経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO誕生で進むサプライチェーンの「手の内化」とは?

写真提供:山陽新聞/共同通信イメージズ

「物流2024年問題」対策として2024年4月に可決・成立した「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」(物流総合効率化法)において、一定規模以上の荷主企業に対して「物流統括管理者(Chief Logistics Officer:CLO)」の設置が義務付けられることになった。対象となる企業は、2026年度までに社内でCLOの選任を進めなければならない。本連載では『CLOの仕事 物流統括管理者は物流部長とどう違うのか』(森隆行著/同文舘出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏(肩書は2024年6月時点)へのインタビューから、改正法のポイントやCLOに求められる役割を解説する。

 第2回は、CLOの誕生によって変化が求められる各企業の経営戦略や、産業構造全体に与えるインパクトについて考察する。

<連載ラインアップ>
第1回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO設置の目的や選任者が果たすべき役割とは?
■第2回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO誕生で進むサプライチェーンの「手の内化」とは?(本稿)
第3回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLOを起点として期待される企業間の「水平連携」とは?
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森:ところで、少し広い意味で考えて、今回CLOが誕生することで、社会や産業にどんな影響が出ると期待していますか?

中野:考えられる、もしくは期待しているのは、経営戦略の中心に物流、より広くサプライチェーンマネジメントを根づかせることです。物流の人手不足は今後も続くので、物流の逼迫とか物流のコストアップはこの先もあるという構造になっていて、かつ国際的には紅海・スエズ運河のような地政学的リスク、あるいは能登半島地震のように災害のリスクも高い。

 つまり、サプライチェーン寸断のリスクは以前以上に高まっています。こうしたなかでは、企業の国際競争力の源泉は、物流・サプライチェーンマネジメントがしっかりしているかどうかにあります。それはいい製品を作るとか、いいサービスを提供するだけではなく、サプライチェーンが強靭であること、物流が効率的であること、これが企業の競争力の大きな源泉にならざるを得ません。

 物流についてさほど心配する必要がなかった時代は、物流が国際競争力の源泉になることは考えにくかった。それゆえ、過去20~30年間は、とりわけ日本の企業は、物流を子会社化し、さらには子会社も売ってしまい、物流事業者に丸投げしてやってきました。

 企業の戦略として、物流やサプライチェーンマネジメントをさして考えないでもよかったのでしょうけれど、これからは調達物流であれ販売物流であれ、そうはいきません。サプライチェーンになると、取引先も含みますから、効率化の概念が工場や一企業を飛び出して、一気に拡大するわけです。

 これまで日本企業は、工場内の効率化やデジタル化・自動化には非常に長けていましたが、その考え方を、自社を超えて拡大することになります。そうすると、自分の会社を代表して取引先と調整できる人間じゃないと駄目だということになり、CLOというのは非常に重要な存在になってきます。

 要するに、自社のなかでの効率化や生産性の向上を、サプライチェーン全体で他社も巻き込んで垂直に連携することができる。他社との水平の連携もオーガナイズできる。そういう経営戦略・企業戦略が拡大していくはずで、そういう俯瞰的な経営戦略のほうに舵を切るきっかけにCLOがなる、ならなきゃいけないと思います。

森:そうすると、CLOが生まれることによって、企業の戦略はもちろん変わるわけですが、産業界にはどんな影響が出るでしょうか。

中野:産業界への影響でいうと、産業構造の変化という意味で、大きな変化が起きると思っています。起きなければ競争力で負けるだけの話なんですが。

 それは、これまでは「選択と集中」で、「コアなところ以外はアウトソースして、必要なものは技術であれ、物流の能力であれ、外から提供してもらえばいい」といったイメージでいたものが、これから「どこでサプライチェーンが寸断するかわからない」という時代になると、当然不安だから、「手の内化しよう」となるのではないでしょうか。

 一番極端なのは内製化ですが、内製化がきつければ連携を強める、系列化する。系列化もきつければ、企業間連携を何らかの形でもっと強めていく方向に進むでしょう。おそらく、サプライチェーンの上流から下流という、いわゆる垂直統合、垂直連携、垂直の囲い込みがはじまってくるでしょう。

