「トラックは景観を害す」 いわれなき暴言に隠れた“配送用スペース”確保急務という課題! 駐禁におびえるドライバーはもうたくさんだ
駐禁切られる宅配トラックに同情
数年前、ヤマト運輸の宅配トラックが駐車監視員に駐車禁止で取り締まりを受けている画像がSNSに投稿され、大きな注目を集めた。
投稿には、駐禁を切られたトラックドライバーに同情するコメントが多く寄せられた。
「配送中のトラックの駐禁切るって、血も涙もないよな」
「これもトラックドライバー不足を招く原因のひとつだよ」
「宅配のトラックなんだから、見逃してあげても良いんじゃないの?」
大型オフィスビルやマンション、商業施設などには配送車両用の駐車スペースが設けられているところもあるが、多くの場合、路上駐車を余儀なくされている。特に住宅地ではその傾向が顕著だ。
「宅配ドライバーって、どうして走るんだろうね」
という声も聞かれるが、その理由のひとつは駐禁への恐怖だ。少しでも駐車時間を減らし、駐禁のリスクを避けようとするドライバーの心理が、走ることにつながる。
しかし、配達車両の駐禁問題はあまり注目されない。ECや通販などの個人宅への配送に関しては、再配達の問題ばかりが取り上げられるが、駐禁問題も「物流の2024年問題」に関わる重要な事柄だ。
配送車両への配慮不足
数年前、ある商店街を取材したときのこと。この商店街では、共同配送を実施していた。商店街エリアに荷物を届ける際、運送会社の物流センターに荷物を持ち込み、その会社が共同配送を行う仕組みだ。トラックの配送用駐車スペースは商店街の裏通りにいくつか設けられ、ドライバーはそこから徒歩で配送先へ向かう。
なぜ、このような手間がかかる方法を採用したのだろうか。商店街のメインストリートにはパーキングメーターが設置され、多くの駐車スペースが確保されているにも関わらず。
「一般的な商店街と違い、当商店街は、ハイブランドを扱う店も立ち並ぶ高級志向が特徴です。なので、来客のなかには、フェラーリで乗り付け、当商店街のパーキングメーターに駐車することで承認欲求を満たす人もいらっしゃいます。そんな商店街で、フェラーリの隣にトラックが駐車していたら台無しじゃないですか」
この商店街の理事長は、共同配送システムを導入した理由のひとつとして、このような説明をした。
補足すると、第一の理由は、さまざまな運送事業者が商店街に入り乱れることで、来客の安全を損なうのを防ぐことだ。商店街の特性を理解した、商店街専門のドライバーであれば、来客の安全性を保ちやすいだろう。しかし、
「フェラーリはいいけどトラックはNG」
という感覚は、職業差別につながる危険な感覚である。これは例外的な事例ではあるが、日本では配送車両に対する配慮があまりないのが実情だ。
皆さんも、路上駐車をしてコンビニエンスストアに商品を搬入しているトラックを見かけたことがあるだろう。また、量販店への配送トラックが、量販店の敷地からはみ出して駐車していることもある。
神奈川県内のある大型ショッピングモールでは、商品搬入口の高さ制限が低いため、通常のトラックでは商品を搬入できない。そのため、運送事業者はわざわざハイエースなどのバンや、リンボー車(コンテナ部分の天井が上下し、車両の高さが変わるトラック。現金輸送車などでよく使われる)を用意せざるを得ない。
東京メトロが表参道駅内に商業施設・飲食施設「Echika」を開業した当初は、青山通り(国道246号)にある表参道交差点が搬入トラックの違法駐車で目も当てられぬ状況になっていた。搬入ルートが一般客が利用する駅の出入口しかなく、しかも駅の出入口が交差点に隣接しているため、こうした事態になってしまった。さすがに最近では、開業当初のような混乱は改善されているようだが。
求められる駐車スペースの義務化
旅客と貨物の輸送手段を考えると、都市設計において
・荷物の積み卸し
・旅客の乗降
が組み込まれていないのは、トラックとタクシーだけだ。飛行機、船、鉄道、バスなどは、これらのための施設が都市計画に含まれている。しかし、トラックやタクシーは
「路上駐車で積み卸しや乗降ができる」
ため、これまで本気で取り組んでこなかったのだろう。
いずれにせよ、駐禁の心配がなく、安全に荷物の積み卸しができる配送用駐車スペースの整備を怠ってきた行政の責任は重大である。しかし、現在「物流の2024年問題」をはじめとする物流クライシスが叫ばれており、行政もようやく重い腰を上げて取り組み始めている。
・貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し(2024年4月3日、警視庁)
・貨物車駐車スペースの無償提供を開始(2024年7月3日、東京都都市整備局)
