思考力で解ける!「東大の入試」を解いてみよう

東大 西岡壱誠 アカデミックマインド

東京大学(写真:haku / PIXTA)
最近の学校のテストや入試問題では、問いを立てて身の回りのことに疑問を持つ、「探求型思考力」が問われる傾向にあります。『アカデミックマインド育成講座』を監修した東大カルペ・ディエムの西岡壱誠氏が、問題が解けずに悩んでいる子どもに対して、有効なアドバイスを紹介します。

思考力があれば中学生でも解ける問題

みなさんは「東大の入試」と聞くと、どのような問題が考えられるでしょうか。とてつもなく難しい問題を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

実際に難しい問題も多いのですが、その「難しい」のレベルというのは、みなさんが考えているものとは少し違うかもしれません。

特に東大の地理では、「たしかに非常に難しいけれど、知識がなかったとしても、思考力があれば中学生でも解ける」問題が多いのです。

例えば、2005年にはこんな問題が出題されました。

地方中小都市の中心商店街では、シャッターを下ろしたままの店舗が目立つ。このように、閉鎖された店舗が中心商店街で増加している地理的要因について、下の語句の中から適切な語句を選んで、2行以内(60字以内)で述べよ。
語群
移民 過疎化 観光客 空洞化 現地生産 高齢者 自家用車 駐車場 通学者 ビジネス客 民営化 モータリゼーション Uターン 労働力 ロードサイド

「シャッター通り商店街が増えている理由を答えなさい」という問題です。

社会の教科書や地理の参考書を読み込んでいれば答えが出る、という類ではなく、社会の知識を総動員しつつも、それらを組み合わせて考えないと答えが出せない問題になっています。

われわれは全国の中学・高校で、「アカデミックマインド育成講座」と呼ぶ授業を行っており、こうした思考力を問う問題の対策法を研究しています。今回の問題も、実は頭の使い方を知っていれば解ける問題なのです。

まず、この問題は「閉鎖された店舗が中心商店街で増加している地理的要因」を述べるものです。この「増加している」という言い方には注意が必要です。「増加」という言い方をしているということは、数値に「変化」が起こったことを表しています。

「何を当たり前のことを」と思うかもしれませんが、ここが今回の問題を解くうえでいちばん重要な部分なのです。

パッとこの問題を見ると、「閉鎖された店舗が増加している?人気がないって話でしょ?」と短絡的に考えてしまいがちです。でも、もともと人気がなかったら、この地域でお店を出そうと思わないはずです。それなのに、「シャッターを下ろしたまま閉鎖されるようになった」ということは、「もともとは人気だった商店街が、なんらかの要因で人気がなくなってしまった」ということを表しています。

問いを2つに分解する

つまりこの問題では、2つのことを聞いているのです。

1 なぜ、地域の商店街はもともと人気だったのか?
2 なぜ、地域の商店街の人気がなくなってしまったのか?それは、どんな要因なのか?

以上の2つです。このように問いを分解することができれば、問題に対するアプローチが容易になります。

さて、ここからは地理の知識や日常生活での経験を総動員して考える必要があります。

皆さんの家の近くに、商店街はありますか? おそらく多くの商店街は、駅から一本道のところにずらっと並んでいるのではないでしょうか。八百屋や魚屋や肉屋が並んでいて、道を歩きながら商品を購入していることと思います。

では、商店街が人気だったのはなぜなのでしょうか?おそらくは、「駅」の存在が大きいはずです。

駅は交通の拠点で、人の往来が多い。だからこそ駅前にある商店街は栄えていたと考えられます。

しかし、今はどうでしょうか? 商店街が栄えていた時代に比べると、自家用車を保有している人はかなり増えました。

商店街での買い物は、いろんなお店で商品を買った後に、電車に乗って(または徒歩で)家まで荷物を運ばなければならないので、持ち運びが大変ですよね。

その点、自動車だと大量の荷物が運べるので、楽に買い物ができます。ファミリー層にとっては、日用品や食料品をまとめて買うことができるため、自動車を使ってスーパーにいくほうが楽でしょう。また同じチェーンであれば、他の地域の店舗でも使えるポイントも貯まるので便利ですよね。

「1 なぜ、地域の商店街はもともと人気だったのか?」

→「駅前にあり、人の往来が多かったから」

「2 なぜ、地域の商店街の人気がなくなってしまったのか?どんな要因に拠るものなのか?」

→「電車ではなく車による移動が増えて、車で利用しやすい店舗のほうに客層を奪われたから」

というように考えることができるわけですね。

思考を整理してから語群に注目

そう考えて語群を見ると、まず「駐車場」と「モータリゼーション」という言葉があります。スーパーマーケットには駐車場があるため、その駐車場を使えば荷物を運ぶことが容易であるということを示すためのキーワードだと考えられます。

逆に「商店街」は、駅からの客を想定しているため、駐車場がなかったり、遠くにある場合もあります。これも商店街の人気がなくなってしまった要因の1つかもしれません。

次の「モータリゼーション」は知識が必要な言葉です。多くの人が、自家用車を持ち、日常生活において車を使う機会が増えていることを指します。駅が交通の拠点だった時代から、車を利用する頻度が増えたことで、商店街の利用者が減ったということを示すためのキーワードだと考えられます。

実はもう1つ、語群の中から使えるワードがあります。それが「ロードサイド」です。イオンモールが代表例ですが、通行量の多い郊外の幹線道路沿いに、大きな駐車場を完備して集客を行っている店舗のことを指します。ここが人気になればなるほど、商店街の利用者が減っていくと考えることができます。

「モータリゼーションの発展で、自家用車で駐車場を備えた郊外のロードサイドショップまで行き、買い物する客層が増えたため。」

というのが1つの解答例として考えられると思います。

この問題を解くカギは、先ほどもお話しした通り、「増加」という言葉でした。

変化を示す言葉に注意

「増加」は「変化」を指す言葉であり、「もともとは大丈夫だったのに今はダメになった」ということを示している、と解釈する必要があります。

そう考えれば、電車と車の移動の違いに気づけるわけです。

この「増加」→「変化」と捉えて問いを分解する思考のように、問題を解くための「思考の型」というものは確かに存在しています。

これを頭に入れることで、さまざまな問題に適切にアプローチすることができるようになるのです。ぜひ参考にしてみてください。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)

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