「荷降ろし業務」からやっと解放されるドライバー! スバルが実現、作業30分短縮で物流改革は推進するのか

自社荷降ろしで時間短縮

物流トラック(画像:写真AC)

物流トラック(画像:写真AC)

 自動車メーカーのSUBARU(スバル)は、トラックの荷降ろし業務を自社のスタッフが行う体制に切り替える。これまでは工場に納入される部品の荷降ろしを、部品メーカーが用意したトラックのドライバーが担当していたが、2024年秋からは北本工場でスバルのスタッフがその作業を行うことになる。

 2024年4月からトラックドライバーの労働時間に関する規制が強化され、多くの荷主企業や運送事業者はその範囲内での運行方法を模索している。スバルのこの取り組みは、納入するトラックドライバーの作業時間の削減に大きく寄与することが期待されている。現在、荷降ろしに1時間かかっている場合、これが30分未満に短縮できる可能性もある。

 また、パレット(荷物を効率的に運搬・保管するための平らな台)や専用容器に積まれた荷物はフォークリフトを使用して荷降ろしを行う必要があるが、フォークリフトの免許を持っていないとその業務を行うことはできない。

 スバルの新しい方式では、フォークリフトの作業もスバルのスタッフが担当するため、ドライバーは特に免許を持たなくても運行に関われるようになる。このことは、ドライバーの採用にもメリットがある。

荷降ろし時間の革新

「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(画像:国土交通省)

「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(画像:国土交通省)

 スバルだけでなく、大規模な工場に納入するサプライヤーのトラックは、荷降ろし作業に多くの時間がかかっている。同じ工場内でも、荷受窓口が異なる場合は複数の場所で荷降ろしをしなければならないこともある。また、荷受け部署ごとに置き場所や置き方が細かく指定されることもよくある。

 筆者(田村隆一郎、経営コンサルタント)は以前、大手企業の工場に部品を納品する運送事業者の経営者から、

「その工場は受け入れ部署ごとに細かく荷降ろしのやり方が指定されている。それを一通り覚えるには3か月ほどかかる。新人を採用してもその細かな要求を覚えるのに嫌気が差し、すぐに辞めてしまうドライバーも少なくない」

と聞いたことがある。

 また、荷降ろしに時間がかかると、荷降ろし場所でのバース(トラックや輸送用車両が荷物を荷降ろしするために停車する場所)を長時間占有することになり、後から到着したトラックの接車ができず、さらに拘束時間が長くなるという問題も生じる。スバルの新しい取り組みは、ドライバーの拘束時間を短縮するだけでなく、業務の大幅な簡素化やさまざまな負荷軽減にもつながるだろう。

 スバル以外でも、建機メーカーのコマツは国内の工場で、荷降ろし後の付帯作業を同社のスタッフが行っている。また、荷降ろし場所の集約やトラックの予約受け付けサービスを導入し、ドライバーの構内拘束時間を2時間以内に抑えることに成功した。

 この2時間以内というのは、経済産業省、国土交通省、農林水産省が策定した「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に沿ったもので、

「荷主事業者は荷待ち、荷役作業等にかかる時間を計2時間以内とする」

という指針に基づいている。

荷降ろし業務の人件費問題

コマツのウェブサイト(画像:コマツ)

コマツのウェブサイト(画像:コマツ)

 荷降ろし業務を荷受け側の企業スタッフが行うことには多くのメリットがある。一方で、課題として浮上するのは

「荷降ろし作業にかかる人件費」

だ。荷受け側の作業者の労働力は無料ではなく、例えばひとりが1時間作業すれば、最低賃金で約1000円、地域や役職によってはそれ以上のコストがかかるだろう。

 スバルやコマツの場合、運送会社にその人件費を転嫁することはないと考えられる。自主的な取り組みとしてその費用を負担するにしても、「物流が止まることの恐れ」よりもメリットが大きいと判断しているはずだ。しかし、今後このような取り組みが広がると、

「ドライバーの時間が短縮されるのだから運賃を下げてほしい」
「(運送会社からの)値上げ要請を撤回してほしい」

といった要求をする企業が出てくる可能性もある。そうなれば、運送会社のメリットがそがれ、荷降ろしの効率化を妨げることになりかねない。

 また、現在、さまざまな業種で人手不足が深刻な問題となっている。荷降ろし業務をサポートする人員を適切に確保できるかも大きな課題だ。人手が不足しているために、ドライバーが荷降ろし業務の大半を担わざるを得ない状況では、この取り組みは成立しない。

 配送先での荷降ろし業務に多くの負担がかかっているのは、他の業界でも見られる。例えば、医療業界では、病院に物品を納品するドライバーが内科や外科、小児科などの診療科ごとに指定された棚に納品することを求められ、トラックと納品場所を何度も往復する必要がある。

 食品業界では、伊藤ハム米久ホールディングスや日本ハム、プリマハム、丸大食品などのハムメーカーが共同で、小売業界に対して

・納品先の指定場所への棚入れ
・商品への値付け
・店頭での商品陳列

といった付帯業務の負荷軽減を要請している。食肉業界では、従来、営業と配送を兼ねるルートセールスが中心だったが、最近では営業活動と納品業務が切り離され、配送業務は専任のドライバーが担うようになっている。これが実現すれば、ドライバーの走らない時間の削減に大きく貢献することになるだろう。

荷主選びの重要性再考

SUBARUのウェブサイト(画像:SUBARU)

SUBARUのウェブサイト(画像:SUBARU)

 ドライバーが荷降ろしやその関連作業にかかる時間を短縮する取り組みは、今後徐々に増えていくと考えられる。2024年4月からの労働時間規制への対応だけでなく、全国的にドライバーが不足している現状では、ドライバーには「極力走って」もらう必要がある。長時間の積み荷や荷降ろし、待機によってドライバーが

「走らない時間」

を増やすことは、社会全体にとって大きな損失となる。

 スバルやコマツの取り組みが広がれば、物流の持続可能性に大きな効果をもたらすだろう。

 トラックドライバーの最大の使命は、モノを届けることだ。そのため、荷降ろしにともなう業務は、契約を結んだ上で履行すべきサービスである。しかし、従来の商慣習では、こうしたサービスの

「線引き」

が曖昧だった。運送業者は、自社を選んでもらうために無償でサービスを提供していたこともある。しかし、ドライバーが不足している今、そしてその解消の見通しが立たないなかでは、

「運送会社から選ばれる荷主」

になるよう意識を変える必要がある。バラ積みからパレット積みへの変更や、荷積みや荷降ろしに関わる業務の改善などは、持続的な物流を構築するための重要な要素となるだろう。

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