東奔西走キャッシュレス 第63回 目新しくはないが新しい、ローソンとKDDIの行く末は
KDDIがローソンの共同経営に乗りだし、コンビニエンス事業においてITやAIを活用した新たなビジネスモデル構築を目指します。そんなKDDIらが目指すコンビニ像はどういったものでしょうか。
○リアルとテックが融合するか
今回の取り組みでは、三菱商事の連結子会社であるローソンの株式をKDDIが取得し、三菱商事とKDDIがローソンの株式を50%ずつ保有することで共同経営を行うというものです。ローソンの体制は変更せず、3社が協力して新たなコンビニ像を模索します。
9月18日に開催された記者説明会で繰り返し登場したキーワードが「Real × Tech Convenience」で、ローソンの竹増貞信社長は、「大胆にメスを入れる」と強調します。竹増社長によればローソン店舗における最大の課題が人手不足。2030年度までに店舗オペレーションの30%を削減することを目指します。
今後もさらにコンビニの役割が拡大していく中で、人手不足と相まって大幅な削減をしないと成り立たないというのが実情です。逆に言えば、役割を拡大していかないとコンビニ事業の継続性も難しくなってきているというわけです。
竹増社長も、「新しい付加価値を載せたサービスを展開し、お客様に選ばれるように一生懸命考えて、(その新サービスの)実証実験をして店舗に展開していきたい」と話します。
本部や店舗のシステムは2028年に刷新することになっており、KDDIの技術も活用した新たなシステムの導入も目指します。発注システムはAIも活用した「AI.CO(アイコ)」を導入して、店舗からも高評価を得ているそうです。
新発注システムは従来の需要予測中心の発注から、店舗利益を最大化することを目的に設計されており、「発注にかかる時間が大幅に削減された」(竹増社長)といいます。
新たに経営に参画するKDDIは通信が本業ですが、決済・金融をはじめ幅広い領域で存在感を示しています。こうした技術を結集してローソンの変革を支えていく考えで、まずは2025年に東京・高輪ゲートウェイに本社を移転するのに合わせて、ローソンの実験店を社屋内に設置して実証を行っていきます。
AI.CO自体にKDDIは関係していませんが、今後のシステム開発には参加して新たな本部・店舗システム構築に貢献していきます。
システム面に加えて、品出しロボット/掃除ロボットといったシーンでの自動化も追求します。ローソンは、すでに東京・竹芝の「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」で遠隔操作ロボットを使うなどの実験も行っていますが、高輪ゲートウェイでは直営店としてさらに幅広い実験を行っていく計画です。
例えばバックヤードの自動陳列ロボットは、在庫として適当に並べた商品も認識して、陳列が少なくなった商品棚に補充してくれます。これは現時点ではバックヤードから直接補充ができる飲料のみの対応ですが、バーコードを読み込んで棚にまとめておいておけば、あとは勝手に陳列してくれるので、従業員の手間が省けます。将来的には、段ボールで納品された状態で置いておけば品出しまでしてくれる、といった使い方も想定します。もちろん飲料以外でも対応することを目指します。
ローソンはこれまで無人店舗の実験も行っていましたが、竹増社長は「店に必ず一人は人がいて欲しい。一人で効率的に店が回れるようにできれば」と話しており、有人店舗であることを重視する意向です。
品出し・陳列に加えてトイレを自動で掃除してくれるロボットなど、店舗運営において時間のかかる一定のオペレーションは分かっているので、それをいかに削減できるかを追及していきます。
レジオペレーションも時間と人手が必要です。どのように省人化するかという課題に対して、まずはスマホアプリとセンサーを使ったセルフレジを検討しています。まず、入店時にスマホを機器にタッチしてチェックイン。スマホアプリと店舗を紐付けます。
これは店舗の在庫状況やこれまでの行動パターンなどを活用してレコメンドを行うためのものです。入店したあとは商品のバーコードをスキャンしてカートに入れて、まとめて会計を行います。
同時にサイネージのデモも用意。2つのカメラを使って商品棚の前にいる人を解析して、その手の動きでどの商品を取ったかを確認したうえで、その商品と本人の映像解析によって属性などを判断してレコメンドするというものでした。
