伊達政宗が喉から手が出るほど欲しかった家臣の性格、リーダーとしての心得

仙台城本丸跡、伊達政宗騎馬像 写真/Gengorou/イメージマート

 歴史上には様々なリーダー(指導者)が登場してきました。そのなかには、有能なリーダーもいれば、そうではない者もいました。彼らはなぜ成功あるいは失敗したのか?また、リーダーシップの秘訣とは何か?そういったことを日本史上の人物を事例にして考えていきたいと思います

「あやぶまず、心安く用をたす」

 戦国大名・伊達政宗は「独眼竜政宗」として、今なお根強い人気を誇っています。人気を博した大河ドラマ「独眼竜政宗」が現在、再放送中ですが、その政宗の言行を記した書物に『名語集』(政宗公名語集。別名は政宗記)があります。『名語集』が誰の手によって書かれたものなのか、はっきりした事は分かっていません。

 政宗の重臣で『成実記』を記したことで知られる伊達成実が著者ではないかという説。政宗に近侍した重臣が作者だという説。伊達重臣が記した後で、侍女が書き加えたのではないかという説など様々あります。

 ここで作者の推定をすることは控えますが『名語集』はその内容から政宗に側近く仕えた伊達重臣であることは確かでしょう。では、『名語集』には、政宗のどのような言葉が記されているのでしょうか。全てを紹介することはできませんが、リーダーとしての政宗の息遣いが聞こえる言葉を紹介していきます。

 ある時、政宗は次のようなことを話したと言います。「奉公人は身分の高い者も低い者も、手を清めるという心持ちが肝要である」と。普段召し仕っている小姓たちが、自分(政宗)の御前に出れば「髭を抜け、髪をなでよ、刀を持て」というような事を命じられることになります。

 そういった際、手を水で清めて入れば「あやぶまず、心安く用をたす」ことができると政宗は言うのです。手水を使わず、つまり手を洗わず御前に出てきたならば、行き詰まることがあるとも政宗は言っています。手を清めず御用を勤めたならば「気遣いが多いだろう」と言うことです。

 こうした事は、この件に限らず「万事にわたる」ことと政宗は言っています。手を清めるように「心掛けを良くすれば、何事も行き詰まることはない」と言う事を政宗は家臣に言いたかったようです。「多くの人にこの心持ちをたえず持たせたいものだ」と政宗は語っていたということですから、政宗としてはこれまで述べてきたような心掛け、精神を非常に大事に思っていたと言うことでしょう。 

他人への配慮が円満に繋がる

伊達政宗肖像画 土佐光貞筆 東福寺・霊源院所蔵

 政宗の今回の言葉を筆者なりに色々と解釈すれば、先ず、政宗としては、御用の際に手を水で清めて勤めるような家臣を沢山欲しいと思っていたと考えられます。手を水で清めて御用を勤めると言うことは、他人(主君・上司)に対する気遣いであります。また事前に準備をしっかりしてくる人(部下)ということもできるでしょう。

 そこから更に考えていくと、手を清めると言うことは、その人にとって気持ちが良いことであるし、自らの精神を潔める意味合いもあるのではと思われます。手を清めるように「常に心掛けを良くすれば」と言う政宗の言葉から、その事が垣間見えるように筆者は感じます。また政宗は別の時に「人はただ、身分の高い者も低い者も、万事に気を付けることが第一」と語っています。

 主君の用事か自分の用事であっても、他所から宿に帰る時は、供の者が1人でもいたならば、屋敷前から先に帰らせて「只今から帰ります」と言わせよ。供がいない場合は、表に立って、中から聞こえるように「小咳」をしてから入るべしと政宗は言うのでした。

 召し使う者(家臣や小者)は、主人の留守中は「油断」して「不行儀」も様々あるだろう。「小咳」などをして音をさせて中に入る時は、そうした人々も油断はしないと政宗は語ります。これも前の話と同じく、他人への配慮が大事ということでしょう。他人への配慮が事故防止や家中の円満にも繋がっていきます。政宗が欲しかったのは、他人への気遣いができる人間(家臣)ということです。政宗は仙台藩の藩主、一国の指導者です。

 しかし、言行録から見えてくるのは、指導者論だけではなく、家臣論(部下は如何に仕えるべきか)というべきものもあります。家臣論を語るには、やはり部下のことを、いや人間というものを日頃からよく見ている必要があるでしょう。

 HRNOTE編集部編集長の根本慎吾さんは「リーダーとはただ周りを見てうまく動かすだけの人ではありません。常に自分自身を鍛え続け、メンバーを引っ張り、なおかつ適切な指示ができるようになることが求められます。優秀なリーダーは周りの人より才能があり頭が良いことではなく、メンバーに対する配慮を持ち、自分自身に妥協をしない努力を続けるリーダーのことを指すように思います」(根本慎吾「優秀なリーダーが実践する8つの姿勢や考え方」『NRNOTE』2024・5・8)と書いています。

 リーダーもメンバーに対する配慮を持ち、メンバー個々人も他人に対する配慮を持てば、そのグループは円満になり、良い成果を残せるのではないでしょうか。

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