撮影前に計画しすぎない。映画『シビル・ウォー』の監督が語る“リアリティ”を生む方法

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ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

映画スタジオ・A24の作品として異例のヒットとなった映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。

もし現代のアメリカが再び内戦状態に陥ったら……という衝撃的でありながら、ありえないこともないシナリオを描き全米で話題となっています。

今回はそんな話題作の監督であり、SF映画『エクス・マキナ』などでもおなじみのイギリス出身のアレックス・ガーランド監督にインタビュー。そのリアルな映像はどうやって撮影されたかなど、製作の舞台裏についていろいろ伺ってまいりました!

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Photo: 山﨑 拓実

写真家を通じて内戦を描きたかった

──どういった経緯でこの映画を作ることになったんですか?

アレックス・ガーランド(以下、ガーランド):私は長いこと写真と映画の関係について興味を持っていました。カメラを使うという点で、焦点や照明など共通言語が多いんですよ。映画も突き詰めていけば、写真を連続で見せて動いているように感じさせるというものですしね。それもあって写真家の映画を撮りたいと考えていました。

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またそれとは完全に別の流れで、政治に関して不安や怒りを覚えることが近年多くありました。この映画の舞台となるアメリカだけでなく私の住むヨーロッパなども含め、世界中で政治的な問題が起こり続けてきました。

そこで私は写真家を通じて内戦を描くというストーリーがいけるんじゃないかと思いついたのです。

──ストーリーのアイデアが生まれてから映画化はすぐに決まったのですか?

ガーランド:2020年頃に脚本を書いて、映画化が決まったのは確か2020年6月頃でした。(製作・配給会社の)A24にこういう映画が撮りたいという内容のメールを送ったら、2週間後に「いいですね、作りたいです」というような返事が来てすぐにOKが出ました。

──A24側は映画の内容を聞いて、どんな反応をしていました?

ガーランド:全面的に支持してくれました。正直、驚きました。内容的にかなり難しいものだし、なによりこれまでのA24作品らしくないものですからね。そしてなにより、他のA24作品と比べてもかなりの予算がかかる見込みでした。実際、A24の中でも最も高予算な作品となりました。

A24にとってかなりのリスクだったことでしょう。それでもA24じゃなかったら、きっとこんな映画を作らせてはくれないだろうなと思っていました。AppleやFoxなんかに持ち込んでいたら、きっと撮れなかったと思いますね。本当に彼らには感謝しています。

2021年に起きた米議事堂襲撃事件の影響は受けていない

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──映画の舞台をアメリカにしたのはなぜですか?

ガーランド:この映画で描かれている問題は私の国(訳注:イギリス)を含め、どこでも起こり得る話ではありますが、アメリカは世界で最も強大な国であり、他国への多大なる影響力を持っているので舞台に選びました。

私の国ではボリス・ジョンソンという男が首相だったことがあるのですが、嘘つきで信用ならない汚職政治家でした。しかし、彼の行動で影響を受けるのは殆どの場合、イギリス国民だけです。

しかし、ボリスに似た(ドナルド・)トランプがなにかやったら、この惑星全体が影響を受けます。だからこそ、この映画はイギリスが舞台ではなりたたず、アメリカという広大なキャンバスが最適だったんですよ。

──映画の脚本は2020年に書かれたということですが、ある意味で映画に似たことの起こる、2021年のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の影響は受けていますか?

ガーランド:受けていませんね。ただ、脚本を書いた段階でもう議事堂襲撃事件のようなことが起こるという警告は各方面から出ていましたよね。

言葉の暴力は、暴力的な行動に繋がるとはよく言われていますが、トランプは言葉の暴力を使い続けていて、いつか爆発が怒り、怪我人や死人が出るだろうと言われていました。まだ起こっていないが、いずれ起こるという空気がありました。だから、議事堂襲撃事件はショックではあったものの驚きはありませんでした。

ジャーナリストが敵視される状況への反抗

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──主人公がジャーナリストだったのは、写真家の映画を撮りたかったというのと関連したことなのですか?

ガーランド:実はそれとはまた別なのです。今、ジャーナリズムは変化していて、報道機関だけではなく、たとえばソーシャルメディアや個人的な発信を通じて行なわれていますよね。そしてまた、ジャーナリストが自由の守り手ではなく、敵として捉えられることも起こるようになりました。

たとえばドナルド・トランプはよくメディアや大手報道機関は腐敗していて悪なんだと語って国民をけしかけました。結果として、アメリカの大きな報道機関は報道機関であることを諦め、プロパガンダを広める機械になってしまいました。

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ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

また、私の国の報道機関であるBBCのジャーナリストたちは基本的には公平で、娯楽的な報道をするわけでもなければ過激でもないというような人たちでしたが、そんな彼らが最近は攻撃や中傷の対象になっていて違和感がありました。

どういうわけか、ジャーナリストが敵視されるという奇妙な状況になっていたというわけです。しかし、ジャーナリストは敵ではなく、医者と同じくらいに、必要不可欠な存在だと思います。だからこそ、そういう状況に反抗する意味も込め、私はジャーナリストたちを映画の主人公にしたのです。

絵コンテを使わず撮影。その真意とは?