続いては商品棚に設置したサイネージに、人に応じた広告を表示するというデモ。さらに手に取った商品に応じてドリンクを宣伝する、といった具合にその時々によって異なる広告が表示できます。
さらにアプリを使ってID連携をすることで、その人の購買行動やauサービスの利用状況を認識し、その人に適した商品を提示する、といったこともできるようにしたい考えです。現時点では、前述のスマホレジと連携することを想定しているそうです。
このID連携はKDDIとローソンにとって大きなポイントとなるはずです。実のところ、現時点で紹介されているデモは、特に目新しいものではありません。技術的にはすぐにも実現可能なもので、肝となるのはやはりID連携でしょう。
KDDIはauという膨大なユーザーを抱える携帯サービスを持ち、関連サービスも豊富に提供しています。オンラインではau PAYマーケットもありますが、リアルの小売であるローソンを共同経営することで、さらなる顧客接点を得ることになります。
ローソン駐車場を使って契約や相談を行える移動店舗(バス)の配備をしたり、通信のpovoとの連携を強化したり、地域の災害拠点としての役割も想定したりと、様々なローソンを模索していますが、それでもまだ、目新しさは少ないのが実情です。
コンビニとしてのローソンはKDDIだけと付き合うわけにも行かないため、バランスの取れた舵取りも必要です。ただ、決済・金融・通信・流通と全方位で連携できるKDDIとは、その強みを生かしたいでしょう。こうした支援を受けるローソンの竹増社長は、ひとつの町(ハッピー ローソン・タウン)を2030年に実現するという構想も語り、コンビニにとどまらない夢を描きます。
コンビニ業界は、商社系のファミリーマート(伊藤忠商事)とローソン(三菱商事)、流通系のセブン-イレブン(セブン&アイ・ホールディングス)の三つ巴で、セブン-イレブンも10月1日に新たな展開を示しています。そうした状況で、KDDIが参画したローソンにおいて、3社がそれぞれ相互にどのように影響し合うのか、今後の取り組みに期待したいところです。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら
○リアルとテックが融合するか
今回の取り組みでは、三菱商事の連結子会社であるローソンの株式をKDDIが取得し、三菱商事とKDDIがローソンの株式を50%ずつ保有することで共同経営を行うというものです。ローソンの体制は変更せず、3社が協力して新たなコンビニ像を模索します。
9月18日に開催された記者説明会で繰り返し登場したキーワードが「Real × Tech Convenience」で、ローソンの竹増貞信社長は、「大胆にメスを入れる」と強調します。竹増社長によればローソン店舗における最大の課題が人手不足。2030年度までに店舗オペレーションの30%を削減することを目指します。
今後もさらにコンビニの役割が拡大していく中で、人手不足と相まって大幅な削減をしないと成り立たないというのが実情です。逆に言えば、役割を拡大していかないとコンビニ事業の継続性も難しくなってきているというわけです。
竹増社長も、「新しい付加価値を載せたサービスを展開し、お客様に選ばれるように一生懸命考えて、(その新サービスの)実証実験をして店舗に展開していきたい」と話します。
本部や店舗のシステムは2028年に刷新することになっており、KDDIの技術も活用した新たなシステムの導入も目指します。発注システムはAIも活用した「AI.CO(アイコ)」を導入して、店舗からも高評価を得ているそうです。
新発注システムは従来の需要予測中心の発注から、店舗利益を最大化することを目的に設計されており、「発注にかかる時間が大幅に削減された」(竹増社長)といいます。
新たに経営に参画するKDDIは通信が本業ですが、決済・金融をはじめ幅広い領域で存在感を示しています。こうした技術を結集してローソンの変革を支えていく考えで、まずは2025年に東京・高輪ゲートウェイに本社を移転するのに合わせて、ローソンの実験店を社屋内に設置して実証を行っていきます。
AI.CO自体にKDDIは関係していませんが、今後のシステム開発には参加して新たな本部・店舗システム構築に貢献していきます。
