オリンパスに乗り込み改革を後押したアクティビスト、業績回復後も手を引かない最大の理由とは

小樽商科大学教授 手島直樹氏

小樽商科大学教授 手島直樹氏

「物言う株主」「ハゲタカ」といった呼称があるように、ネガティブなイメージを持たれがちなアクティビスト。しかし、アクティビストと協業して再建を成功させた日本企業も少なくない。前編に続き、2024年5月に著書『アクティビズムを飲み込む企業価値創造 高ROE、PBR経営実現への処方箋』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した小樽商科大学教授の手島直樹氏に、アクティビストとの協業事例や企業が実践すべきアクティビスト対策を聞いた。(後編/全2回)

【前編】「残念な企業」を脱して株価急騰、大日本印刷のアクティビスト対応はどこが秀逸だったのか?
■【後編】オリンパスに乗り込み改革を後押したアクティビスト、業績回復後も手を引かない最大の理由とは(今回)

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投資の神様から学ぶ「現代アクティビズム」の要諦

――前編では、アクティビストに狙われやすい企業の特徴や、アクティビスト対応の事例について聞きました。著書『アクティビズムを飲み込む企業価値創造』では、ウォーレン・バフェット氏の実践していたアクティビズム(株主行動主義)について解説していますが、日本企業は「投資の神様」とも呼ばれる同氏から何を学ぶべきでしょうか。

手島 直樹/小樽商科大学教授

慶應義塾大学商学部卒。米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト。1996年、アクセンチュア入社。2001年、日産自動車入社、財務部、IR部を経て2009年に独立し、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月、小樽商科大学准教授。2018年10月より現職。

手島直樹氏(以下敬称略) バフェット氏は長期投資家としてのイメージが強く、アクティビストとして学ぶべき対象と捉えている人は少ないと思います。

 バフェット氏はかつて、自らが企業の大株主、かつボードメンバーになることで、株主還元の強化のみならず経営・事業戦略の要求も同時に行う「現代アクティビズム」を実践してきました。本書では、「現代アクティビズムの父」とも呼ばれるバフェット氏が自ら取締役に名を連ね、経営改革を断行した2社の事例を紹介しています。

 アクティビストとしてのバフェット氏の姿は、現在の同氏のイメージとはかけ離れたものかもしれません。しかし、これからのアクティビストの在り方を学ぶ上で、参考になる点が多くあるはずです。

――今後、株主提案だけにとどまらないアクティビストは増えるのでしょうか。

手島 古典的アクティビズムのように株主還元を求めるだけであれば、企業の外部から声を上げるだけでも良いでしょう。しかし、日本企業に古典的アクティビズムが浸透すれば、次は事業・経営戦略にまで踏み込んだ現代アクティビズムのアプローチが増えてくるはずです。

「アクティビストとの協働」によって再建を果たしたオリンパス

――著書では、現代アクティビズムの一例として、アクティビストと共に再建を進め、時価総額3兆円を実現した大手精密機器メーカーのオリンパスについて解説しています。同社再建を成功に導く鍵になったのは、どのような点でしょうか。

手島 オリンパスの事例は、アクティビズムの象徴的な成功ケースだと考えています。2022年8月、オリンパスは工業用顕微鏡などを手掛ける科学事業を売却し、オリンパス事件を機に着手した約10年に及ぶリストラクチャリングを完了させ、医療機器に特化するピュアプレイ企業に生まれ変わりました。

 この改革で特に重要なのは、米投資ファンドであるバリューアクトの存在です。同社は建設的に対話を進めるアクティビストとして、世界的にも有名なファンドです。オリンパスは約10年に及ぶ再建期間のうち、最後の3年間はバリューアクトから取締役を受け入れ、両社の協働によって変革を進めました。

 もちろん、アクティビストを取締役として受け入れる以上、経営者は企業価値向上のメカニズムを十分に理解している必要があります。さもなければ、企業を丸ごとアクティビストに飲み込まれるリスクがあるからです。

