「本当に間もなく」だと、日本から集まった記者によるグループインタビューの中で答えています。
XPANが実現する「3つのベンリ」
ポータブル機器でWi-Fiによるワイヤレスオーディオ再生が可能になると、具体的には以下のようなメリットがあります。
ひとつは、最大96kHz/24bitのハイレゾロスレスオーディオ再生が楽しめること。もうひとつは、オーディオ信号の伝送遅延が低く抑えられるため、モバイルゲーミングや音楽創作系アプリを使った演奏の際に「再生音のタイミングのズレ」が解消されて快適に楽しめるようになります。
さらにもうひとつ、XPANはワイヤレスオーディオのリスニングエリアを広く拡張します。例えば、2階建て住宅の1階にスマホを置いたままBluetoothオーディオを再生すると、2階など離れた場所に移動したときに電波が届かずサウンドが途切れてしまいます。
XPANがあれば、ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンをWi-Fiルーターなどのアクセスポイントに直接つないでオーディオストリームが受けられるようになります。Wi-Fi中継器などをネットワーク環境に導入すれば、クアルコムが提案する「Whole home coverage」(家全体を広くワイヤレス再生環境にする)が実現できます。
ベキス氏によると、ワイヤレスオーディオのチップセット「S7+」に搭載される超低消費電力のWi-Fi RFモジュールにより、「イヤホンが内蔵するバッテリーのサイズは現在のまま変えず、左右独立型のワイヤレスイヤホンであれば最大で約9~10時間前後という十分なリスニングタイムが確保できる」といいます。
普及拡大のため対応するチップセットも増やす
ベキス氏は「XPANに対応するワイヤレスオーディオ機器の接続設定はとてもシンプルだ」と話します。Snapdragon 8 Eliteシリーズを搭載するスマホとのBluetoothによるペアリングを済ませる時に、スマホ側に保存されているWi-Fiアクセスポイントの設定が自動で引き継げるからです。
さまざまな便利さが実感できそうなXPANですが、スタート後から徐々にクリアすべき課題も見えています。
ひとつは、利用できる環境をさらに広げることです。XPANに対応するオーディオ機器もさることながら、送り出しができるモバイル側のチップセットがSnapdragon 8 Eliteに限られるとなると、ハードルは高く感じられてしまいます。
クアルコムは2023年にXPANを発表した時に、当時のフラグシップ級のモバイル向け「Snapdragon 8 Gen 3」と、コンピューティング向け「Snapdragon X Elite」がXPANに対応すると伝えていました。ベキス氏は「今後それぞれをソフトウェアアップデートによりXPANに対応させたい」と話しています。また、モバイル向けのチップセットについては、フラグシップ級以下の7シリーズや6シリーズにもXPAN対応を拡大することが急務であることもベキス氏は認識しているといいます。
S7+は現行のBluetoothオーディオ向けチップセットのフラグシップなので、これを搭載するオーディオ機器も当初はハイエンドモデルに限られそうです。ここはひとつ、スマホとオーディオの両方にSnapdragonのチップセットを採用するシャオミのようなメーカーに一肌脱いでもらって、XPANのクオリティが手軽に体験できる環境が生まれることを期待しましょう。
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
10/29 17:00
マイナビニュース