西海岸の地下倉庫で創業したアマゾンは、いかに全米物流ネットワークを築いたか?

写真提供: ZUMA Press/共同通信イメージズ

 EC市場の拡大によって物流の重要性が増す中、物流をコストと見なす企業は多い。一方で、物流を「利益を生む機能・部門」として企業戦略に取り込み、成長の足掛かりにしている企業が存在する。物流をプロフィットセンター化するには、どんな戦略が考えられるのか。本連載では、『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』(角井亮一著/日本実業出版社)から、内容の一部を抜粋、再編集。物流によって競合との差別化に成功している企業4社の戦略と取り組みを紹介する。

 第3回は、アマゾンの「スピード」による差別化戦略に焦点を当て、アメリカでの物流ネットワーク構築のプロセスをたどる。

<連載ラインアップ>
第1回 業界1位の座を支えるドミナント戦略、セブン-イレブン独自の「高密度集中出店方式」とは?
第2回 セブン-イレブンはなぜ、全国展開や大都市圏への出店を急がなかったのか?
■第3回 西海岸の地下倉庫で創業したアマゾンは、いかに全米物流ネットワークを築いたか?(本稿)
第4回 コロナ禍で利用率が急増、アマゾンの「宅配部隊」が躍進した背景とは?
■第5回 全品配送料無料の「ヨドバシエクストリーム」は、なぜ最短2時間半で配達できるのか?(7月5日公開)
■第6回 新着は毎日2600点超、年間6000万点を出荷するZOZOの物流拡張計画とは?(7月12日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

アマゾンの「スピード」戦略

顧客をつかむ戦略物流』(日本実業出版社)

 スーパーコンビニエンスを実現している企業として、だれもがまず思い浮かべるのは、世界最大のEC企業、アマゾン(Amazon)です。

 アマゾンは4つの理念、「お客様を起点にすること」「創造への情熱」「優れた運営へのこだわり」「長期的な発想」を指針とし、創業来「地球上で最もお客様を大切にする企業」であることを内外に明言しています。

 物流サービスに関しては、消費者に近づくことにより、配送スピードや利便性を向上させてきました。物流拠点と消費者との距離が近ければ、配達スピードにしても、時間枠に対しても、高い品質を提供し続けられるという考えが基本にあります。

 では同社では、具体的にどのような施策を進めてきたのか。

 アマゾンの日本国内にある物流拠点から考えてみましょう。

■消費地に近い都心部に物流拠点を集中

 現在日本のアマゾンでは、いわゆる物流センターにあたるFC(フルフィルメントセンター)、通過型の出荷拠点になるDS(デリバリーステーション)、アマゾンネットスーパーの専用倉庫、店舗を展開しています。

 FCは25か所以上にあり、いずれも郊外立地で一部は都心部に近い郊外または消費地です。それに対し、消費者へのラストワンマイルを担うDSは50か所以上、消費地に近い都心部に集中しています。

 エリア別では、人口の集中する関東地方が圧倒的に多く(FC11、DS15、ネットスーパー5、店舗1の合計32か所)、関東エリアに全物流拠点の4割が集中しています。次いで近畿エリアが約2割(FC6、DS4、ネットスーパー1の合計11か所)を占めています。2023年には、関東地区(千葉県千葉市と埼玉県狭山市)に2か所FCが新設され、新たなエリアへのDSの開設も進んでいます。

 これら施設にはアマゾンの最新のテクノロジーが、日々、導入されています。作業者が広いFC内を歩き回らなくても、商品の品出し(ピッキング)や棚入れができるように考えられたアマゾンロボティクス(ピッキングする商品の入った棚や、商品を保管する棚を、お掃除ロボットのような形状の自律走行型ロボットが、作業スタッフのそばまで移動させてくる)をはじめとして、自動で箱梱包したり、紙製梱包したりする機械も導入しています。また、コロナ禍には、作業スタッフ間の安全な距離を保つため、どのくらい離れているかをAIカメラで自動検知するテクノロジーの導入もしていました。

■サプライチェーンを短くする物流ネットワーク

 顧客までの配送スピードを最適化するため、消費地に近いところに物流拠点を設けていくアマゾンの取り組みは、事業の立ち上げ時から進められていたことではありません。

 米国アマゾンの場合、西海岸、シアトルの倉庫からスタートし、次に東海岸、そして大消費地へ、さらには消費者のより近くへと、段階的に物流拠点を設け、その機能を変化させてきました。

 当初、アマゾンの物流センター(フルフィルメントセンター:FC)は、本社のある西海岸のシアトル(ワシントン州)に1か所あるだけでした。西海岸から東海岸まで約5000㎞、飛行機での移動だけで5時間もかかる米国では、1か所のFCで全米を対象にしたECを展開するには、どうしてもサプライチェーンが長くなってしまい、商品の仕入れにも、配送にも不便です。

 そこで必要とされたのが、全米を対象にした物流ネットワークです。大胆にも元ウォルマートで物流を担当していたジム・ライト氏を招へいし、物流ネットワーク構想を立ち上げ、アマゾンは物流拠点を全米に増やしていきました。

 物流ネットワーク構想実現の第一歩は、東海岸のデラウェア州へのFC設置でした。大消費地ニューヨークにも近いところに物流拠点を設けたことでサプライチェーンを短くでき、在庫も拡充、広大なアメリカ大陸を東側と西側からはさむかたちで、宅配便を利用して全米に配送するという方法をとりました。

 次に、大手宅配便事業者UPSが航空便のハブとして利用している空港周辺にもFCを多く設置していきました。夜間便を使って大都市に荷物を送る拠点となるハブ空港までの距離を短くすることで、全米ユーザーに大量の荷物を早く届けることが可能になります。そこでUPSのハブ空港があるルイビル周辺に多くの物流センターを設置していきました。

 次に、大消費地に近く、消費税率の低い州に多くFCを設置していきます。コストのかかる航空便の利用をできるだけ減らし、コストの低いトラック輸送を使って低コストでの配送を実現するためです。

 そしてその次に打った手が、アマゾンユーザーが多く住むエリアへのFC展開、消費立地型FCへの戦略転換です。2012年には、消費税が高いことから設置を避けていたカリフォルニア州にもFCを作りました。消費税よりも、顧客への配送スピードを優先したのです。

 その後、アマゾンでは、さらに消費者の近くへ、近くへ、ということで、ソーティングセンター(FCから出荷された梱包済みの商品を行き先別に仕分けるセンター)やデリバリーステーション(DS:ラストワンマイルを担うデポ)を設けていくわけですが、配送のスピードや利便性を高めていくという狙いがありました。

<連載ラインアップ>
第1回 業界1位の座を支えるドミナント戦略、セブン-イレブン独自の「高密度集中出店方式」とは?
第2回 セブン-イレブンはなぜ、全国展開や大都市圏への出店を急がなかったのか?
■第3回 西海岸の地下倉庫で創業したアマゾンは、いかに全米物流ネットワークを築いたか?(本稿)
第4回 コロナ禍で利用率が急増、アマゾンの「宅配部隊」が躍進した背景とは?
■第5回 全品配送料無料の「ヨドバシエクストリーム」は、なぜ最短2時間半で配達できるのか?(7月5日公開)
■第6回 新着は毎日2600点超、年間6000万点を出荷するZOZOの物流拡張計画とは?(7月12日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

ジャンルで探す