キリンHD副社長坪井純子氏に聞く なぜ役員1人が社員10人のメンターを務めるのか?

写真提供:ロイター/共同通信イメージズ

 人的資本経営、女性活躍推進・ダイバーシティ推進は、経営者にとって喫緊に対応すべき課題だが、日本では近年なぜここまで女性活躍がクローズアップされるようになってきたのだろうか。そしてこうした取り組みは、企業にとってどのような価値を生み出すのか。本連載では『女性活躍から始める人的資本経営 多様性を活かす組織マネジメント』(堀江敦子著/日本能率協会マネジメントセンター)から、内容の一部を抜粋・再編集。女性活躍やダイバーシティと経営戦略をどのように紐づけ、取り組んでいくべきか、先進企業の経営層と著者との対談からヒントを探る。

 第6回では、第4回からに続きキリンホールディングスの事例を紹介。同社が行っている経営職育成研修や、役員によるメンタリング、キャリア採用などの事例を紹介する。
 

<連載ラインアップ>
第1回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性管理職の育成のためのプログラム「W50」とは?
第2回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く マネジャーはなぜ社員評価で「前任者との比較」をしないのか
第3回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性活躍推進にとどまらない、新しい働き方の追求とは?
第4回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 被災しても工場は撤退せず、同社が進めるCSV経営とは?
第5回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 女性経営職人材が約3倍に増えた「早回しキャリア」とは?
■第6回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く なぜ役員1人が社員10人のメンターを務めるのか?(本稿)
第7回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 「なりキリンママ・パパ」で試した誰かが抜けても回る仕組みとは

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■ 経営職育成のための段階的な研修と、役員のメンタリングで意思決定層へのパイプライン構築へ

女性活躍から始める人的資本経営』(日本能率協会マネジメントセンター)

堀江:他にも経営職を増やすための施策は行っていますか。

坪井:並行した取り組みを行っています。最初の頃は、経営職が少なく、特に営業部署の方などは経営職になるイメージが湧かないという課題がありました。その際に、ウィメンズネットワークなどで、ネットワーク構築を行っていきました。このことによって、経営職になる層はある一定増えてきているように感じます。

堀江:社員は、自分のいる場所の半径25メートル程度しか見ていないと言われることがあります。自分の身の回りにいなければロールモデルはいないと思ってしまうので、ネットワーク構築はとても重要な施策ですよね。経営職以降についてパイプライン構築についてはいかがでしょうか。

坪井:経営人財の育成として、非管理職層の「キリンビジネスカレッジ」と管理職以上を対象とした「キリン経営スクール」「キリンエグゼクティブスクール」の3つのコースを持っていますが、例えば、経営スクールはこれまで手上げだったためどうしても男性が多い傾向でしたが、そこもルールを決めて必ず女性が30%以上になるようにしました。当初は、女性に勧めても「え、私なんて」というように自己肯定感が低い発言もありましたが、最近は変化を感じています。

堀江:女性活躍の面で多くの企業さんのお話をうかがっていると、管理職に上がる際の昇格試験の勉強を土日や夜に実施しなければいけなかったり、育児をしながら昇格試験のために勉強することが難しいという声も聞かれたりするのですが、昇格に向けてのサポートはどのようなことをされていますか。

坪井:座学で学ぶ内容ではなく、視座を上げた考え方を試験でみていくので、特にプライベートの時間を削って勉強するようなことではないと思います。上長が業務を通じて支援や指導を続け、会社もさまざまなプランを用意しています。

 例えばWEB研修で論理的思考などを学習しつつ日々の業務に活かしてもらい、1次試験で見ています。2次試験は面接で、いかに社会全体、組織全体を見ているかを把握します。これについては、女性男性は関係なく、育休時にも昇格試験を受けれるようになっているので、性別関係なくチャレンジできる仕組みになっているのではないかと思います。

