地球とほぼ同じ構造「金星」実は全然違う環境の訳

金星と月

地球と似た地形を持つ金星ですが、人類が住むことはできそうにありません(画像: kawasan/PIXTA)
太陽系の惑星の中でも、地球から比較的近い場所にある金星。「地球とほぼ同じ構造を持ちながらも、生命はいない」など、知らないことも多いのではないでしょうか?
宇宙 すずちゃんねるさんの『眠れない夜に読みたくなる宇宙の話80』よりお届けします。

地球とほぼ同じ構造を持つ惑星「金星」。金星は、太陽系の惑星の中で最も明るく輝くことでも有名です。日の入り後に西の空で光り輝く金星は「宵の明星」、そして日の出前に東の空で輝く金星は「明けの明星」と呼ばれ、古くより親しまれてきました。

地球と金星の分かれ道―「双子の惑星」金星になぜ生命はいないのか

太陽系の惑星は、太陽を中心に水星、金星、地球の順でまわっています。金星は地球の内側をまわっていて、地球と同じく硬い地面を持っています。また、中心に鉄やニッケルから成る核があり、その周りをマントルが包み込んで、まるで卵の殻のような地殻があるところも地球と似ています。

金星はすっぽりと分厚い雲に覆われていて、金星本体の姿を見ることはできません。分厚い雲の下は、光がほとんど届かずに薄暗く、その大気は96%が二酸化炭素で、硫酸の雲が金星全体を覆っているのです。この硫酸の雲が太陽の光を反射するため、金星は輝いて見えます。

また、金星の大気の二酸化炭素には熱を吸収し、気温を上昇させる特徴があります。そのため金星の表面温度は400度以上の灼熱で、気圧も地球の90倍という信じられないほどに高温・高圧の世界です。もしかするとそこは、温暖化の究極の姿なのかもしれません。

そのほか、大気の上部では秒速100mにもなる超高速の風が吹いています。なぜこのような強風が吹いているかは、日本の金星探査機「あかつき」によって少しずつ明らかになりつつあります。

金星や水星の過酷な環境を知れば知るほど、地球の豊かな環境が不思議でならないのです。

金星

マリナー10号が撮影した金星(写真:NASA/JPL)

地球との分かれ道

金星と地球は、ほぼ同じ大きさと密度を持っています。そのため「双子の惑星」と呼ばれてきました。しかし、地球には海があり、生命が存在するのに適した温度に保たれている一方で、金星は灼熱で、生物が住むのに適した環境ではありません。

2つの惑星は、どうしてこれほどまでに異なる環境になったのでしょうか。そこには、太陽からの距離が関係しています。金星は地球よりも4200万㎞ほど太陽に近く、この差が2つの惑星の分かれ道となりました。

誕生したばかりの頃、金星も地球もどちらも惑星全体がドロドロに溶けたマグマオーシャン(マグマの海)の状態でした。そしてどちらの惑星にも、大気中には水蒸気の状態で水が存在していました。しかし、太陽と距離が近い金星では、あまりの高温により水蒸気が液体の水になれなかったと考えられています。

一方で、地球では液体状態で水が存在することができ、海ができました。また、金星にも存在した二酸化炭素の大気が海に溶け込むことで、今のような生命豊かな環境になったのです。

金星の表面温度は400度以上、気圧も地球の90倍と高圧ですが、地面に着陸することなく、上空から電波を使うことで表面の地形を調査することができます。

1989年に打ち上げられた探査機「マゼラン」は、このような方法で金星の地形のほぼすべてを調べ上げました。その結果、標高1万m 以上の山や大きな火山、さらには大陸といった、地球と似た地形が存在していることがわかりました。また、巨大隕石衝突の跡や地滑りが起こった様子なども観測されています。

これほどまでに地球と似た地形を持つ金星ですが、その過酷な環境のため、人類が住むことはできそうにありません。

金星の火山

マゼラン探査機が確認した、金星の火山(写真:NASA/JPL/ESA)

謎多き水星

太陽系の惑星の中で、太陽の最も近くをまわる「水星」。そのため、太陽の光が当たる昼間は400度を超え、まさしく灼熱の惑星です。

水星は他の惑星と比べて、地球からの距離が近いので身近なイメージがありますが、実は観測するのが難しい惑星でもあります。なぜなら、水星は地球よりも太陽に近い軌道をまわるため、地球が太陽を背にした夜には地球の裏側に水星が位置することになるので、私たちは観測に適した夜に水星を見ることができないからです。水星を見られるのは、太陽が沈んだ直後や日の出直前の短い時間だけです。とても観測が難しいために、他の惑星に比べて、長い間謎の多い惑星でした。

1973年には初の惑星探査機「マリナー10号」が打ち上げられましたが、水星への到達は他の惑星よりも、段違いに難しいものでした。

その原因はやはり太陽です。水星に向かうということは、同時に太陽にも近づくということ。強い日光や熱、強力な重力が探査機を襲います。太陽の重力はすさまじく、探査機はまるで坂を転げ落ちるように加速してしまいます。そのため、逆噴射で急ブレーキをかけて減速しなければ、水星の軌道に入ることができず、膨大なエネルギーが必要になるのです。このような理由から、これまで水星を訪れた探査機は「マリナー10号」と2004年に打ち上げられた「メッセンジャー」の2機だけです。

水星の昼の表面温度は430度にも達し、逆に夜には熱が宇宙空間に逃げるためにマイナス170度まで冷えてしまいます。これは地球と比べて、水星の重力が小さいがために、大気がとどまることなくほとんど逃げてしまうのが原因です。昼と夜の温度差が600度もある過酷な環境なのです。

まだまだ謎の多い水星。宇宙の魅力をいっそう膨らませてくれます。

水星

メッセンジャーが撮影した水星(写真:NASA/Johns Hopkins Univ./Carnegie Institution)

光る尾

実は水星には、非常に薄い大気も存在します。大気からは水素、ヘリウム、酸素、ナトリウムなどが検出されています。このナトリウムの大気があることで、地球のオーロラの100倍以上の明るさで輝く、「光る尾」ができます。この光る尾は2001年に発見されましたが、そもそもなぜナトリウムを含む大気が生成されるのか、その詳しいメカニズムはまだわかっていません。

太陽に近く、灼熱の惑星でありながら、揮発(液体が気体になる)しやすい物質が多くあることから、水星は太陽から離れた場所で誕生し、その後何らかの原因で今の場所に移動してきたのではないかとも考えられています。

また、「マリナー10号」の調査によって、水星には地球と同じように磁場があることがわかりました。これは地球同様、内部ではドロドロに溶けた核が対流し、今も活動をしている天体だからと考えられます。

眠れない夜に読みたくなる宇宙の話80

ほかにも、水星では地殻変動によってできた地形やたくさんのクレーター、火山活動後の溶岩が広がった跡なども確認することができます。

最近では探査機によって、予想以上の発見が次々とされてきた水星ですが、さらに謎を解き明かすべく、水星探査計画「ベピコロンボ」が新たに始まっています。「ベピコロンボ」はJAXAと欧州宇宙機関(ESA)共同のプロジェクトで、2018年に打ち上げられ、2025年に観測が始まる予定です。

これまで何十万枚もの画像を送ってくれたNASAの探査機「メッセンジャー」は燃料を使い果たし、2015年5月、水星表面に落下して終わりを迎えました。その際、時速1万4000㎞の速さで落下し、直径16mのクレーターを作ったと考えられています。

(宇宙 すずちゃんねる : 宇宙科学YouTubeチャンネル)

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