「稼げるハイブリッド車」が握るホンダの未来

ホンダのハイブリッドシステムとして3代目となる「e:HEV」。燃費性能と走行性能を高次元で両立させ人気が高まっている。コスト改善も進んだ結果、エンジン車並みに儲かるようになった(記者撮影)

世界中で電気自動車(EV)に対する期待がはげ落ちる中、相対的に人気が高まっているのがハイブリッド車(HV)だ。8月末にはフォードが、多目的スポーツ車(SUV)タイプの新型モデルについてEVの開発を中止しHVに切り替えるなど、海外自動車メーカーでは開発方針を転換する表明が相次いでいる。

そうしたHV見直しの機運を享受しているのが世界のHVシェアで5割以上を握るトヨタ自動車だ。

同社のHVの販売台数は、2024年3月期が359.4万台(前年同期比32.1%増)、2024年4~6月が99.8万台(同23.8%増)と絶好調。加えて、1台当たり利益がエンジン車と同等、車種によってはHVが上回るまでになっている(「営業利益5兆円超えトヨタ、減益予想で示す覚悟」)。

ホンダを牽引する独自のHVシステム

トヨタほどではないが、HV人気の恩恵を受けているのがホンダだ。

ホンダの2023年のグローバル販売台数は前年比5.6%増の398.9万台だった。うちHVは28%増の80.5万台で、HVの年間販売台数はホンダとして過去最高を記録した。北米で「アコード」や「CR-V」、日本では「フリード」「ヴェゼル」「フィット」のHVモデルが好調だった。

「長年磨き上げてきた成果がようやく出てきた」と藤村英司CFO(最高財務責任者)は胸を張る。藤村氏が言う「成果」が、ホンダ独自のHVシステム「e:HEV(イー・エイチ・イー・ブイ)」だ。

ホンダのミニバン「フリード」。アウトドアテイストの「クロスター」のHVモデル(写真:三木宏章)

HVシステムには、エンジンが発電のみを担いモーターだけで走る「シリーズ方式」、エンジン走行が主でモーターは走行補助として使う「パラレル方式」、エンジンとモーターの両方で走る「シリーズ・パラレル方式」が存在する。

e:HEVはシリーズ・パラレルに近い。やや専門的になるが、駆動源として2モーター内蔵の電気式変速機(CVT)を採用、走行用モーターは駆動軸と、発電用モーターはエンジンと直結している。

「e:HEVの特徴は、モーターが得意とする低・中速領域ではモーターで走行し、エンジンの燃費効率が高まる高速走行時ではエンジンで走行することで、燃費性能と走行性を高めている点だ」と、新型「フリード」で開発責任者を務めた安積悟氏は解説する。

ちなみに、日産自動車の「e-POWER」はシリーズに、トヨタの場合、現行「プリウス」など多くの車種がシリーズ・パラレルに、一部がパラレルに分類される。3方式には一長一短あり、シリーズ・パラレルが原理的に優れているというわけではない。

ただ、「e:HEVでは、モーター走行とエンジン走行の切り替え時に走行への違和感が生じないように徹底的にこだわった」(安積氏)ことで、走行時の快適性が格段に改善。さらに速度に合わせてモーターとエンジンを効率的に使い分けることで、新型フリードHVの燃費は先代のHVモデルより2割向上しており、市場で人気を博している。

e:HEVは採算面でも優等生

ホンダにとってe:HEVは第3世代のHVシステムに当たる(世代の定義によって異なる)。実は、ホンダは日本を除いたグローバル市場で2代目までのHVモデルは積極的に投入してこなかった。というのも、「コスト改善ができていなかったので、HV比率が高まると採算が大変なことになる」(藤村CFO)ためだった。

HVはエンジンに加えて電池やモーター、インバーターを搭載するため、エンジン車よりもコストが高い。だが、e:HEVは素材の見直しや構造の改善によってシステムコストを25%低減することに成功した。三部敏宏社長は、「HVはガソリン車と同等の利益を生み出せるようになっている」と強調する。

