洗剤を頻繁に使う家の子が発症しがちな「ある病」

アレルギーの子供

人工化学物質は、私たちの免疫系にどのように影響を与えるのでしょうか(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
「小さな子供がいるから、家はできるだけ清潔にしておきたい」と考える人は多い。頻繁に家庭用洗剤を使ったり、消毒できるウェットティッシュで手や周りを拭いたり、アルコールを使って掃除をしたりする人もいる。しかし、そうした行動が子供のアレルギーの発症につながる可能性があるとしたら――。
洗剤に限らず、芳香剤や消臭剤など家庭には人工化学物質があふれているが、その人工化学物質がアレルギーの重要な一因であることが多くの研究で明らかになっている。元ジャーナリストで医療人類学者のテリーサ・マクフェイル氏が5年もの調査を経て上梓した『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』から、人工化学物質がどのように私たちの免疫系に影響を与えるのかについて、一部抜粋・編集のうえ、お届けする。

アレルギーの主要因の1つ「人工化学物質」

「人類の進歩は問題を生み出す」と書いたのはサミュエル・ファインバーグ医師だ。先進的なアレルギー専門医で、米国アレルギー・喘息・免疫学会の初代会長を務めたファインバーグは、1950年代に作られたアレルギーについての小冊子にそう記した。

『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』書影

ファインバーグは、人間の創意工夫が先進諸国で増加するアレルギーの重要な一因であると非難した。私たちの使うさまざまな人工染料、合成繊維に新たなプラスチック素材、乳液にアイライナーに口紅にシャンプー、それら全てがヒトの免疫系をめちゃくちゃにしはじめていた。

私が話を聞かせてもらった何人かの専門家は、悪化しつつある私たちのアレルギーの背後にある主要因の1つとして人工化学物質に言及していた。とりわけ、それらが皮膚バリアに与えているかもしれない影響についてだ。

免疫学者で、コロラド州デンバーの国立ユダヤ医療研究センターで小児アレルギー・臨床免疫学部門長を務めるドナルド・リャン医師は、世界第一線のアトピー性皮膚炎研究者の1人だ。

皮膚アレルギーと湿疹の原因について私たちが交わした会話の中で、リャンは私たちが石鹸、洗剤、アルコール含有製品を皮膚に対して使いすぎていると主張した。私たちはただの水と石鹸を使う代わりに、日頃からきつい抗菌製品を手洗いや家の掃除に使っている。

家と自分たち自身を衛生的にしようとする努力は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの間ずっと高まっていた。殺菌用のウェットティッシュが何カ月もすっかり売り切れていたあの頃だ。これらは全て私たちの皮膚バリアに悪影響を及ぼしうることで、私たちがアレルギーを発症する可能性を高めてしまう。

弱った「皮膚バリア」とアレルギー

ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部では、免疫学研究者のセルゲイス・ベルニコフス博士が、アレルギーの発症を説明するための「統一バリア仮説」を提唱した。

彼の考えは、性器から目まで、私たちの全身のバリアが多様なホルモンによって調節されているというものだ。もしそれらのホルモンの量がある箇所で変わると、そこでの上皮バリアが弱められ、アレルギー反応のリスク増大につながる。

同じくノースウェスタン大学ファインバーグ医学部に所属するエイミー・パラー医師は、このバリアの問題をアトピー性皮膚炎との関係の中で説明した。彼女が指揮した研究では、マウスの皮膚に粘着テープを貼りつけてから剝がして皮膚バリアを奪い、そこにアレルゲンを塗布すると、アトピー性皮膚炎が生じた。パラーの言葉によれば、このバリアの傷によって「マウスは抗原に対して極めてむき出しにされ」たのだった。

これに関連して、食物アレルギーの二重抗原曝露仮説〔アレルゲンが皮膚から体内に入り込むとアレルギー感作が起こるが、それよりも前の適切なタイミングで口から摂取すればむしろアレルギーを起こしにくいとする仮説〕はバリア仮説を更に拡張する。弱った皮膚バリアを通じて食品由来のタンパク質に曝露されると共に、早期から食品由来のタンパク質を多量に経口摂取すると、本格的な食物アレルギーになりうるという主張だ。

