5000円でかに食べ放題「かにざんまい」驚きの中身
家族で食事に行くとしたら、どんな店を選ぶだろうか。ファミレスや回転寿司店、焼肉店、ステーキやハンバーグのチェーン店あたりが相場だろう。先日、妻と食事へ行こうと思い、愛知県小牧市を車で走らせていると「寿司かに食べ放題」という看板が目に飛び込んできた。寿司食べ放題はともかく、かに食べ放題はこれまで見たことがなかったので、行ってみることにした。
かに食べ放題4980円を実食調査
その店の名前は「かにざんまい」。メニューを見ると、4980円(税込5478円)の「ズワイ蟹食べ放題コース」や5980円(税込6578円)の「本ズワイ蟹食べ放題コース」もある。ズワイ蟹と本ズワイ蟹とではどんな違いがあるのだろうか。
「ズワイ蟹のコースの蟹は、紅ズワイ蟹やトゲズワイ蟹になります。本ズワイ蟹のコースは本ズワイ蟹とズワイ蟹が食べ放題になります」と、店員さん。
コースは他にもタラバ蟹と本ズワイ蟹、ズワイ蟹が食べ放題の「タラバ蟹食べ放題コース」(税込1万5180円)もあるが、さすがに誕生日や記念日でもない日に注文するのは無理がある。また、かにはゆでたものが提供されるが、300円(税込330円)で炉端焼きコンロで炙り焼きも楽しめる。コンロ1台につきかに味噌甲羅焼きがサービスされるほか、大アサリや殻付きホタテ、有頭海老など海鮮焼きセットも注文可能となる。
やはり、ここはいちばんお値打ちな「ズワイ蟹食べ放題コース」を注文して、看板に偽りがないのかを確かめることにした。コースの内容は、ズワイ蟹と寿司、揚げ物や酒肴、デザートなどのサイドメニューが100分間食べ放題で、ここ小牧店ではソフトドリンクやソフトクリームもフリーとなる。
いざ、身をほぐす!ボリュームはいかに?
モクモクと立ち上るドライアイスの煙とともに運ばれたのは、おけに入ったかにの肩脚が4肩。ということは、1人2肩。つまり、かに1杯分に相当する。と、ここで嫌な思い出が頭をよぎった。
それは結婚してまだ間もない頃、「かに食べ放題」に釣られて家族で泊まったあるホテルでのビュッフェでの出来事だ。喜び勇んでかにを取りに行ったものの、競争率が高くてあまり食べられなかったうえにかにの身がスカスカだったのだ。私も家族もガッカリした思い出である。まさかここはそんなことはないだろうな。いや、あってはならないのだ。
そこで、提供されたすべての肩脚の身をほぐして、どれだけのボリュームになるのかを確かめてみることに。卓上にある手袋をはめて、ハサミとカニスプーンを使って黙々とほぐしていく。おっ、身はパンパンに詰まっているとまではいかないものの、わりとしっかり入っているではないか。妻もテンションが上がり、夢中でかに脚から身をほじくり出している。私も妻も終始無言だったが、夫婦で共同作業をするのは久しぶりである。
身をほぐす合間に注文したサイドメニューの寿司やかにクリームコロッケ、かに焼売などのサイドメニューを食す。「ズワイ蟹食べ放題コース」のサイドメニューはデザートも合わせると30種類近く用意していて、「本ズワイ蟹食べ放題コース」よりも上のコースになるとサイドメニューの種類が増えるほか、いくらや中トロ、うなぎ、うになど時季ごとに期間限定で開催している厳選食材を使った料理も食べ放題となる。
が、あくまでもここのメインはかに。兎にも角にもかにをお腹いっぱい食べたいのだ。サイドメニューの注文は控えめにして、かに身をほぐすことに没頭した。
30分以上かけてようやくすべてのかに肩脚から身をほぐした。その量は丼1杯分よりも多いくらいで、かなり食べがいがある。まずはそのまま食べて、やや飽きたところで卓上のかに酢につけていただく。
うん、これこれ! やっぱりかにはうまい! そりゃ本ズワイ蟹やタラバカニと比較したら味は劣るかもしれないが、紅ズワイ蟹やトゲズワイ蟹もほのかに甘みがあって、十分美味しかった。とくに爪の部分の身は締まっていて濃厚な味わいを堪能することができた。
この後、私と妻でかにを1肩ずつおかわりして、セルフコーナーのコーヒーとソフトクリームで締めくくった。しばらくはかにを見るのも嫌になるくらい食べたので、かにで満腹になるという目的を十分に果たすことができたと思う。
