人前で話すことになったら考えたい「3つの問い」
● スライドに使用する写真など素材を集める
● スライドを作成する
● アニメーションやBGMを探す
● 台本を書く
● 質疑応答の想定問答をつくる
● ボイストレーニングをする
● 表情トレーニングをする
● 緊張対策に取り組む
人前での話を成功させるカギは「話す目的」
もし「来週、今やってる業務について役員にプレゼンして」と言われたら、あなたはどう思うでしょうか。
「やった!チャンスが来たぞ」とポジティブに受け止めるか。
「え!急にいわれても無理!!」
「何からやればいいかわからない……」と不安が先に立つか。
いろいろと頭を駆け巡ることがあることでしょう。
人前で話すことが決まったとき、不安に思う方の多くは「うまく話さなきゃ」ということに囚われてしまっています。これが失敗する原因です。
そのプレゼンが失敗できない「ここぞ」という局面であればあるほど最初に絶対にしなければならないこと。それは、以下の3つをよく「考える」ことです。
② メインメッセージは何か
③ あなたは誰か
あなたも実際に自分が話す場面をイメージしながら、一緒に考えてみてください。
プレゼンはプレゼント
そもそも、なぜあなたはそのプレゼンをするのでしょうか。目的は何でしょうか。
「プレゼンをすることになったから」
これでは、プレゼンをすること自体が目的になってしまっています。そうするとうまく話すことを目指してしまいます。「声を大きくする」「滑舌を良くする」といった「話し方」をメインに考えます。
「緊張するなぁ、嫌だなぁ」「ふぅ、やっと終わった」という思考を経るのはすべて、プレゼンをすること自体が目的だからです。
「伝わる人」は、そんなに一人よがりではありません。プレゼンとは、ご存じのように「プレゼンテーション」の略。英語で「表現、提示、紹介」という意味です。広辞苑(第7版)にも「会議などで、計画・企画・意見などを提示・発表すること」として掲載されています。
ビジネス用語としての「プレゼンテーション」は、アメリカの広告業界で使われ始めました。広告主に対して現段階ではまだ目に見えない「広告企画」を提案し採用してもらうため、つまり顧客を獲得する目的で広まっていきました。現在では、広告業界に限らずさまざまなビジネス場面や教育の場でも一般的に行われています。
「プレゼンテーション」の語源は英語の「present」といわれています。動詞では「提示する」「示す」という意味です。名詞では「贈り物」。そのためプレゼンのコツは、贈り物をするように伝えることだともいわれます。「プレゼンはプレゼント」なのです。
それなのに人前で話すことが決まったら、「自分は何を話せるか」ということを考えはじめる方が少なくありません。
自分が話したいこと、話せることを一方的に話すだけでは「伝わる人」とはいえません。あくまで相手が主役であることを覚えておきましょう。
せっかく一生懸命に伝えても、相手が内容を覚えていなければ意味がありません。トップリーダーは話を聞かせるだけでなく、その内容を相手の記憶に刻み込ませることができます。そのためには、コア(中核)となる「メインメッセージ」を明確にする必要があります。
プレゼンで最も伝えたい内容を「メインメッセージ」としてまとめましょう。メインメッセージがない、またははっきりわからない状態は「結局なにが言いたかったの?」となってしまいます。記憶に残りません。
歴史上、名演説として記憶されているもののほとんどは、メインメッセージによって語り継がれています。マーティン・ルーサー・キング牧師がリンカーン記念堂で人種差別の撤廃を呼びかけた「I Have a Dream」(私には夢がある)が適例でしょう。多くの人はそのスピーチの全文ではなく、「I Have a Dream」というメインメッセージだけを記憶に残しています。
メインメッセージは繰り返すことができるためにも、聞き手が覚えられるためにも、短くする必要があります。
2008年アメリカ大統領選挙でのオバマ候補陣営では「change(1語)」や「Yes we can(3語)」など短い語のメインメッセージを発信しました。聞き手を鼓舞するこの印象的なメインメッセージは、すぐに覚えることができます。演説の節目で聴衆が「Yes we can」と声を上げる場面も見られました。結果、アメリカ史上初のアフリカ系の大統領の誕生となったのはご存じのとおりです。
13文字の名詞のみの組み合わせが記憶に残る