これはつまり、次のようなことである。

あなたがピーナッツバターサンドウィッチを作り、その手を洗わないまま自分の赤ん坊を抱え上げれば、少量のピーナッツタンパク質がその子の肌に残るかもしれない。その子の皮膚が「守りのゆるい」状態(リーキー・スキン)なら、付着したピーナッツタンパク質は肌の奥へと染み込んでいくだろう。もしその子が続いてピーナッツを食べれば、それがピーナッツアレルギーを引き起こしうる。

洗剤工場で働いている人が抱えるトラブル

「いろんなものをばらばらにしてしまう強い化学物質で作られた、とてもきつい洗剤がありますよね」。

スタンフォード大学ショーン・N・パーカー・アレルギー・喘息研究センター長であるケアリー・ナドー医師は私にこう話した。

「それも当初はよいものだと思われていました。でも、それから人々はこんな風に捉えるようになったのです――ちょっと待って、こういう洗剤を作る工場で働いている人たちはみんな、呼吸のトラブルを抱えている、と。人がプロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素のこと)を洗剤に入れているという事実、そうした洗剤が布や肌、髪や皿をきれいにするものとされている事実……実はそれらが、私たちの体に害を与える可能性があったのです」。

私たちの議論の間、ナドーは近代的な暮らしの負の側面についての主張を断固として譲らなかった。とりわけ、私たちが自分たち自身─そして子供たち─を日々曝露させているあらゆる化学物質のことについては。彼女は重篤な湿疹が近年増加していることを指摘した。

1940年代、50年代には、先述のような新型の洗剤を作っていたのと同じ会社(例えばダウ・ケミカルなど)によって「キュキュッと音が鳴るほどぴかぴか」の家庭のイメージが喧伝されていた。

「これが実は問題のあるイメージだったのです」とナドーは言った。

「結局、私の祖母が農場で送っていたような暮らしが、おそらくは正しいやり方だったのです。たくさんの洗剤を使わない、毎日は入浴しない、ちょっとばかりの土埃に必ず触れる、野外に身をさらすようにする」。

洗剤・芳香剤・消臭剤・抗菌消毒剤のリスク

近年のある研究では、カナダのサイモン・フレーザー大学の研究者たちが、家庭用洗剤をより頻繁に使う家に暮らす低月齢の乳児(生後0カ月から3カ月)は3歳になるまでに喘鳴と喘息を発症する割合がはるかに高くなることを見出した。研究者たちは、こうした乳児の大部分は80%から90%の時間を室内で過ごしていた――洗剤への曝露を大幅に高めていた――と記している。

この論文の著者の1人、ティム・タカロ医師が言及しているように、子供は大人よりも呼吸の頻度が高く、また、大人とは違ってほとんどの呼吸を口で行う。天然の濾過機構を通して行う鼻呼吸とは違い、口呼吸はむしろ空中のあらゆるものが肺のより奥深くまで入り込むことを許してしまう。

論文の著者たちの仮説は、家庭用洗剤から生じる蒸気が気管に炎症を起こし、それによって赤ん坊の自然免疫系を活性化させるというものだ。ある種の家庭用製品――芳香剤、消臭剤、手指用抗菌消毒剤、オーブンレンジ用洗剤、埃拭き用洗剤――の頻繁な使用は特に危険であるように見受けられた。

天然物質は私たちのアレルギーに対する万能薬ではないものの(また、例えばカドミウムやポイズンアイビーなどのように、天然物質も有害なものとなりうるが)、手始めとして、家の中のものや皮膚に対して使っている製品について考え直してみるのはよいだろう。私たちの免疫系は明らかに休息をとりたがっている。

(翻訳:坪子理美)

(テリーサ・マクフェイル : 医療人類学者)

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