日産の4~6月営業益「99%減」も欧州好調なワケ e-POWERの光る存在感、“米中依存”脱却は可能なのか?

売上増も利益急減

カスタムカーの展示会「東京オートサロン」に出店した日産自動車のロゴマーク。千葉市美浜区の幕張メッセ。2022年1月14日撮影(画像:時事)

カスタムカーの展示会「東京オートサロン」に出店した日産自動車のロゴマーク。千葉市美浜区の幕張メッセ。2022年1月14日撮影(画像:時事)

 7月下旬、日産自動車が公表した2024年度第1四半期決算において、「連結営業利益」が対前年同期比-99.2%を記録したことで大きな話題となった。

 連結営業利益は、企業グループ全体の本業による利益を示す指標だ。複数の関連会社を持つ企業の場合、それらをすべて合わせて計算する。具体的には、商品の販売やサービスの提供といった本業から得られる収益から、製造コストや人件費、販売費用などを差し引いたものが「営業利益」だ。これに、グループ内の他の会社の営業利益を合算したものが連結営業利益になる。つまり、

「企業全体が本業でどれだけ稼いだか」

を示す指標で、経営の健康状態や業績を把握するために重要な数値だ。

 さて、日産自動車の2023年度第1四半期決算と比較すると、

・2023年度第1四半期:売上高29177(億円)、営業利益1286(億円)
・2024年度第1四半期:売上高29984(億円)、営業利益10(億円)

 売上高は微増であったが、営業利益が大幅に減少していることがわかる。日産自動車によると、この原因は米国国内における販売競争激化への対応のほか、

・在庫適正化に向けた販売費用
・マーケティング費用の増加

による。ちなみに米国での第1四半期販売台数を比較すると、

・2022年度第1四半期:183(千台)
・2023年度第1四半期:244(千台)、対前年33.4%
・2024年度第1四半期:237(千台)、対前年-3.1%

となっている。2023年度第1四半期は、前年度の半導体不足などによる製造台数減が一段落したことから、対前年33.4%増となった。しかしながら、本年度に入って伸びが鈍化している。背景には、

・モデルイヤーの切り替え
・平均車齢の悪化
・ハイブリッド市場の拡大

がある。日産自動車は、第1四半期決算の発表にあわせて業績予想を見直し、売上高こそ4000億円上積みして14兆円としたものの、営業利益は-1000億円、世界販売台数-5万台(うち北米-2万台)とみている。

欧州市場で急成長中

日産自動車の内田誠社長(画像:日産自動車)

日産自動車の内田誠社長(画像:日産自動車)

 日産自動車は、2024年度第1四半期決算の数値とはうらはらに、欧州では好調を維持していた。

 欧州自動車工業会(ACEA)の集計によると、2023年における欧州連合(EU)、欧州自由貿易連合(EFTA)、英国を合わせた日産自動車の新車販売台数は、29万3000台、対前年23.1%だった。2024年の上半期も17万6000台、対前年18.2%と大きく伸びている。

 欧州日産での乗用車ラインアップは、

・リーフ
・アリア
・キャシュカイ
・ジューク
・エクストレイル
・タウンスターコンビ

であるが、このうちキャシュカイ、ジュークが販売をけん引している。キャシュカイは、英国のサンダーランド工場で欧州向けに生産されているコンパクトスポーツタイプ多目的車(SUV)で、マイルドハイブリッド(フルハイブリッドやプラグインハイブリッド〈PHEV〉に比べて、電動モーターの役割が小さい)とe-POWERの2種類があり、欧州での激戦を戦い抜いている。

 特に、2022年秋から投入されたキャシュカイのe-POWERモデルは、フルハイブリッドのライバル車が少ないうえ、電気自動車(EV)ライクな運転を楽しめると高く評価されているようだ。

