「10・27衆院選」は小泉進次郎首相になっても困難か

(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP)

岸田文雄首相(自民党総裁)の後継者による新政権が誕生する次期臨時国会の10月1日召集が事実上確定した。18日の自民、立憲民主国対委員長会談で自民側が伝えたもので、政府は24日の衆参両院の議院運営委員会で正式に伝達、これを受け、1日の臨時国会初日に自民新総裁が新首相に指名され、直ちに組閣を行って同夜に新政権が発足する段取りが想定される。

そこで多くの政界関係者が注目しているのが、新首相がいつ、衆院解散を断行するかという点。ただ、「そもそも誰が総裁選を勝ち抜いて首相の座に就くかで、状況が変わる」(自民長老)との指摘もある。進行中の自民総裁選でのいわゆる“3強”とされる候補の中で、「できるだけ早く」と、事実上の「冒頭解散」断行を狙っているとされるのが小泉進次郎元環境相だが、野党側は衆参代表質問後の衆参予算委や党首討論を求めている。

そもそも「国会日程は与野党合意を優先せざるを得ない」(自民国対幹部)こともあり、「一時有力視された『10・27衆院選』は、極めて困難になりつつある」(同)との見方が広がる。

そうした状況も踏まえ、自民党内でも「誰が新首相になってもで『10月29日公示・11月10日投開票』が本命」(長老)との指摘が相次ぐ。新首相の有力候補とされる石破茂元幹事長も総裁選討論の中で、「衆院解散前に衆参予算委審議や党首討論の実施」にも言及しており、「石破首相なら最速でも11月10日投開票」(自民国対)とみられるからだ。さらに、与野党双方に「アメリカ大統領選の結果をみてから解散すべきだ」(閣僚経験者)との声も出ており、「状況次第では11月5日(日本時間6日)のアメリカ大統領選後に解散し、12月1日か8日の投開票となる」(同)との日程も取り沙汰されている。

いずれにしても、「これまでも新首相の鮮度が失われないうちの解散が自民党の常識だったので、衆院選が年明け以降に先送りされる可能性はほとんどない」(政治ジャーナリスト)との見方が支配的。しかし、そうした自民党の思惑が国民に見透かされれば「選挙で手痛いしっぺ返しを受ける可能性」(同)もあり、だからこそ臨時国会序盤での新首相の対応が注目されることになる。

立憲民主・安住氏が「解散前の予算委開催」などを要求

自民党の浜田靖一国対委員長は18日、立憲民主党の安住淳国対委員長と国会内で会談し、首相指名選挙を行う臨時国会を10月1日に召集する方針を伝えた。政府が24日の衆参両院議院運営委員会で正式に提示することを受け、臨時国会冒頭の首相指名選挙で、27日投開票の自民総裁選で選出される新総裁が第102代首相に選ばれる段取りだ。

この会談で安住氏は、臨時国会会期中に衆参の各党代表質問に加え、予算委員会での質疑も行うべきだと主張。これに対し浜田氏は、「臨時国会の会期や議事日程は新総裁の下で判断する」と説明した。自民総裁選では石破氏が予算委の質疑などを経てからの衆院解散を主張しているのに対し、小泉氏は解散前の予算委開催に否定的な考えをにじませるなど見解が分かれている。これについて安住氏は、会談後に記者団に対し、小泉氏の姿勢を念頭に「候補者のおごりだ。(新首相が)方針を示したうえで信を問わないと、政治の正道を踏み外す」と厳しく批判した。

一方、会談では安住氏が自民派閥裏金事件に関わった議員への質疑を衆参の政治倫理審査会で行うことを要求するとともに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題に関する再調査と国会報告も求めた。加えて、旧優生保護法の被害者補償法案や選挙ポスターの品位保持を求める公職選挙法改正案の成立を急ぐべきだとの考えも示したが、自民党側は「持ち帰って検討する」との対応にとどめた。

「有権者への判断材料提供が政治の義務」と石破氏

これに先立ち石破氏は、17日のTBS情報番組で、「(新首相が)有権者に判断してもらう材料をきちんと提供するのは政治の義務だ。場合によっては党首討論もあるかもしれない」と発言。ただ、具体的な解散時期については「適宜適切に判断されないといけない」と明言を避けた。石破氏は14日の日本記者クラブ主催の討論会で、衆院解散をする前に所信表明演説や各党の代表質問に加え予算委員会まで開催して、政権の方針を示すことが望ましいとの考えを示しており、17日の番組ではさら党首討論にまでに踏み込んだことが注目された。

そこで、3年前の岸田文雄政権発足時の衆院解散を巡る動きを振り返ると、岸田氏は10月4日に召集された臨時国会での首相指名・組閣を受け、同日夜の首相官邸での記者会見で「10月14日に解散する」と明言。立憲民主の安住国対委員長も「受けて立つ」とこれに応じ、その時点で衆院選の10月31日投開票が決まった。その裏舞台について当時の岸田首相側近は「岸田総理が組閣後の会見で解散日を明言したことで、公職選挙法上はその時点で解散されたとみなされ、『10・31投開票』が決まった」と解説した。

仮にこれを今回に当てはめれば、新首相が10月1日の組閣後の記者会見で「衆参代表質問が終了予定の10月9日か翌10日の解散断行を宣言すれば、『10・27投開票』が可能となる」(自民国対)とみられている。ただ、前回と違い、野党側は「衆参両院予算委質疑や党首討論開催」などを求めており、「国会日程は政府ではなく与野党協議に委ねられるので、前回と同様の戦略は通用しない」(同)との見方が広がる。

小泉氏は、総裁選での討論開始時から「われわれは今、総理大臣になったら何をするのか話している。それまでの主張をガラッと変えて選挙をする人はいますか?」と述べる一方「政治と金の問題があって、早く国民の皆さまに信を問うたことを礎として政権運営をしなければ、どんな政策も前に進まない」と繰り返している。しかし、石破氏だけでなく他候補も「解散前の丁寧な国会審議」を否定しておらず、小泉氏が突出している状況だ。

「10月解散」ならASEAN首脳会議への新首相出席も難題に

そうした中、各種世論調査などで予想外の苦戦が伝えられている小泉陣営では「国民からみても解散を巡る小泉氏の発言が国会無視と受け止められると、さらなるダメージになりかねない」(無派閥若手)と不安視する声が広がり、ここにきて小泉氏の発言ぶりにも慎重さが増している。

15年ぶりの公明党代表交代による退任が決まった山口那津男代表は、14日の東京MX「田村淳の訊きたい放題!」で、次期衆院選について「早ければ10月27日。準備は大変だが可能性はある。11月10日も可能性がある」と指摘したうえで「幅があるが大体どれかになる。どうするかは次の首相が選ぶ」として新首相の判断が優先するとの見方を示した。

ただ、本命に浮上した11・10投開票となると、外交日程も絡んでくる。というのも、現職首相が毎年出席している東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本が関連する首脳会議は、ラオスで10月10日ごろに開かれる見通しだからだ。政府部内では「これに新首相が行くとなると、解散断行が想定される10月9日と完全にぶつかる」(外務省幹部)と頭を抱える。自民党内には「衆院選への対応を優先し、新首相が首脳会議を欠席するという選択肢もある」(閣僚経験者)との声もあるが、「誰が首相になっても、対応次第でトップリーダーとしての資質も問われる」(自民長老)ことになりそうだ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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