推定22億「ストラディバリウス」と宇宙の深い関係

バイオリン

世界三大バイオリンの1つ「ストラディバリウス」と宇宙との関係は? ※写真はイメージです(写真:eternity/PIXTA)
「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。
知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だ。
そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、やさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』だ。「会話形式でわかりやすい」「親子で学べる」と読者から称賛の声が届いている。
その井筒氏が、「バイオリンの名器・ストラディバリウス」と「宇宙」の関係について解説する。

地球の寒冷化が生んだバイオリンの名器

かの有名なバイオリン「ストラディバリウス」の音色や、フェルメールの「曇り空」。

東大宇宙博士が教えるやわらか宇宙講座: 東大宇宙博士が教える劇的にわかりやすい宇宙入門〈10分で“ほぼ”わかるQ&A付き!〉

これらが宇宙から影響を受けているとしたら……? さらに、「銀河」が生物の「脳」とつながりがあるとしたら……? なかなか興味深い話ですよね。

太陽の表面には「黒点」と呼ばれる黒い点があります。まわりよりも磁場が強い場所で、温度が低いため暗く見えます。過去、1645年から1715年にかけて、この黒点がほとんど現れない期間がありました。

不思議なことに、この時期、地球は「寒冷化」に見舞われ、日本では元禄の飢饉が起き、イギリスではロンドンのテムズ川が凍りました。

じつは、このころに育った木は年輪が密に詰まっていて、それを熟練の腕前で仕立て上げたのが、世界三大バイオリンの1つ「ストラディバリウス」なのです。

なかでも「メシア」と呼ばれる名器は、推定落札価格が約22億円といわれています。

17世紀のオランダ黄金時代に描かれた風景画を見ると、「曇り空」が目を引きます。

たとえば、ヨハネス・フェルメールの『デルフトの眺望』やヤーコプ・ファン・ロイスダールの『ウェイク・ベイ・ドゥールステーデの風車』は、青い空を遮る暗い雲が印象的です。

地球の気候は複雑で寒冷化の原因は解明されていませんが、おもしろい仮説があります。

銀河には、宇宙放射線の一種である「銀河宇宙線」という高いエネルギーをもった粒子が飛び交っていて、ふだんは太陽から地球に吹きつける磁場がバリアの役割を果たしています。

太陽の黒点が少なく、磁場のバリアが弱まると、銀河宇宙線が地球の大気にたくさん飛び込んできます。銀河宇宙線は雲の形成を促し、大量につくられた雲は地球に降り注ぐ太陽光を宇宙に反射させます。このプロセスが続いて寒冷化が進んでしまったのではないか、という説です。

「ストラディバリウス」や「フェルメール」が銀河や太陽とつながっているのかも……。そんなふうに宇宙に思いを馳せながら、音楽や絵画を鑑賞してみるのもおもしろいですよ。

無数の星々が“川”のように並ぶ「銀河」

そもそも銀河とは、一体どのようなものなのでしょうか。

銀河は、「たくさんの星が集まったもの」のことをいいます。ざっと100億から1000億個の星がありますが、「何個以上集まったら銀河」という明確な決まりはありません。

七夕で有名な「天の川」の正体も銀河です。地球を含む太陽系が所属している銀河は、他の銀河と区別して「天の川銀河」や「銀河系」といいます。

もともとは太古の人々が「夏の夜空にかかる白いもやもや」を川に見立てて、「天の川」や「銀河」と名づけていました。

天の川が「無数の星の集まり」であることを発見したのは、あの有名なガリレオ・ガリレイです。17世紀初め、ガリレオは望遠鏡を自作し、世界で初めて夜空に向けました。

ガリレオは、天の川の正体だけでなく、地球を中心に天体が回る「天動説」を否定し、太陽を中心に天体が回る「地動説」を支持する証拠も発見しました。天体望遠鏡の発明により、地球は宇宙の中心ではないことが明らかになったのです。

18世紀、天王星の発見者であるハーシェルが、天の川の星々が円盤のように分布し、太陽もその一員であることを発見します。地球にとって特別な存在である太陽は、天の川銀河にある恒星の1つにすぎないことになりました。

