「EV逆風下の最高益」中国BYDの強さを読み解く

北京にあるBYDの販売店。BYDはEVで中国トップ、世界ではテスラに僅差の2位。PHVでは世界で断トツ(写真:2024 Bloomberg Finance LP)

世界で「電気自動車(EV)失速」ムードが漂う中、急速なEVシフトが進んできた中国でも市場の過熱感の一服が見え始めている。

中国におけるEVやプラグインハイブリッド(PHV)など新エネルギー車(NEV)販売台数は、今年1~6月には前年同期比32.0%増(以下、原則「前年同期比」の記載を省略)となった。ただ、EVだけで見ると11.6%増と、31.9%増だった2023年1~6月からは大幅に減速している。

中国EVの減速要因としては、NEV補助金制度の廃止、消費者から見た走行・充電の利便性の低さがなどが挙げられる。そうした問題は一過性にすぎず、再び成長軌道に回帰することができるのか。

中国のEV最大手、比亜迪(BYD)が8月28日に発表した2024年1〜6月期決算から中国NEV市場の現状と今後の展望を探る(本稿は個人の見解であり所属組織とは関係ありません)。

コロナ前から売上高は4.8倍に

BYDの2024年1~6月の売上高は15.7%増となる3011億元(約6兆1424億円)。新型コロナウイルス禍前の2019年1~6月からはなんと4.8倍である。営業利益は26.2%増の173.2億元で、営業利益率は0.47ポイント上昇の5.75%となった。

純利益も24.4%増の136.3億元と1~6月で過去最高となった。利益水準は中国自動車最大手の上海汽車の2倍に相当する。スウェーデンのボルボ・カー、イギリスのロータスなど海外ブランドを傘下に収め、高級車EV「ZEEKR」も手掛ける中国NEVで第2位の吉利汽車と比べても1.3倍で、その収益力は圧倒的だ。

売上高全体の76%を占める自動車・部品事業の粗利益率は3.2ポイント上昇し23.9%となった。2023年以降、中国自動車市場での価格競争が激化、各メーカーが収益を悪化させている中、BYDは販売費や研究開発費を増やしつつ高い粗利益率を確保した。

中国EV市場が減速するなかでもBYDが収益力を維持できる背景には3つ要因がある。

1つ目は販売台数の増加であり、それを牽引するPHVの強さだ。

BYDのプレミアムブランド仰望(ヤンワン)の「U8」。PHVで、大型SUVでありながら航続距離は1000㎞に達する(筆者撮影)

1〜6月のBYDの新車販売台数は28%増の161.3万台。そのうち、EVが17.7%増だったのに対して、PHVは39.5%増だった。1〜6月の同社販売台数に占めるPHVの割合は55%で、PHVのシェアは前年同期から4.5ポイント上昇した。

EVの減速をPHVでカバーする、まさに二刀流の強みといえる。ちなみに7月(単月)はEVが3.5%減、PHVは66.9%増となっている。

価格破壊と豊富なラインナップでライバルを圧倒

BYD自身がPHVを強化する戦略を鮮明にしている。

今年2月から主力車種(EV、PHVとも)を値下げし、価格競争の口火を切った。中でもライバルに衝撃を与えたのが、コンパクトセダンの「秦PLUS DM-i」。特にPHVの最廉価グレードは約8万元で、購入税10%の免除措置を受ければ、同じセグメントの人気車種である一汽トヨタのカローラのガソリン車モデルより約3割も安くなる。

5月以降、セダン「秦L」や「海豹06」、多目的スポーツ車(SUV)の「宋LDM-i」や「宋PLUS DM-i」、新型スポーツセダン「海豹07DM-i」などのPHVモデルを相次いで投入した。

2つ目は、製品技術の向上だ。

BYDは今年5月、同社の最新PHV技術「第5世代DM-i」を搭載した新モデルを投入し始めた。エンジンの熱効率は世界最高水準となる46.06%、100㎞当たりの燃費は2.9ℓを実現し、PHVの航続距離(エンジン・モーター走行と電動モード走行の組み合わせ)は2100㎞に達した。