話し方の観点では、「13文字」は一息の長さでもあります。メインメッセージは一息で話すことが原則です。言葉の途中で息継ぎをしてはいけません。メッセージの力が弱まるからです。一般成人の平均では、ヒトが一息で話すことができるのは13文字、5秒程度と言われています。もちろん、あなたが肺活量に自信があるのなら13文字以上に長くしてかまいません。
短いフレーズを使って話す効果について、日本で研究された興味深い事例をご紹介しましょう。大学の授業で教員が内容をわかりやすく説明するために提示したキーワードの特徴と、受講した学生の記憶割合との関連について分析したところ、文字数が3〜6文字のものが記憶割合が81.1%と一番高くなりました。
14文字以上の場合、記憶割合は73.9%まで下がったことが報告されています。加えて、名詞のみの組み合わせ(英語、数字、記号も含む)の記憶割合が高い傾向にあることが示唆されました。
「文字数3〜6と少ない名詞のみのキーワードが記憶に残る」というヒントは、ぜひ私たちも取り入れたい知見です。
メインメッセージを決める際に注意すべき点は、話す内容を示したタイトルとメインメッセージを混同しないことです。
例えば、あなたが「会議で新しい企画を提案する」担当になったとしましょう。そこで「新企画提案」「私たちが目指すSDGs」というようなフレーズをメインメッセージに設定するのはお勧めしません。確かにどちらも文字数は少ない短いフレーズですが、これは話す内容でしかないからです。魅力的なメインメッセージにはなりません。
サステナビリティを目指す新しい企画を取り入れることで、どのような未来を手に入れることができるのか。どのような問題を解決することができるのか。聞き手に対するメリットを入れる必要があります。
ちなみに、「THE POWER OF ○○」は、覚えておくと便利なフレーズです。よく使われるメインメッセージの型のひとつです。
「THE POWER OF ○○」
あなたが伝えるとしたら○○には何が入るでしょうか? こうした型を知っておくことも、「伝わる人」への近道となります。
「何を言ったか」より「どのように言ったか」より、大事なのは「誰が言ったか」。トップリーダーであれば、なおさらです。トップリーダーは、その人でないと話せない話を伝える人でもあります。
カリスマたちは「リーダーとしての自分」を上手に操っている
「パペット」とは、人形劇などで使われる操り人形のこと。「セルフ・パペット」とは、「自分」の操り人形のことで、人前に立つときの方法として私が名づけた呼び方です。
「リーダーとしての自分」を操り人形のように俯瞰し、「それを操る自分」と分けて考えるのです。
わたしたちは社会において、周りからさまざまな役割を期待されています。その役割を演じるために「〇〇としての自分」というセルフ・パペットを設定します。これを心理学では「イメージとしての自己」と呼びます。ある状況、ある人物間において共有される「こうあるべき」とみなされる自分のことです。他者が評価するのは、この「イメージとしての自己」、つまり「セルフ・パペット」です。
この「リーダーとしての自分」を俯瞰し、操り人形のように操ることを目指します。それを操る自分は他者に見せません。歴史に名を残すカリスマと呼ばれるリーダーたちは、「リーダーとしての自分」を演じることで、まわりの人々を動かしてきました。
トップリーダーと呼ばれる人こそ「セルフ・パペット」を上手に活用しているのです。当然そこには、リーダーとしての役割と、本当の自分との間にギャップが生じてしまいます。これを心理学では「役割距離」と呼びます。
役割距離は、現代においてはリーダーでなくても誰にでも必要な社会的スキルともいえます。SNSでの匿名発信や、本当の自分とは違うキャラのアカウントで発信することもあるからです。
現代は、だれもが「セルフ・パペット」を操る必要があるのです。現代社会においては、見知らぬ人から非難を浴びることはトップリーダーなど特別な立場にある方だけの問題ではなくなってしまいました。誰もが匿名で言いたいことを言いあえるSNSコミュニティで悪口や誹謗中傷に深く傷つき、本来あってはならない悲しい選択をする方がいることも事実です。
SNS時代の今こそ、自分を守るために「セルフ・パペット」を設定しましょう。「セルフ・パペット」が身代わりとなり、あなたを守ってくれます。
(矢野 香 : 国立大学法人長崎大学准教授・スピーチコンサルタント)
09/05 15:00
東洋経済オンライン