ほんの100年ほど前までは、この天の川銀河が宇宙のすべてでした。しかし、20世紀、ハッブルが天の川銀河の外にある銀河を発見し、天の川銀河は数ある銀河の1つにすぎないことが暴かれました。

このようにして、天の川の正体を探る試みは、人類の宇宙観を大きく広げてきたのです。

銀河にも「ご近所づきあい」がある

天の川銀河には約2000億個の恒星があり、渦を巻くようにきれいに並んでいます。太陽系は天の川銀河の中心から外れたところにあります。

天の川銀河の大きさが首都圏くらいで、その中心が東京駅にあるとすると、太陽系の位置は、群馬・栃木・茨城の南部あたりになります。都心からやや離れたところというイメージですね。

天の川銀河から辺りを見渡してみると、宇宙にはたくさんの銀河があることがわかります。銀河と銀河がある程度近くにある場合、重力でつながりあって集団をつくるのです。

銀河同士で、ご近所づきあいのようなつながりがあるということです。

銀河の数が少ないものを「銀河群」、多いものを「銀河団」といいます。

天の川銀河は、50個以上の銀河が集まる「局所銀河群」という銀河群に所属しています。

ちなみに、局所銀河群のお隣には「おとめ座銀河団」があって、そこには3000個以上の銀河が集まっています。お隣さんのグループは、ずいぶんと大所帯ですね。

もっと遠く離れてみると、銀河群や銀河団が連なって「超銀河団」を形成していることがわかります。私たちの「局所銀河群」は、お隣の「おとめ座銀河団」と一緒に、「局所超銀河団」という超銀河団に所属しています。

この局所超銀河団は、その100倍大きな「ラニアケア超銀河団」に含まれています。

さらに離れて、宇宙全体が見渡せるところまで行ってみましょう。

無数の銀河は宇宙全体にバラバラに散らばっているわけでなく、特徴的な形をつくっていることに気づきます。宇宙では、銀河団や超銀河団のように銀河が集まっている部分と、銀河がまったくない部分に分かれています。

「宇宙の泡構造」のイラスト

銀河が密集している部分と、まったくない部分がある「宇宙の泡構造」(画像:『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』より)

まるで都市部と山間部のように、宇宙には銀河の密集地と過疎地があるのです。

銀河がないエリアは、銀河が連なった部分に囲まれるような形になっています。これを「宇宙の大規模構造」といいます。せっけんの泡がくっつき合うようにも見えるので、「宇宙の泡構造」とも呼ばれていて、宇宙で最も大きな構造物です。

おもしろいことに、「『銀河の連なり』と『脳の神経細胞の連なり』が似ている」と指摘する論文があります。

もしかしたら宇宙は、巨大な生物の脳みそなのかも!? そんなSFチックなことを想像してしまうぐらい、ロマンがある話ですよね。

脳のイラスト

「銀河の連なり」と「脳の神経細胞の連なり」は似ている(画像:『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』より)

宇宙のなかの「地球の住所」は……

大きな視点から、宇宙のなかのどこに地球があるのかを整理しておきましょう。

地球の住所は、「ラニアケア超銀河団・局所超銀河団・局所銀河群・天の川銀河・太陽系・地球」ということになります。

宇宙には、たくさんの銀河が織りなす「宇宙の大規模構造」があり、そのなかに、銀河の密集した超銀河団があります。その1つの「ラニアケア超銀河団」のなかに「局所超銀河団」があり、そのなかに「局所銀河群」があって、そこには数十個の銀河が所属しています。

そのなかの1つが「天の川銀河」で、天の川銀河の郊外に太陽系があり、太陽系の一等地に地球があります。私たちは空気と地磁気に守られながら、くるくると回り続ける地球の上で1日1日を過ごしているのです。

宇宙は壮大ですね。宇宙と比べたら、どんな人も「無」みたいなものです。

でもそんなちっぽけな私たちが、宇宙の大きな構造にまで考えを及ぼすことができるーーこれって、すごいことですよね?

広大な宇宙は、「人の存在の小ささ」と同時に、「人の可能性の大きさ」も気づかせてくれるのです。

(イラスト:村上テツヤ)

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))

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