HVが採算面でも優等生となったことで、ホンダの経営課題の1つが改善しつつある。

ホンダは年間販売台数が300万台規模だった2010年代前半、「世界600万台体制」を目標に掲げ、派生車種をグローバルで多数展開した。だが、思ったように販売台数は伸びず、開発コストなどが重荷となって4輪事業の営業利益率は1~2%が常態化してしまった。

半導体不足などで生産数量が減った2023年3月期には4輪事業が営業赤字に転落。収益面では完全に「2輪におんぶに抱っこの状況」(ホンダ系部品メーカー首脳)となってしまった。

この苦しい時期に投入されたのがe:HEVだ。コスト改善によって北米などでもHVモデルを次々と投入できるようになった。市場でHVの人気に火がつき、半導体不足の解消で増産が可能になったことも重なり、足元ではHVモデルが5割を占める車種も出てきた。

結果、4輪事業の営業利益率は2024年3月期に4.1%、さらに2024年4~6月期には6.4%へと急浮上している。「HVを含むエンジン車の営業利益率は8%レベルまできている」と藤村CFOは手応えを語る。

課題山積みのEV

一方、新たな課題も出てきた。

2040年に脱エンジンを掲げるホンダ。将来的なEVシフトへの前向きな姿勢は日本メーカーでも群を抜く。だが、皮肉なことにEVでは日本勢の中でもほとんど存在感を示せていない。

ホンダにとって初の量産型EVである「ホンダe」は目標販売台数に遠く及ばないまま2024年1月に生産を終了。ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発するはずだった量販価格帯の中小型EVについては、商品性や価格を含めた製品の着地点が見いだせずに計画は白紙になった。

中国で投入したEVシリーズは中国勢に太刀打ちできず、鳴かず飛ばずの状況が続く。あるホンダ系部品メーカーの首脳は「HVを含めたエンジン車が売れるのはいいが、今後の主力としているEVが本当に売れるのかが重要だ」と不安げに語る。

電池のコストが重いEVで利益を出せているのはテスラや中国・BYDといったごく一部に限られる。そもそもホンダの場合、開発費をかけたEVが売れてもいない。HVを含むエンジン車で8%台と実際の営業利益率の差はEVのマイナスが大きく影響していると見ていい。

EVの勝負どころと考える2020年代後半に向け、2026年以降に0シリーズを順次投入していく(資料:ホンダ)

「EVは2020年代後半が勝負になる」。ホンダ経営陣はEVの販売競争はこれから佳境になると繰り返している。

その勝負どころに向けて、車体技術の新工法「メガキャスト」の導入、全固体電池やEV専用のソフトウェア基盤の開発を進めている。2026年以降には「ホンダ0(ゼロ)」シリーズなど新技術を採用するモデルが立ち上がってくる。ゼロシリーズでは商流の見直しも含めて電池の調達コスト20%削減、自動化や部品集約で生産コストを35%削減(ともに現状比)することを目指している。

日産自動車、三菱自動車とEVやソフトウェア領域の協業検討も始まっている。それらも含めて、ホンダはEV事業立ち上げに2021年から2030年までの10年間に10兆円を投じる。巨額投資を行いながらも、コスト削減と台数拡大を進めることで2030年までにEV事業の営業利益率を5%まで高めるというのが、ホンダが中長期で描く戦略だ。

逆に言えば、EV戦略が順調に進んだとしてもHVとエンジン車の利益率を下回る状態が続く。つまり、4輪事業全体の収益性の足を引っ張ることになる。

HVが全体の5割、エンジン車より儲かるように

だからこそ、HVの業績貢献への使命は重い。

三部社長は「このままいけば2030年ごろには(HV販売が)180万台まで伸びる可能性がある」と自信を示す。180万台となれば、ホンダの4輪販売台数で約5割をHVが占めることになる。

e:HEVについては、さらなる小型化とコスト削減を図っていく考えだ。そのうえ台数も増えれば、HVがエンジン車よりも儲かる状態となる可能性が高い。

ホンダが初めてHVを投入したのは1999年の「インサイト」。プリウスを大ヒットさせたトヨタと共にHV技術を磨き上げてきた。それから四半世紀、ようやく輝きを見せ始めた虎の子が脱エンジンを掲げる2040年までのホンダの命運を左右することになる。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)

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