駅の「切符販売機」硬貨投入口が"縦型"なのはなぜ
昨今の中学入試・高校入試・大学入試は、昔とは大きく変わってきています。一見すると雑学のようなユニークさがありながら、「よく考えたら答えを推測することができる」問題が出題されているのです。
例えば、渋谷教育学園幕張中学の入試問題(2021年度)では、こんな問題が出題されていました。
この問題を読んで「駅にある切符の販売機はなぜ縦型か、なんて、雑学として知っているかどうかじゃないか」と考える人もいるかもしれません。
でも入試問題で出題されているわけですから、もちろん答えは導き出せます。これは、志願者の「思考力」を問う問題なのです。
われわれは全国の中学・高校で、「アカデミックマインド育成講座」という授業を行っており、こうした思考力を問う問題の対策法を研究しています。今回の問題も、実はしっかり対策することが可能なのです。
縦型と横型の投入口を比較して考える
さて、今回の問題において求められるのは、「比較する能力」です。「なぜ縦型を採用しているのか」という問題なわけですが、ここで「縦型にはどんなメリットがあるのか」を考えていてもあまり答えには辿り着けません。
問題文をよく読むと、「縦型と横型があります」となっていますよね。これは実は大きなヒントです。
「なぜ縦型を採用しているのか」を考えるだけでなく、「なぜ横型を採用していないのか」を考えると答えが見えてくるのです。
また、「縦型→切符の販売機」となっていますが、ここも横型と比較して考えることができます。切符の販売機が縦型である一方で、投入口が「横型」の販売機にはどのようなものがあるでしょう?例えば、飲み物の自動販売機は、横の場合が多いですね。これももしかしたらヒントになるかもしれません。
では比較したうえで、より具体的に考えていきましょう。硬貨を縦にすると、コロコロと転がっていきますよね。横にすると、シュッと下に落ちていきますが、転がすときよりもスピードは遅くなると考えられます。
縦だとスピードが速く、横だとスピードが遅い。そして、切符の販売機は、スピードが速いほうを採用している。ここまでわかれば、答えは自ずと見えてきます。
切符は多くの人が並んで買う
切符の販売機は、多くの人が並んで買うものなので、スピーディーに対応する必要があります。それに対して飲み物の自動販売機は、多くの人が並んでいるイメージはあまりないですよね。急いで飲み物を出す必要があるわけではありません。
「縦型のほうが、横型に比べて硬貨がスムーズに転がるため、決済のスピードが速くなり、行列の解消に役立つから。」というのがこの問題の正解になるでしょう。
ちなみに、硬貨がコロコロと転がるスピードが速いと、その分高性能で大きめの硬貨選別の機械が必要になると言われています。飲み物の自動販売機であれば、そんなに急いで対応する必要があるわけでもなさそうですし、スペース的にも小さい硬貨選別の機械のほうが場所を取らないですよね。硬貨選別の機械が小さければ小さいほど、補充用の飲み物の在庫を入れておきやすくもなります。そこまでこの問題で書く必要があるわけではないですが、こういった事情があるわけですね。
この問題は、「縦型と横型」「切符の販売機と飲み物の自動販売機」を比較する中で答えが見えてくるというものでした。このように、何か1つの物事を考えるときに、比較して考察していくというのはとても重要です。
もう1つ例を出しましょう。こんな問題があったとします。
このとき、「カナダはなぜ黄色なのか」を考えていても答えは出ません。「日本人は太陽を『赤色』だと考えている人が多いけれども、なぜカナダ人は『黄色』だと考えている人が多いのか?」と比較して考えると答えが見えてきます。
カナダと日本を比べればいいのです。カナダと日本の違いを考えてみると、気候や地理的な条件が思い付くはずです。カナダのほうが日本より寒そうですよね。
カナダと日本の緯度で考える
そして、色が違って見えるのは、太陽の日の光の強さが違うのではないか、と推測することができれば、「もしかして、緯度が低くなるほど太陽との距離は短くなるんじゃないか」ということに気づき、「太陽との距離が日本よりカナダのほうが遠いから、それが理由なのではないか?」と考えることができます。
ということで、この問題の正解は、「日本よりも緯度が高いので、太陽との距離が遠く、日の光が日本ほど強くないから」となります。「カナダがなぜ黄色なのか」ではなく「日本は赤色なのに、なぜカナダは黄色なのか」ということを考えることで、答えを出すことができたわけですね。
今回紹介した2問は、一見すると「知っているか知らないか、雑学の知識がないと解けない問題」に見えたかもしれませんが、実はそうではなく、しっかりとほかのものと比較していく中で答えが見えてくるという問題でした。
この考え方は、入試の問題だけでなく、われわれの日常生活でも活かせるものです。「どうして成績が上がらないのか?」と考えるよりも、「どうして、〇〇さんよりも成績が上がらないのか?勉強法にどんな違いがあるのか?」というように考えたほうが、答えが見つけやすくなりますよね。また、商品を買うときでも、「これが本当にいいものなのか?」は、他と比較してみないとわかりません。比べる中で、見えてくるものがあるのです。
比較して思考していく習慣をぜひみなさんに身につけていただきたいと思います。
(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)
09/12 15:00
東洋経済オンライン