システム面に加えて、品出しロボット/掃除ロボットといったシーンでの自動化も追求します。ローソンは、すでに東京・竹芝の「ローソン Model T 東京ポートシティ竹芝店」で遠隔操作ロボットを使うなどの実験も行っていますが、高輪ゲートウェイでは直営店としてさらに幅広い実験を行っていく計画です。
例えばバックヤードの自動陳列ロボットは、在庫として適当に並べた商品も認識して、陳列が少なくなった商品棚に補充してくれます。これは現時点ではバックヤードから直接補充ができる飲料のみの対応ですが、バーコードを読み込んで棚にまとめておいておけば、あとは勝手に陳列してくれるので、従業員の手間が省けます。将来的には、段ボールで納品された状態で置いておけば品出しまでしてくれる、といった使い方も想定します。もちろん飲料以外でも対応することを目指します。
ローソンはこれまで無人店舗の実験も行っていましたが、竹増社長は「店に必ず一人は人がいて欲しい。一人で効率的に店が回れるようにできれば」と話しており、有人店舗であることを重視する意向です。
品出し・陳列に加えてトイレを自動で掃除してくれるロボットなど、店舗運営において時間のかかる一定のオペレーションは分かっているので、それをいかに削減できるかを追及していきます。
レジオペレーションも時間と人手が必要です。どのように省人化するかという課題に対して、まずはスマホアプリとセンサーを使ったセルフレジを検討しています。まず、入店時にスマホを機器にタッチしてチェックイン。スマホアプリと店舗を紐付けます。
これは店舗の在庫状況やこれまでの行動パターンなどを活用してレコメンドを行うためのものです。入店したあとは商品のバーコードをスキャンしてカートに入れて、まとめて会計を行います。
同時にサイネージのデモも用意。2つのカメラを使って商品棚の前にいる人を解析して、その手の動きでどの商品を取ったかを確認したうえで、その商品と本人の映像解析によって属性などを判断してレコメンドするというものでした。
続いては商品棚に設置したサイネージに、人に応じた広告を表示するというデモ。さらに手に取った商品に応じてドリンクを宣伝する、といった具合にその時々によって異なる広告が表示できます。
さらにアプリを使ってID連携をすることで、その人の購買行動やauサービスの利用状況を認識し、その人に適した商品を提示する、といったこともできるようにしたい考えです。現時点では、前述のスマホレジと連携することを想定しているそうです。
このID連携はKDDIとローソンにとって大きなポイントとなるはずです。実のところ、現時点で紹介されているデモは、特に目新しいものではありません。技術的にはすぐにも実現可能なもので、肝となるのはやはりID連携でしょう。
KDDIはauという膨大なユーザーを抱える携帯サービスを持ち、関連サービスも豊富に提供しています。オンラインではau PAYマーケットもありますが、リアルの小売であるローソンを共同経営することで、さらなる顧客接点を得ることになります。
ローソン駐車場を使って契約や相談を行える移動店舗(バス)の配備をしたり、通信のpovoとの連携を強化したり、地域の災害拠点としての役割も想定したりと、様々なローソンを模索していますが、それでもまだ、目新しさは少ないのが実情です。
コンビニとしてのローソンはKDDIだけと付き合うわけにも行かないため、バランスの取れた舵取りも必要です。ただ、決済・金融・通信・流通と全方位で連携できるKDDIとは、その強みを生かしたいでしょう。こうした支援を受けるローソンの竹増社長は、ひとつの町(ハッピー ローソン・タウン)を2030年に実現するという構想も語り、コンビニにとどまらない夢を描きます。
コンビニ業界は、商社系のファミリーマート(伊藤忠商事)とローソン(三菱商事)、流通系のセブン-イレブン(セブン&アイ・ホールディングス)の三つ巴で、セブン-イレブンも10月1日に新たな展開を示しています。そうした状況で、KDDIが参画したローソンにおいて、3社がそれぞれ相互にどのように影響し合うのか、今後の取り組みに期待したいところです。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら
10/02 19:04
マイナビニュース