前者は、警視庁が中心となり、配送車両専用の駐車場所を増やす取り組みだ。後者は、東京都が主導し、配送車両専用の荷物積み卸しのための駐車場を無償で提供する取り組みである。
とはいえ、両方の取り組みで提供される配送用駐車スペースの総数は、現時点で126か所にすぎない。これらの取り組みは評価できるが、正直なところ、「焼け石に水」という印象は拭えない。
7000平方メートルに1台分の非現実感
本気で配送用駐車スペースを確保するのであれば、次のことを法制化すべきだ。
・一定規模以上の商業施設、オフィスビル、集合住宅などを建築する際に、配送用駐車スペースの設置を義務付けること。
・都市計画に配送用駐車スペースを盛り込むことを義務付けること。
例えば、東京都では条例に「荷さばき駐車施設の附置義務基準」を設けている。しかし、この基準は甘すぎる。
具体的には、条例では住居スペースが7000平方メートルごとに1台分の荷さばき駐車施設を設けることになっている。単純計算で3LDK(60平方メートル)の住居で116戸相当になるが、これではさすがに不足しているだろう。
目指すは配送用駐車スペースの確保
配送用駐車スペースの設置義務化を考える際には、
「自主管理歩道」
が参考になる。自主管理歩道とは、住民の歩行環境を向上させるために、大規模なマンションなどを建設する際に、自らの敷地の一部を歩道として整備する仕組みで、東京都板橋区など一部の市区で実施されている。
注目すべき点は、誰でも通行できるということだ。「そのマンションの住民だけが利用できる」という短絡的な考え方ではない。
今や個人宅への配送は、電気や水道、ガスと並ぶ重要なインフラといえる。今後、高齢者の人口比率が高まるにつれ、ECや通販だけでなく、ネットスーパーや処方箋薬の宅配といった需要も増加するはずだ。
配送車両が路上に駐車していると、確かに邪魔だし、交通安全の妨げにもなる。だからこそ、専用の配送用駐車スペースを街なかに配置することが必要だ。そのためには、
・(ワンルームでも)20戸以上の集合住宅には、配送用駐車スペースの設置を義務化する
・都市計画において、100m四方の範囲に最低1か所の配送用駐車スペースを設置することを義務付ける
といった大胆な政策転換が求められると筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は考える。
しかし、すでに建物が密集する既存の街なかで新たな配送用駐車スペースを確保するのは難しい。だからこそ、今後新たに建設される建物には基準を設け、自主管理歩道のように地域のための共用インフラとしての配送用駐車スペースを設けるべきなのだ。
おめこぼしだけでは十分でないワケ
先ほどのSNS投稿に戻ろう。
筆者は
「宅配のトラックなんだから、見逃してあげてもいいんじゃないの」
という考え方には、あまり好意的ではない。
問題の投稿についていえば、駐禁を切られたトラックは、駐停車禁止の
「交差点内とその5m付近」
に駐車していた。投稿写真は巧みにトリミングされており、交通違反を犯している事実がわからないようになっていたのだ。
配達ドライバーの利便性を向上させ、無理や無駄を排除することは、再配達の削減と同様に重要だ。しかし、そのためには交通の安全性が確保されていることが大前提となる。
「物流革新」が求める新基準
政府が推進する「物流革新」政策には、次の記述がある。
・貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し【警察庁】
路外の駐車スペースが少ない場所を中心に、集配に係る駐車に関する規制緩和の要望が依然として寄せられていることから、こうした要望も踏まえつつ、交通実態等に応じたきめ細かな取組みをより一層推進する(「物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年6月2日)より)
「配送車両は駐禁免除にしたらどうか」という意見もあるが、配送車両に駐車禁止・停車禁止の適用除外を与えるのは慎重にならざるを得ない。
そのため、何らかの方法で配送用駐車スペースを増やしていく政策を早急に実施しなければならない。残念ながら、これは一朝一夕にできることではない。そもそも、これまでの街づくりのなかで「配送用駐車スペースを設ける」という発想が薄かったのだから、仕方がない。しかし、
「時間がかかるからやらなくていいよ」
というのも違うだろう。
再配達を強いられるドライバーに同情を覚える人は多い。同様に、駐車場所を探し苦労し、駐禁を切られる恐怖を感じながら日々配達を行うドライバーについても、問題意識を持つ人が増えることを願っている。
09/08 06:11
Merkmal