セブン-イレブンはなぜ、全国展開や大都市圏への出店を急がなかったのか?

写真提供:共同通信社

 EC市場の拡大によって物流の重要性が増す中、物流をコストと見なす企業は多い。一方で、物流を「利益を生む機能・部門」として企業戦略に取り込み、成長の足掛かりにしている企業が存在する。物流をプロフィットセンター化するには、どんな戦略が考えられるのか。本連載では、『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』(角井亮一著/日本実業出版社)から、内容の一部を抜粋、再編集。物流によって競合との差別化に成功している企業4社の戦略と取り組みを紹介する。

 第2回は、セブン-イレブンの全国展開の歩みを振り返りながら、同社の「高密度集中出店方式」の狙いを明らかにする。

<連載ラインアップ>
第1回 業界1位の座を支えるドミナント戦略、セブン-イレブン独自の「高密度集中出店方式」とは?
■第2回 セブン-イレブンはなぜ、全国展開や大都市圏への出店を急がなかったのか?(本稿)
第3回 西海岸の地下倉庫で創業したアマゾンは、いかに全米物流ネットワークを築いたか?
第4回 コロナ禍で利用率が急増、アマゾンの「宅配部隊」が躍進した背景とは?
■第5回 全品配送料無料の「ヨドバシエクストリーム」は、なぜ最短2時間半で配達できるのか?(7月5日公開)
■第6回 新着は毎日2600点超、年間6000万点を出荷するZOZOの物流拡張計画とは?(7月12日公開)

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顧客をつかむ戦略物流』(日本実業出版社)

■商品を効率よくスピーディに配送する仕組みづくり

 同社では出店地域を拡大するにあたっては、独自の商品を効率よく、かつスピーディに店舗に配送する仕組みづくりを優先し、製造・物流のインフラの拠点内への集中出店を行ない、面での拡大を進めてきました。首都圏を除く大都市圏への出店は急がず、高密度での出店を繰り返し、店舗数や売上規模を拡大してきました。

 たとえば、新規のエリア(都道府県、あるいは北陸3県といった単位)に出店する場合、新規オープンする店舗と合わせて、必ず、専用工場(米飯、総菜・調理パン、焼きたてパン、調理麺など)と、専用配送センター(弁当、おにぎり、焼きたてパンなどを、1日3~4回配送する「米飯共同配送センター」、アイスクリーム、冷凍食品、ロックアイスなどを週3~7回配送する「フローズン共同配送センター」、調理パン、サラダ、総菜、麺類、牛乳などを1日3回配送する「チルド共同配送センター」、ソフトドリンク。カップ麺、酒類、雑貨類などを週2~7回配送する「常温一括共同配送センター」)がセットになっています。

 一般に小売業の場合、出店場所として、人口の集中している立地がよく選ばれますが、セブン-イレブンの出店戦略では、必ずしも人口の多い都市から選ばれるわけではありません。

 同社では2009年2月、山陰エリア初、島根県への初出店として4店舗を同時オープンしました。その際、出店エリアとして選ばれたのは、人口の多い、県庁所在地の松江市(約20万人)や出雲市(約17万人)ではなく、浜田市(2店舗)、江津(ごうつ)市(2店舗)でした。浜田市の人口は県内3番目ですが、松江市や出雲市の3分の1程度の規模(約6万人)しかなく、江津市にいたっては県内で最も人口の少ない市(約2.5万人)でした。

 なぜこの2市が出店の地に選ばれたのか。

 それは専用配送センターのある広島市や廿日市(はつかいち)市と、国道や自動車専用道路でダイレクトにつながる環境にあったからです。鮮度のよい商品を効率よく届けることが優先されているのです。

 首都圏に続く消費市場のある大阪府や愛知県への進出も、けっして早いタイミングではありません。同社は1981年に東証一部(現在の東証プライム)への上場を果たしていますが、それからずいぶん経ってからのことです。1991年サウスランド社の経営破綻により、同社がサウスランド社の株式を取得し米国セブン-イレブンの経営に参画することになるわけですが、その時点では20都道府県で店舗展開していたものの、大阪府や愛知県には未進出でした。そのことから国内事業での拡大余地がまだ十分にあると考え、経営権の取得に動いたともいわれています。

 結局のところ、大阪府への進出は1995年。ローソン1号店(豊中市)の出店から21年遅れての出店になりました。また愛知県への出店は店舗数1万店に近づきつつある2002年のことでした。現在、大阪府での出店は1276店で東京都、神奈川県に次ぐ店舗数、愛知県も1061店と、首都圏の一都三県および大阪府に次ぐ規模になっています。

 単に出店数だけを考えれば、市場の大きなところを中心に全国に幅広く出店をしたほうが、短期的には早く規模を拡大することが可能です。しかし、長期的に見ると、基礎体力という点で大きな課題が生まれてきます。そのことを裏付けていると考えられるのが、全店平均日販の差です。

 三大チェーンのなかでいち早く全国展開を果たしたローソンの全店平均日販は52万2000円ですが、それに対しセブン-イレブンは67万円と大きな開きになっています(ファミリーマートは53万4000円)

 最後に、セブン-イレブンがドミナント戦略、同社のいう「高密度集中出店方式」をとってきた狙いはどこにあったのか、まとめてみます。

 まず、一定の地域内で「セブン-イレブン」が顧客の目に触れる機会を増やし、店名とともに“コンビニエンスストア”という業態をメジャーなものとして認知させることがあげられます。

 次に商品やサービスなどの販売促進に必要な広告宣伝を効率よく実施できます。そして、店舗経営相談員による日々の店舗サポート活動の効率化にもつながっていきます。

 さらには、おにぎり、弁当などセブン-イレブンのオリジナル商品については、高密度集中出店方式を背景に、独自の専用工場の設置や、鮮度よく品質の高いものを提供するための販売時間帯に合わせた計画的な配送を実現し物流効率を最適化しています。

<連載ラインアップ>
第1回 業界1位の座を支えるドミナント戦略、セブン-イレブン独自の「高密度集中出店方式」とは?
■第2回 セブン-イレブンはなぜ、全国展開や大都市圏への出店を急がなかったのか?(本稿)
第3回 西海岸の地下倉庫で創業したアマゾンは、いかに全米物流ネットワークを築いたか?
第4回 コロナ禍で利用率が急増、アマゾンの「宅配部隊」が躍進した背景とは?
■第5回 全品配送料無料の「ヨドバシエクストリーム」は、なぜ最短2時間半で配達できるのか?(7月5日公開)
■第6回 新着は毎日2600点超、年間6000万点を出荷するZOZOの物流拡張計画とは?(7月12日公開)

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