堀江:経営職についてのパイプラインは、かなり構築されているのですね。その次のタイミングとして部長層など意思決定層にいく部分はいかがでしょうか。

坪井:やはり、経営職から、意思決定層に行くまでが遅くなってしまっている状況があります。経営職になったところがゴールだと考える女性が多いのも事実で、男女で数値化すると明確に出ています。

 今後も、経営職を増やすための総合職向けの取り組みはもちろんやるべきなのですが、経営職になった女性や若手がさらに上に行くための取り組みが重要だと思っています。  社長の発案で、役員が1人10人のメンティを持つことを実践しています。私は女性活躍推進の役割もあり、10人持っていますが、全員女性です。

堀江:役員の方がメンタリングを行うことが難しいと感じられる会社さんもありますが、役員の方から拒否するような反応はなかったでしょうか。

坪井:特にありませんでした。冒頭のお話しにもありましたが、役員は常に現場のメンバーと対話する事が多いので、自分たちなりに実践しています。メンタリングを受けた方から、視座が高まって勉強になったという意見も来ているようで、とても嬉しいです。

■ 専門性と多様性を融合させるキャリアコース変革で、より強い人財組織へ

堀江:「女性活躍推進長期計画2030」では、多様な人材確保と成長を実感できる環境の整備、仕事と生活の両立の実現、経営職の働きがい変革、意思決定層への女性登用の4項目を重点課題に挙げられていますね。現在13.6%である女性経営職比率と現在20%である女性役員比率をそれぞれ30%にすることを掲げられてもいます。現状、達成は見えていますか。

坪井:2030年の30%については、まだ頑張らなくてはならないと思っています。ただ、24年には15%はいけるのではないかと思っています。ですから、取り組みとしてはもう一段あるかと思いますが、キャリア採用も続けておりますので、マインドセットや制度を整えることで増えていくだろうと思います。そのために働き方だけではなく、働きやすさということを主眼に置いて、さまざまな制度を整えています。

堀江:ありがとうございます。もう一段頑張らねばとおっしゃっているものの、プール人材の育成もしっかりと行っているからこそ、達成に向けての方向性は見えているということなのですね。素晴らしいです。

 また女性だけではなく、全体のキャリアコースやキャリア意識の向上も重要なポイントかと思います。キャリア自律を促すために、キャリアコースについてなども工夫をされているのでしょうか。

坪井:2024年春から一部、新卒者をコース採用に変えていきます。ジョブ型に寄りすぎてしまうと、キャリアアップを行う際には転職してしまう可能性があります。また専門性を高めすぎると狭くなってしまうということも有ります。

 その為、自分のアンカーとしてのコースを決めながら、その要素を広げていきながら多様な経験もできるようにしていくような取り組みです。例えば私は、マーケのあと広報を行って、人事も行ってきました。私のアンカーはマーケティング。それは相手のインサイトに答えるバリューを創るという意味では、広報も人事も同じだと思っています。

 キャリア開発というと、専門性が先か、多様性が先か、という話になりがちですが、専門性と多様性を切り離さないことが重要だと考えています。社会で通用する強みとして専門性の軸を持ちながら、経営環境の変化に対応できる多様な視点を持った人財を育成することが主眼です。

<連載ラインアップ>
第1回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性管理職の育成のためのプログラム「W50」とは?
第2回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く マネジャーはなぜ社員評価で「前任者との比較」をしないのか
第3回 日本IBM社長山口明夫氏に聞く 女性活躍推進にとどまらない、新しい働き方の追求とは?
第4回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 被災しても工場は撤退せず、同社が進めるCSV経営とは?
第5回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 女性経営職人材が約3倍に増えた「早回しキャリア」とは?
■第6回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く なぜ役員1人が社員10人のメンターを務めるのか?(本稿)
第7回 キリンHD副社長坪井純子氏に聞く 「なりキリンママ・パパ」で試した誰かが抜けても回る仕組みとは

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