――オリンパスは大きなリスクを受け入れ、アクティビストと共に再建する道を選んだのですね。どの段階からアクティビストを取締役に迎え入れたのでしょうか。

手島 オリンパスは巨額の粉飾決算が明るみに出た事件の後、自力で改革を進め、優良企業として復活しました。しかし、企業価値をさらに向上させるためには、成長性と収益性の高い事業に経営資源を集中させる必要があったため、ここでバリューアクトとの本格的な協働に乗り出しました。

 バリューアクトも多くの実績があるファンドですから、オリンパスに対して短期的な視点での要求はせず、両者が対話を重ねながら根気強く方針を詰めていったのでしょう。そして、確かな信頼関係を築いたことで再建が実現したのだと思います。

 ここで興味深いのは、事業のリストラクチャリングが完了した後にも、オリンパスに対してバリューアクトが取締役を送り込んでいる点です。多くのアクティビストは事業売却など企業価値向上のアジェンダが実現した時点で手を引くことが多いのですが、バリューアクトはオリンパスにさらなる成長ポテンシャルがあると捉えているのでしょう。

 バランスシートも健全化し、十分に収益を上げているように見えても、まだその先の未来を見据えているわけです。これこそ究極の現代アクティビズムの形だと考えています。

アクティビストのように考え、先手を打って行動せよ

――著書では、総合アパレルメーカーである三陽商会の復活劇についても解説しています。同社は2015年、バーバリーのライセンス事業を失った「バーバリー・ショック」の後、6期連続赤字となりました。その後の復活に至った要因はどこにあるのでしょうか。

手島 2023年10月、三陽商会が「PBR改善計画」を公表したことで、PBRは0.6倍弱から0.8倍弱に引き上げられました。同計画では大幅な増配計画が示されたことで、株式市場は同社が完全復活したと判断したはずです。

 三陽商会はアクティビストからの身売りや経営陣刷新の要求に対して「ノー」を貫き、自らリストラクチャリングを進め、経営再建を果たしました。ここで復活を果たした要因は、経営者が「アクティビスト以上にアクティビストだったこと」でしょう。

 三陽商会は2020年の定時株主総会直後に、大手アパレル会社の再建を成功させた大江伸治副社長を社長に昇格させました。大江氏はアパレル業界の動向を深く理解しており、企業再生の実績も有する、まさに再建の適任者でした。そして、バランスシートを大幅にスリム化するなど大胆に経営改革を進めることで、同社を別の会社のように生まれ変わらせたのです。

――企業がアクティビストと対峙する上で、経営陣やボードメンバーにはどのような思考が求められますか。

手島 私は常々「経営者はアクティビスト以上にアクティビストでなければならない」と述べています。例えば、ファーストリテイリングの柳井正会長の元にアクティビストは来ません。柳井会長の方が、他のアクティビストよりも強いアクティビスト思考を持っているからです。「アクティビストのように考え、先に行動すること」こそが最大の防衛策なのです。

 古典的アクティビズムでバランスシートを改善し、現代アクティビズムで経営事業を良くする、という流れを全て自ら行えば、社外からアクティビストが立ち入る余地はなくなります。日本企業の経営者は、「外部から指摘されなければ変革できない」という現状を改めることが必要だと考えています。

 そして、今取り組むべきは「ドラスティックな変化」です。「配当を10円から11円に増配します」では足りません。「利益100%全額還元」も珍しくない時代ですから、前年度対比で目標を設定する漸進主義は捨て去るべきでしょう。

 そこで重要になるのが「CFOの役割」です。古典的アクティビズムを仕掛けられる企業は多くの場合、CFOが機能していません。だからこそ、CFOには大幅なスキルアップが求められます。コーポレートファイナンスのセオリーをしっかりと学び、「アクティビストは自分の会社をどのように見ているのか」を常に考える姿勢こそが求められています。

【前編】「残念な企業」を脱して株価急騰、大日本印刷のアクティビスト対応はどこが秀逸だったのか?
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