実現したのは仕入れ業者のおかげ
気になるのは、「かに食べ放題」という大胆なコンセプトをどのように実現させたのかということ。「かにざんまい」を運営するK-FOODSの代表取締役社長の米吉健二さんに話を聞いた。
K-FOODSの設立は2011年。現在、「かにざんまい」のほか「横浜家系ラーメン こめよし家」や「イタリアン酒場 THANK YOU2000 栄中央店」なども手がけている。米吉さんは大手不動産会社から独立し、個室ダイニングのFC加盟店を経営したのが飲食業のスタートだった。
「FC契約は7、8年で終えて、個室居酒屋へとリニューアルしました。料理はトリュフやキャビア、フォアグラ、アワビ、伊勢海老などを使った高級志向でしたが、ドリンクを全品180円にしたところ、それが好評を博して人気店となりました。周りにある多くの店に模倣されましたね」(米吉さん)
実はFC加盟店からリニューアルした個室居酒屋こそが、2023年4月に「かにざんまい」の1号店である栄店としてオープンすることになる。「かに食べ放題」という着想はどこから得たのだろうか。
「もともとビルから店を撤退させる予定だったんです。でも、その前にやりたいことをやってみようと。そういえば、かに食べ放題はあまり聞いたことがない。それならやってみようと思ったのがきっかけでした。幸運なことに、弊社のニーズに応えてくれる水産会社と出会ったおかげで実現することができました。仕入れ業者の皆様と一緒に店を作ってきたと思っています」(米吉さん)
「かに食べ放題」と銘打っていても、実際はかによりも海鮮などほかのメニューのほうが多かったり、かにが旬を迎える冬場限定だったりすることも少なくはない。しかし、「かにざんまい」はかにそのものがメインであり、満腹になるまでかにを堪能できるのがコンセプトである。しかも、ビュッフェスタイルではなく、オーダーバイキングなので他の客とかにを取り合うこともない。
ネットを見た外国人観光客も多く訪れる
名古屋・栄でのオープンを皮切りに、これまで愛知県東海市と小牧市、豊田市、豊橋市、日進市にも出店している。栄店以外はすべて郊外にあり、広々とした駐車場も完備している店も多いところから、ファミリー層をターゲットにしていることがわかる。
筆者が暮らす愛知県の場合、かに食べ放題は、かにの産地である石川や福井、富山の旅館やホテルが観光の目玉企画として実施していて、バスツアーなどに参加するか個人で予約して現地へ行くしか方法はなかった。
しかし、「かにざんまい」は近場で、それも季節を問わずに楽しめるだけに、コロナ禍でも売り上げを伸ばした回転寿司店や焼肉店のように家族で食事へ行く際の選択肢の一つになるのは間違いないだろう。
一方、都市部にある栄店は、外国人観光客も数多く訪れる。円安の影響で彼らにとって、4980円のズワイ蟹食べ放題は2500円くらいの感覚だろうから、かなりお得感があるはずだ。実際、SNSや旅行サイトへ投稿された情報を見て来店するケースが多いという。
今年8月に東京のJR吉祥寺駅前にオープンした吉祥寺店は、名古屋・栄にある栄店と同様に都市部にある。ここを足がかりとしてFC展開も含めて全国に進出することを考えているようだ。東海エリアでは、今年9月上旬には愛知県岡崎市に、10月中旬には三重県鈴鹿市にオープンする予定とか。
しかし、素人目からすると、どうしてもかにの安定供給を心配してしまう。
「年を追うごとにかにの価格は高騰し続けていますが、大量に仕入れるからこそ、この価格で提供できるのです。おそらく、真似をする同業者も出てくるでしょうが、先行優位性もありますのでどんどん出店していきたいとは思っています。仕入れ業者さんから、かにを買ってほしいとイレギュラーで連絡をもらうこともあります。その場合、通常よりも安く仕入れることができるので、すべて買い取ります」(米吉さん)
なお、どの店舗も土・日・祝の予約が困難な状況は今も続いているそうだが、平日であればまだ余裕があるという。次回は「本ズワイ蟹食べ放題コース」にランクアップして、紅ズワイ蟹やトゲズワイ蟹との味の違いを確かめたいと思っている。
(永谷 正樹 : フードライター、フォトグラファー)
09/21 09:00
東洋経済オンライン