30年前に製造中止された化学物質、今も海底を汚染し続けている

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Image: Shutterstock

2023年4月21日の記事を編集して再掲載しています。

人間の業は、海よりも深いのか…。

かつて電化製品に使用されていた有害な化学物質が、製造中止から数十年たった今も海底を汚し続けていることがわかりました。

水深2,500m以上の深海を調査

Nature Communicationsに掲載された論文によると、研究者チームは2018年に南アメリカ沿岸のアタカマ海溝の底を探索

その際に持ち帰った堆積物コア(海底堆積物のサンプル)を分析したところ、「PCB化学物質」という有害物質を検出したとのことです。

サンプルは海溝沿いの5つの地点で採取されましたが、いずれも水深2,500mから8,000mという深海にあたる場所。今回の論文には、「我々は50層におよぶ堆積物層のすべてで、PCBを発見しました」と記されています。

PCBの人体侵入経路

PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、かつて電化製品や建材に広く使用されていた合成化学物質

米国疾病管理予防センターによると、人体への侵入経路は2つ考えられ、ひとつめはPCBを含む動物や植物を食べること。

そして2つめは汚染された土壌付近にあるコミュニティに暮らすことでPCBにさらされることもあるそうです。

PCBは200以上の物質から構成されており、1970年代から1980年代にかけて世界中で製造禁止となりました。

その後の研究で、PCBが免疫系やホルモンの乱れといった健康問題と関連があることがわかっています。

米国海洋大気庁によると、PCBの中には自然に分解されるものもありますが、環境やその化学的組成によっては長年分解されずに残るものもあるんだそう。

そんなわけで、製造禁止されてから30年たって現在でも海底の堆積物からPCBが発見されたのです。

問題は量ではなく発見場所

研究著者の一人で、南デンマーク大学デンマーク・ハダル研究センターのディレクターであるロニー・N・グールド氏は「アタカマ海溝で検出されたPCBの量は、極端に多いわけではありません」と述べています。

バルト海などの水域では、この300倍もの濃度で発見されることもあるのだそう。

しかし、今回問題となっているのは「発見された場所」です。

このサンプルの濃度自体は数字だけ見るとそれほど高くありませんが、なにせ見つかったのが深海の海溝ですから「それにしては比較的高い」というのがグールド氏の見解。

彼はプレスリリースで「こんな場所で汚染物質が見つかるなど、誰も思わないでしょう」とコメントしています。

PCB化学物質が水中で分解されにくいことも、また問題

化学物質は有機物と結合し、最終的には海底に沈みます。それが積もり積もった結果、海溝に有害物質が蓄積されてしまったのです。

深海海溝の汚染物質に関する情報はあまり多くありません。今回の研究に携わった科学者チームは今後も海中の汚染物質の濃度を分析していく意向です。

関係者の一人は、日本海溝でもサンプルを収集するため、近々来日する予定です。

論文の主執筆者であるアンナ・ソベク氏は

今後の研究では、深海に暮らす動物がPCBを取り込んでいるのかどうかを研究し、汚染の広がり方や海溝の食物網に及ぼす影響についても調べていきます。

と展望を語っています。

また、深海海溝の微生物がどのように汚染物質を分解しているのか、という点も追及していく予定です。

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