「2024年問題」規制強化にもかかわらず、物流業界の「運べなくなる」危機感がガタ落ちしている理由
荷主企業の温度感低下
働き方改革関連法が2024年4月1日に施行され、トラックドライバーへの時間外労働規制が始まった。
しかし、法改正による影響が大きいにもかかわらず、実際の変化は少ない。
筆者(梶浦悠、経営コンサルタント)は、年間約100社の荷主企業と面談を行っているが、法改正が適用される2024年4月以前と比べて、現状の“温度感”は下がっていると感じている。
運べない危機感の低下
現状の“温度感”が下がっている理由は次の2点だ。
1.「運べなくなる」という問題が少ない
2.物流コストの上昇が想定内である
それぞれ詳しく説明しよう。
●「運べなくなる」という問題の発生が少ない
政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題に対して何の対策も行わなかった場合、営業用トラックの輸送能力が2024年には14.2%不足すると試算していた(14.2%の不足という推計は、2023年より荷量が多かった2019年の実績に基づいて行われている)。しかし、現状では「運べなくなる」という問題が試算に比べてはるかに少ない。これにより、荷主企業と物流企業の危機感が低下していると考えられる。
多くの荷主企業と物流企業が改善に取り組んだ結果だと思いたいが、筆者が所属するプロレド・パートナーズが行った荷主企業へのアンケートでは別の結果が浮かび上がる。改善プロジェクトが目標を達成したと答えた企業は、わずか2%にも満たなかった。
「運べなくなる」という問題が顕在化しにくい理由は別にある。NX総合研究所の調査「経済と貨物輸送の見通し」(2024年7月12日公表)によると、国内貨物の総輸送量は2023年に2022年比で1.6%減少し、2024年も前年比でさらに2.0%の減少が見込まれている。物量の減少によって、問題が顕在化しない環境となっていたのだ。
危機感薄れる荷主企業
ふたつめを説明する。
●物流コストの上昇が想定内である
2024年問題の影響として予想されていた物流コストの上昇は、荷主企業にとって想定内となった。2023年には、物流企業からの値上げ要請が本格化し、80%以上の荷主企業が値上げを求められた。しかし、実際の値上げ率の平均は7~8%で、これは国土交通省による有識者会議の提言と同じ水準だ。
「運べなくなる」という問題が少なく、物流コストの上昇も想定内だったため、荷主企業の温度感が薄れていると考えられる。
さらに、改善スケジュールに余裕があることも大きな要因だ。政府による規制措置の基準は2025年に具体化され、特定事業者の指定は2026年初め、改善計画の提出期限は2026年中となっている。つまり、対応しなければならない期限まで約2年の猶予がある。
物流課題の根本解決必要
荷主企業の温度感の低下に対して、筆者は強い危機感を抱いている。
2023年と比較すると、働き方改革の法令が施行された2024年4月以降、多くの荷主企業が様子見の姿勢を見せている。
もちろん、「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(以後、ガイドライン)に基づいて改善を進め、成果を上げている企業もある。これらの企業は、経営層が早期から危機感を持ち、物流/SCM部門が機能しており、課題の可視化も進んでいる。
上記は、筆者が荷主企業との面談で得た所感をまとめた表である。
現状の物流業界の安定は一時的なものであり、根本的な課題が解決されたわけではない。今後もトラックドライバーの不足や物流コストの上昇は続く。労働力不足や輸送効率の低さといった根本的な課題解決に、荷主企業と物流会社が協力して取り組む必要がある。
2年後に迫る変革の波
上記に、物流業界に求められる動きを時系列でまとめた。
「まだ2年ある」とお考えだろうか。物流業界に求められている動き(ガイドラインの内容)は短期間で実現できるものではない。
商慣行の見直しによる物流の効率化は、長い間課題とされながらも手が付けられてこなかった領域である。改善に必要な費用を予算化することも必要だ。今、取り組みに着手しなければ、タイムラインに後れをとる可能性が高まる。
2024年問題をきっかけに、物流業界の意識は確実に変わりつつある。しかし、ただ問題に対処するだけでは不十分であり、これまでと大きく変わらない。
このままでは、物流業界のプレゼンスが低下し、日本経済全体に深刻な影響を与えかねない。物流が日本経済に果たす役割は計り知れない。だからこそ、2024年問題を迎えた今、日本の物流は改革を実行すべきである。
トラックGメンの未来
物量が落ち着き、物流単価の上昇が一巡した今こそ、荷主企業と物流企業は未来に向けて建設的な議論を始めるべきだ。両者はお互いの内情をあまり理解していない。これまではバイヤーとサプライヤーという関係が強く、情報の共有も限られていた。
しかし今後は、互いにパートナーとして将来の物流危機に備えなければならない。過去に交渉材料としてあまり共有されなかった情報を開示し、共通の課題に取り組む必要がある。
荷主企業と物流企業の担当者もこの状況を理解しているはずだ。しかし、社内での危機感が高まらず、動きが鈍くなっているのではないだろうか。もしそうであれば、この状況を大きく変える取り組みがある。それが「トラックGメン」の活動だ。
2023年末には「集中監視月間」を実施し、164件の是正が行われた。この時期には荷主企業の危機感も高かった。しかし、2024年に入って計画はあるものの、実施された結果はまだ公表されていない。トラックGメンの活動が広く知られれば、荷主企業の温度感も必然的に高まるだろう。
規制措置が効力を発揮するまで、物流業界の大きな変革に向けて、トラックGメンの積極的な活動に期待したい。
本記事の執筆にあたり、筆者は荷主企業や物流企業だけでなく、国土交通省の担当者とも話をした。物流業界に関わる人々の共通の思いは、
「物流を効率化し、物流業界のプレゼンスや経営陣の物流リテラシーを向上する」
ことである。あとは、その思いを企業活動に反映させる行動を取るだけだ。
09/16 06:11
Merkmal