 もしくは、それを進めた会社が勝ち残る。この垂直の統合、垂直の囲い込みは、連携のコストが非常にかかり、調整のコストも増えるので、なかなか難しかった。だから今まではそれをアンバンドリング(分割)していたわけですが、今やデジタル化のおかげでそういう調整コストが極端に下がって、他社と上流から下流まで一挙に連携をしても、さしてコストはかかりません。

 下流のほうで、AIで需要を予測してもらって、そのデータを上流まで飛ばして、その情報が上流から下流まで同期的にシェアできれば、サプライチェーンの波を平準化してリードタイムを短くすることは、いとも簡単にできます。それがなぜできなかったかというと、デジタル化が遅れていることに加えて、そもそも企業間の上流から下流で連携していないので、デジタルの技術がいくら発達したところで、連携していないものはどうにもなりませんでした。

 ここでCLOが誕生して「連携しよう」「でも、連携するにはどうしたらいいか」となった時に、「デジタルの技術があるよ」となれば、話は全然変わってきます。

いったんそれがうまくいくと、「なんだ、上流から下流で連携したり、手の内化するのって、大してコストがかからないから、もっと手を伸ばそうか」「もっと手を伸ばすためには、デジタルテクノロジーのよりよいものがあるじゃないか」といったように、上流から下流までの連携が、デジタル化と相まってどんどん伸びていくのではないでしょうか。

 それは、物流コストが安くて世界が平和だった2000年代には到底考えられなかったことで、あの頃はむしろアウトソースばかりしていたんですよね。それが流行で、そうしないと生き残れない、グローバリゼーションだ、といっていたんですけど、それは間違いだった。

森:サプライチェーンマネジメントといいながら、これまでは本当の意味では機能していなかったということでしょうか。

中野:そうです。当然、リアルタイムで把握していません。理想をいえば、むしろ需要側からさかのぼって、上流の供給側に「いつ・何を届ける」という情報を、先に上流に提供すれば、上流のほうで準備をして製品を流せますよね。

 でも、今はサプライチェーンをマネジメントできていなくて、下流の情報を上流に上げていないから、上流のほうは当てずっぽうで下流にいわれるままに製品を流しています。で、返品をしなきゃいけなくなったり、在庫を抱えたり、あるいは急に持ってこいといわれたりするものだから、積載効率は下がるといった状態です。

 もっと効率がよくなる、積載効率が上がるだろうから、需要を予測して早めに上流にその情報を伝えるなんていう、下流の需要の情報を上流に逆行させて流すことは、ほぼやっていないはずですが、これをやることがものすごく重要です。もし、需要の変動を平準化することができれば、物流事業者は多重下請けに出す必要がなくなってきます。

「多重下請け構造の是正」とはよくいわれていますが、それは物流事業者の多重下請けを、例えば「2次までにする」といった対策ではどうにもならなくて、多重下請けは物流の需要の変動・波動が大きいために、物流事業者がすべてを抱えていると効率が悪いので、外に出す。だから、物流の需要の変動が大きいと、必然的に下請けは多重に階層化していくものなのです。

森:物流を平準化する必要があるということですね。

中野:おっしゃる通りです。だから、平準化をしなければなりません。平準化するためには、下流から上流に早めに情報を流すという、今までと逆の流れが必要になるわけです。

 上から来るのを待っているだけだったのが、下から先にマネジメントするという、180度反対の発想です。それを実行し、物流の需要が平準化した時にはじめて、多重下請けをする必要はなくなり、層が薄くなる。そうなると、産業界への影響は非常に大きいのではないでしょうか。

<連載ラインアップ>
第1回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO設置の目的や選任者が果たすべき役割とは?
■第2回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO誕生で進むサプライチェーンの「手の内化」とは?(本稿)
第3回 経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLOを起点として期待される企業間の「水平連携」とは?
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