──監督は今作やこれまでの映画でも凄まじくインパクトのある画が満載の作品を多く作ってこられましたが、そういった画は脚本の段階で考えているものなのですか? それとも、絵コンテやコンセプトアートで考えているものなのでしょうか?

ガーランド私は絵コンテを使いません。今、かつて脚本を担当した『28日後...』の続編の『28 Years Later(原題)』に脚本で参加していて、ダニー・ボイルとニア・ダコスタ(注:同作のパート2の監督)の2人の映画監督と仕事をしているんですが、彼らは画作りのためにかなり絵コンテを使うので驚きました。

映画監督をしていると、あんまり他の監督の制作現場にいかないので、他の映画監督がどんなふうに仕事をしているか、忘れてしまうのですよ。

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ただ、私は個人的に絵コンテを使うのが好みじゃないんです。どうしてもそういうものが必要になったときは、撮影現場の平面図を作って、スタッフや機材の位置を示して、流れを矢印なんかで書き込んでいきます。サッカーの作戦ボードみたいな感じですが、どんなスタッフでも理解してくれるし、これが便利なんですよ。

(注:そう言いながらスマートフォンで見せてもらった図はさまざまな車両や人が出てくる複雑なシーンのもので、パワーポイントか何かで作ったであろう非常にシンプルなもので、シーンの流れを1つにまとめたものでした)

──絵コンテなしで映画を撮るのって、珍しいですよね?

ガーランド:絵コンテを使うのが一般的だと思います。でも、たとえば会話シーンを撮るとしたら、現場に行ってカメラの位置をどうするかとか、照明の位置をどうするかとか考えればいいわけで、絵コンテなんていらないと思いますよ。

計画しすぎないことでリアリティが生まれる

──今作は音も凄まじかったんですが、どういう音を使うかというのはどうやって計画したものなんでしょうか?

ガーランド:これもまた先程の絵コンテと関連することですが、私はあまり撮影前にあれこれ計画を立てないでおきたいのです。むしろ、現場で起こることに反応して、その場で変えられるようにしておきたいと考えています。実際、撮り始めてみて、違う画が欲しくなるなんてことがありますからね。

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音のデザインにおいても似たようなもので、撮影現場で生まれたものになっています。たとえば、現場で機関銃を撃つシーンを撮った時に気づいたのですが、銃の音がコンクリートに反響して鐘のような音が発生して、しかも距離によってその音のピッチが変わるんです。そういう小さなリアリティが大事なんです。それを反映してこの映画の銃の音には鐘のようなノイズを追加しています。

もし、事前にあれこれ決めていたら、思考が固まって決めたことをただ受け入れてしまうので、新しいものを探そうという気にならないのですよ。

──ということは銃撃のシーンは空砲を使ったのですか?

ガーランド:そうですね。最近、撮影中に死者が出た映画があったので空砲を使うべきかどうかで映画業界では議論の的となっていますが、この映画の撮影では空砲を使用しています。

エアガンにCGを組み合わせて撮るという選択肢もありましたが、空砲を使うとノイズもマズルフラッシュ(注:銃口から出る光)も撮ることができます。CGで再現できることですが、マズルフラッシュで周囲が明るくなるなどの再現は、なかなかそれっぽくならないんです。

そしてまた、銃には反動があるので、ライフルなんかを構えて撃つと反動で押されて顔がゆがむんですよね。また、近くで銃が撃たれると、反射で目を閉じたり、ビクッとしたりします。そういうリアリティの質感は、空砲を使わないと上手く撮れないんですよ。

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──あまり計画をしたくないとのことですが、今作でもかなり印象的なシーンに登場する国粋主義者役のジェシー・プレモンスは撮影の5日前に急遽出ることが決まったんですよね? ほとんど準備なしだったんですか?

ガーランド:いろんな役者がいますが、彼はかなり準備をするタイプで、とにかくリサーチをして兵士の話を聞いたそうです。

──迷彩を着ているのにめちゃくちゃ目立つ赤いサングラスをしていてかなりインパクトがあったんですが、誰のアイデアだったんでしょうか?

ガーランド:あれはジェシーが言いだしたものですね。撮影の数日前に「(自分の役は)メガネをかけてたほうがいいと思う」と提案してきて、私がそれにOKを出すと、彼は自分で買い物に出て10種類くらいのメガネを買ってきたんです。

それでいろいろ試してみて、赤いのをかけたときにみんなが「それだ!」となって、使うことになりました。


映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中。

Source: 映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』公式サイト

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