「マイルドハイブリッド以上EV以下」

というe-POWERのポジショニングは、少なくとも従来のガソリン車の新車販売ができなくなる2035年までは優位にはたらくだろう。日産自動車は、2026年までの経営計画「The Arc」において、欧州戦略を明確にしている。内訳は、

・新型車6車種の投入
・乗用車のEV販売比率40%以上
・第3世代e-POWERの投入

だ。なお、新型車6車種を投入すると、新車のパワートレイン別の商品ポートフォリオは、EVが4、e-POWERが3、PHEVが3となる。

欧州市場でのポテンシャル

2024年8月28日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

2024年8月28日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

 実は、欧州で販売台数を伸ばしているのは日産自動車だけではない。ここで、ACEAの集計による日系自動車メーカーの販売実績(EU、EFTA、英国)をみてみよう。

●2023年(年間)
・トヨタ:888(千台)10.2% ※レクサス含む
・日産:293(千台)23.1%
・スズキ:187(千台)41.6%
・マツダ:182(千台)30.2%
・ホンダ:60(千台)-9.8%
・三菱:42(千台)-25.1%

●2024年(1~6月)
・トヨタ:522(千台)16.1% ※レクサス含む
・日産:176(千台)18.2%
・スズキ:115(千台)27.6%
・マツダ:93(千台)-0.4%
・ホンダ:41(千台)44.2%
・三菱:37(千台)88.1%

 2023年は、半導体不足や船舶不足による製造台数縮小の反動で、ホンダと三菱を除きプラスとなっている。また、日産自動車をはじめトヨタ、スズキは、2024年(1~6月)もプラスを維持しており、前年に続いて堅調とみてもよいだろう。特にスズキは、

「新型スイフトの投入」

が功を奏し伸びが顕著だ。対前年の伸び率だけみると、多くの日系自動車メーカーが好調を維持しているようにみえるが、年間の販売台数(2023年)では、

・フォルクスワーゲングループ:332万4000台
・ステランティスグループ:212万8000台
・ルノーグループ:124万2000台

の上位勢に対し、トヨタでさえ桁が異なっているのが現状だ。つまり、そもそも欧州市場における

「日系メーカーのパイはそれほど大きくない」

といえなくもない。しかしながら、見方を変えれば成長の余地があることであり、2035年までにどれだけ伸ばせるかにかかっている。

中国製EV関税で見える日産の優位

日産自動車の地域別年間販売台数の割合、2023年度決算(画像:日産自動車のデータを基にMerkmal編集部で作成)

日産自動車の地域別年間販売台数の割合、2023年度決算(画像:日産自動車のデータを基にMerkmal編集部で作成)

 日産自動車の2023年度決算による地域別の年間販売台数は次のとおりだ。

・日本:484(千台)
・北米:1262(千台)※うち米国916(千台、73%)
・欧州:361(千台)
・アジア:961(千台)※うち中国794(千台、83%)
・その他:374(千台)

このように、その大部分が米国と中国に集中している。そのため、日産自動車の経営は、今回の決算のように米国や中国の動向に大きく影響を受けやすい状況にある。リスクを分散するためにも、ルノーとの関係を整理した今、

「欧州市場の重要性」

がさらに増しているといえる。

 欧州は、EVの普及が進みつつあるが、そのような状況下でもテスラの2024年の上半期の販売台数は、12万5000台、対前年-9.1%と息切れしている現状だ。中国製EV勢も報道では目立っているものの、まだ欧州市場に上陸したばかりであり、比亜迪(BYD)ですら2023年の実績では約1万6000台にすぎない。

 さらに中国製EVには、メーカーにより17.4%-37.6%の関税が7月5日から暫定的にかけられている。EUは、11月以降に関税を正式に導入するかどうか議論中であるが、中国製EVに対する関税動向次第では、当面はハイブリッド車がさらに優位になる可能性が高い。そうなれば、日産自動車の欧州市場での快進撃は今しばらく続くかもしれない。

ジャンルで探す