日本勢が得意とするハイブリッド車(HV)と比較しても、優位性を持つPHVのパワートレーンを実現した。これまでHVを含むエンジン車に乗っていた消費者が、PHVに乗り換える流れを作り出した。

こうした技術向上を支えるのが研究開発(R&D)に対する積極的な姿勢だ。2024年1~6月のR&D費は41.6%増の211.7億元、純利益の1.5倍に相当する規模である。売上高R&D比率は2022年の4.9%から2024年1~6月には7.0%へと上昇している。研究開発力の強化はBYD躍進の大きな要因だろう。

広東省深圳の本社正門。その敷地はまさに巨大な街である(筆者撮影)

従業員数は75万人

2024年6月末時点での従業員数は75万人に達し、上海汽車の3倍に上る。そのうち10万人規模の研究開発部隊は人海戦術とデジタル技術の融合で技術革新に取り組んでいる。外資系サプライヤーから調達した部品を分析・学習し、製法の開発や機械の内製を実現した事例も少なくない。

3つ目は徹底的コスト削減だ。BYDは独自の技術を採用し、サプライチェーンの垂直統合および規模の経済で強い競争力を維持している。

車載電池やモーターなどのコア部品からランプ、パワー半導体、エアコン、電子部品まで自社で生産しており、ボディーと電池を一体化するCTB(Cell to Body)や、モーターや減速機などの12部品を一体化させた「12 in 1」eアクスルなどを開発し、車両コストの削減につなげている。

成長力でサプライヤーを惹きつけて競争を促す

また部品サプライヤーに対して調達先の固定化を避け、競争を促すことで、常に最も安い部品調達先を確保する調達方針を取っている。BYDが強気な姿勢を取れる背景には、高い成長力でサプライヤーを惹きつけ、優位な立場がある。

BYDは高いコスト競争力を武器に低価格で高性能なPHVの商品ラインナップを充実することでエンジン車メーカーからシェアを奪っている。中国乗用車市場に占めるBYDのシェアは2019年の2.2%から今年1~6月には14.1%へと大きく上昇した。

一方、強さばかりが語られるBYDに死角はないのか。決算データの中でも浮かぶネガティブな要素は3つある。

1つ目は自動車・部品事業の成長が鈍化していること。

2024年1〜6月の同事業の売上高は9%増だった。過去2年間の同事業の売上高平均伸び率(1.6倍)から急ブレーキがかかった。前述した通り、この間の新車販売台数が28%増であり、平均単価が大きく下がっている。果敢な値下げは諸刃の剣といえる。

2つ目は在庫回転日数の長期化だ。

部材の在庫が何日間で入れ替わっているかを示す在庫回転日数は、2023年の72日から2024年1〜6月は78日へと上昇している。ここからも中国NEV市場全体の減速がBYDに影響を与えていることがわかる。

3つ目は営業キャッシュフローが悪化していること。2024年1~6月のキャッシュフローは前年同期の819億元から141億元へと、約83%減少した。サプライチェーンの垂直統合に伴う人件費、部材費の増加が主な原因となっている。

消耗戦に耐え、ホンダ越えへ

中国の新車市場では熾烈な価格競争が繰り広げられており、すでに始まっているEVメーカーの淘汰はさらに加速する見通しだ。他方、消耗戦に耐えて持続的革新に取り組んだメーカーが真の強者になっていく。

BYDはサプライチェーンの競争力を生かし、コストパフォーマンスでグローバル競争に攻勢を仕掛けている。アメリカ・EUが中国のEVシフトを警戒する中、BYDは今年、タイやウズベキスタンで工場を稼働させるほか、インドネシア、ハンガリーやトルコ、ブラジルでEV工場を建設している。

海外市場での販売台数は2024年1~6月に2.7倍の20.3万台となり、通年では50万台に達する見込みだ。この勢いなら、今年の販売台数でBYDが自動車世界7位のホンダを超える可能性は十分にある。

(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員、上海工程技術大学客員教授)

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