組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本
「営業は断られてから始まる」と言われる。だが、話術だけで成約に導けるほど甘くはなく、1度成功したアプローチが2度通用する保証もない。「買う・買わない」の決定権を相手が握る中、営業担当にできることは何か、すべきことは何なのか? 本連載では、日本一の営業成績を認められ、初めて地方ボトラーから日本コカ・コーラへの出向を果たした山岡彰彦氏の『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(山岡彰彦著/講談社+α新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。顧客視点や組織力の大切さに気付いていく学びの足跡をたどる。
第6回は、著者が組織営業の醍醐味に気付いた、ある展示会のエピソードを紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(本稿)
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組織営業の醍醐味
最近は組織で営業をすることが当たり前のように言われていますが、現実に目をやれば組織の機能を使いきれていないのがほとんどではないでしょうか。
私も同様にきちんと組織だった営業を進められている訳ではありませんでした。人の意見を聞いたり、間に立って調整したりが億劫になり、どうしても独りでやってしまいがちになります。そもそも営業に携わる大半の人が組織で営業を進めると言われても、何をすればいいのかがわからないのではないかと思います。
そこでフードサービスに異動した時に学んだ「いままでの見方を変える」というところに立ち返ってみました。自分たちの営業の仕事を俯瞰して使えることで、見えてくるものがあったのです。
一つの製品がお店で販売されるまでには、アイディアを出す人、それを企画する人、原材料を調達する人、製品にする人、製品の広告・宣伝を考える人、それを運ぶ人など多くのプロセスがあります。
私のような営業担当者は、たまたまその製品を取引先に説明し、それを届ける地点に立っているだけなのかもしれません。そう考えると組織における営業活動を進めていくさまざまなアプローチが見えてきます。
フランチャイズシステムでビジネスを進めるチェーン店の多くでは、毎年加盟店向けにその期の方策や商品施策を伝える展示会が開催されます。
これからこんな売り場づくりを進める、今期はこういった商品を戦略的に展開していくとの方針が示され、ちょっとしたホールのような特設会場に売り場を再現して、実際に商品を並べて実店舗に近い環境で加盟店の皆さんに説明するのです。
私が担当するコンビニチェーンの山梨地区でも今期の展示会が開催されることになりました。私たちの施策、新商品を加盟店にアピールするまたとない機会です。山梨地区担当の小宮山さんと一緒にどうアプローチするのかを考えます。
これまでは毎回自社の商品を持って行き、そこで紹介してもらっていたのですが、どうしても、より好条件を出した競合の品に良い場所を取られてしまいがちです。それは自分たちへの関心がその分薄くなってしまうことにもつながります。
この状況をなんとかしたいのですが、いままでのやり方がそれなりに進んでいれば、多くの担当者はあえて変えることはしたくはないと思ってしまいます。展示会のような手の掛かる場での変更はかなり大変になることが見えています。
「小宮山さん、どうする。このままではじり貧だよね」
「うん、何か手を打たないとマズイよね」
そう簡単にアイディアなんか出てきません。二人で押し黙ります。そこでまず小宮山さんと考えたのは、いままでのやり方を思い切って白紙にして、ゼロから何をするかを決めようということでした。
ではどうするのか。単に製品を紹介するのではなく、チェーン全体が今期、進めることに合わせて、「自分たちはこんなことをします」というメッセージを伝えることにしてはどうかというゴールの設定です。構造的にはそのメッセージの下に新商品や販促サポートを置くという位置付けです。
では何を伝えるのか。そこでもう一度相手の目的・戦略をきちんと確認しようということになりました。早速、地区本部にアポを取ります。
次にそれをどうやって伝えるのかということです。この戦略をなぜ進めるのかという背景をしっかりと伺い、この売り場、この商品ならば今期の目的に向けて、こんな良いことがあるといったストーリーを見せてはどうだろうと考えます。
いままでの商品陳列や商品特性の説明ボードだけでは、加盟店の人たちに真意が伝わらないから、世の中のトレンド、さらにそれを先取りする今回の新商品を売ることのメリットを踏まえたストーリーボードをつくってはどうだろう。そこに地域のトピックスを交えたらいいんじゃないか。
お互い好き勝手を言いながらもいろいろな発想が飛び出してきます。その後、チェーンの先方からもらった意見や情報と社内の複数の部署から提供を受けた情報でストーリーができあがりました。
「どうやって」の部分は、自分たちのグループ会社が行った展示会の資材を担当者が融通を利かせて貸してくれることになりました。小宮山さんが上司に相談したところ、連絡をとってくれたのです。
まさに組織だった連携でそれまでとはまったく違った展示会が開催され、チェーン本部と協働で進めた私たちの施策を加盟店に伝えることができたのです。当時はコンビニエンスストアが毎年、伸長していた時代なので、この取り組みがどの程度効果があったのかはわかりませんが、その期の業績は前期を大きく上回ることができました。
展示会を終えた日暮れ間近、二人でトラックの荷台に腰を掛け、会場で用意してくれたお弁当をいただきます。その時、小宮山さんがぽつりとつぶやきます。
「今回は本当にみんなが力を貸してくれたなぁ。それもこれもいままでのやり方にこだわらなかったからかなぁ」
幕ノ内弁当を突つきながら話します。
「それぞれの部署に自分たちが目指すことや力を貸して欲しいことを正直にお願いしたからでしょうか」
ご飯を頰張りながら優等生っぽい返事をしますが、そう外れていないはずです。同じ会社で目指していることは同じだからです。その目的のために協働でやっていきたいと声を掛けているだけです。組織営業の最初の一歩はそんな一言ではないかと思います。
<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(本稿)
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11/06 06:00
JBpress