2024年問題で加速、ファンドが仕掛ける物流再編
物流大手のトランコムは9月17日、MBO(経営陣が参加する買収)を実施すると発表した。物流センター運営事業や、荷物情報とトラックのマッチング事業などを行うトランコムは、1959年設立で1995年に株式上場した老舗だ。近年は業績の伸び悩みに直面してきた。
物流業界は2024年4月に残業の上限規制が導入され、拘束時間や休息時間などの規制も強化される「物流2024年問題」を迎えている。長距離トラックドライバーの待遇改善が中心で、運送会社にとってコストの増加は避けられない。一方で物価高による消費の停滞で、業界全体で荷物量が少ない状態が続くという“二重苦”にあえいでいる。
大株主に投資ファンド
トランコムも、マッチング事業で荷主との運賃交渉を進めてきたが、なかなか荷主の理解が得られず、協力会社に支払う運賃の増加が先行するという厳しい状態が続いていた。
神野裕弘社長は6月の東洋経済の取材で「荷主に対し値上げ交渉ができているかというと、うまくはいっていない。業界全体を見渡しても、今上期は特に厳しい。コストを下げたい荷主が多い」と語っていた。
大株主の影響もありそうだ。創業家に次ぐ株主はアメリカの投資ファンドであるダルトングループで、18.09%を保有している。ダルトンは2012年までにトランコムに出資し、今年7月にもトランコム株を買い増していた。
ダルトンは保有目的について「発行者の株価が過小評価されており魅力的な投資機会であると考えて、発行者の株式を取得し長期的に保有する」と説明。さらに「株主価値の向上のため、トランコムの役員や取締役、ほかの株主等とコーポレートガバナンス、取締役会の構成、経営、事業、財務状況や戦略に関して、建設的な対話を行うことを求めていく可能性がある」ともしていた。
今回のMBOは、アメリカの投資ファンド・ベインキャピタルと組んで行われる。ダルトンも賛同している。TOB(株式公開買い付け)価格は9月17日の終値から約40%のプレミアムを付した1万0300円で、買い付け予定数の下限は350万8200株(所有割合37.37%)。買い付け期間は10月31日までで、MBOが成立すればトランコムは所定の手続きを経て上場廃止となる予定だ。
荷物量が少ない中、改革に苦戦
厳しい環境下で、トランコムは精力的に投資を進めている最中でもあった。物流センター運営事業では、自動車部品、日用品、菓子、加工食品など、業界ごとに複数社を集め、共同配送する取り組みを進めている。各地にセンターを構え、システムも統一し、より効率的で高度な配送を構築する狙いがある。
さらにはASEANを軸とした海外展開の加速、人材育成、DXの推進などについても投資が必要だった。
ただし、改革には多額の初期投資が必要となる。収益やキャッシュフローにマイナス影響が生じる可能性が高く、株価の下落リスクもある。そこで2023年9月頃から非公開化を実施して抜本的な改革を進めるべく、検討を重ねてきたという。
トランコムは今年2月から5月下旬にかけて、複数のプライベートエクイティファンドと接触。その中で日本で豊富な実績やノウハウがあり、十分なサポートが得られるとの理由から、株式30.7%を保有する武部篤紀会長などの創業家とベインキャピタルが組む形でMBOが決まったという流れだ。
トランコムは業界でもユニークなビジネスモデルの会社だ。マッチング事業では「アジャスター」と呼ばれる社員たちが日々、人力でマッチングを行っている。全国51のセンターに約600人のアジャスターが在籍。荷主と運送会社の間に立ち、荷物情報と空きトラックの情報をマッチングしている。
全国1万3000社の運送会社と連携し、1日あたりの成約件数は約6000件。A地点からB地点へ運ぶシンプルな輸送だけでなく、複数の荷主の荷物を積む「混載」を工夫したり、リレー形式の輸送も組み立てたりする。
問われる出口戦略
今年に入り物流業界では、TOBによる買収合戦、創業家によるMBOや事業譲渡など再編の動きが活発化している。
ベインは国内で物流企業への投資実績は乏しい。何年後にイグジットするのか、出口戦略なども現時点では明らかにしていない。トランコム独自の強みを保ちながら構造改革を進め、明確な再成長の見通しを立てられるかが、今後のポイントになりそうだ。
(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)
09/20 08:00
東洋経済オンライン