いきなり中間管理職になった人が知らない心得
中間管理職としての職場のストレス対処法
2015年12月、大手広告会社電通における24歳の女性社員の過労自殺が問題となった。月100時間を超える過重労働が原因であるが、上司からこの社員へのストレス、プレッシャーも問題であったと考えられる。
また2015年より、労働者が「常時50名以上」の全事業所において、ストレスチェック実施が義務化された。今後、50名未満の事業所に対しても強化される方向である。そうなると課の経営責任者である課長が、課員のストレス・マネジメントをする役割が大きくなる。
このように以前からも職場のストレスは重要な問題とされていたが、ニューノーマル時代となり、デジタル、多様化、グローバル化、社会問題、リモート化、長寿命化により、さらに職場のストレスが高まる傾向があり、ストレス・マネジメントの重要性が増してきた。
それでは、どのようにして課のストレス問題に対処すべきであろうか?
ストレスの原因は多岐にわたるが、職場におけるストレスの原因を分類すると大きく次の2つとなる。
① 仕事・業務によるストレス
② 職場の人間関係によるストレス
メンバーが、うつ病をはじめとするストレス過多の問題に陥っていないかを発見するポイントをまとめた、「ケチな飲み屋」というチェックリストがある。
課長として、このような状況にメンバーが陥っていないかどうか、日頃からよく気をつけて観察しておくとよい。また、「休みはどうだった?」「最近、(趣味の)マラソンはやってる?」などの仕事以外のちょっとした話題でのアイスブレイクも相手の状況を知るよいきっかけとなる。
「何か困っていることはない?」「○○の件、大丈夫?」などと、日ごろから気軽に声かけや会話をしていくとよい。1対1で集中して5〜10分くらい話すと、相手が問題を抱えているかどうかがわかるようである。気にかけない、声をかけない、ほったらかすが最もよくない。
聴覚情報や視覚情報からも情報を得る
アメリカの心理学者アルバート・メラビアンの実験を参考にすると、1対1のコミュニケーションにおいては、内容そのものの言語情報が7%、耳から入ってくる声のトーンや調子といった聴覚情報が38%、目から入ってくるしぐさや態度の視覚情報が55%である。
もちろん、内容そのものが重要でないということではないが、聴覚情報や視覚情報から、相手の真意などについて得られる情報量も多いということである。
よって、日ごろから気にかけて、メンバーのあいさつやしぐさなどを観察しておいたり、面談のときの態度や様子をよく見ておくことも大切である。
特にプレイング・マネジャーの課長の場合、自分自身の担当業務に追われ、メンバーの状況把握が難しいかもしれない。メンバーの言動や様子をよく観察したり、定期的にたとえ5〜10分でも1対1で対話・相談する機会を設けたりすることが対策となる。
課のメンバーや専門家と協力してストレス問題に対応
また、課に係長・主任などがいる場合、同様に彼ら彼女らにもメンバーの観察や対話を積極的に行うように指示する。課長1人ですべてを行おうとせずに、遠慮せずに協力してもらい、明らかにメンバーがうつ病になったり、もしくはうつ病の疑いがあったりする場合は、臨床心理士や医者などの専門家に相談し、協力してもらうことである。
筆者自身、うつ病になったメンバーの職場復帰のときに対応したことがあるが、その際、やはり自分たちだけでは対応しきれず、専門医のサポートをお願いし、連携しながら進めた。
あるメーカーのマネジャーは「仕事のつらさは何とか頑張れる。でも人間関係のつらさは耐えられない」と言う。仕事以上に人間関係のトラブルやストレスは大きいため、課長として、各メンバーとの定期的な個別面談などで、職場内の人間関係の状態やトラブルがないかなども把握しておくとよい。
職場の懇親会や昼食会などのイベントも、職場のストレス問題予防の対策の1つである。
リモートワークにおいては、さらにストレスが高くなる傾向があるため、よく注意をしておきたい。
職場の長時間労働をいかになくすか、どのようにライフ・ワークバランスをとるかが、企業の重要な課題の1つとなってきている。自宅などでのリモートワークが普及すると、ライフとワークのバランスをとるというよりも、むしろライフとワークを統合・融合する意味でのインテグレーションのほうが適切であるため、本書では“ライフ・ワークインテグレーション”と表現する。
かつては、「残業すること=頑張っている」と評価される風潮があり、今でもそのような風潮が残る会社も少なくない。部下が上司よりも先に帰りにくいという職場もいまだに多い。
リモートワークにおいても、夜遅くまでオンライン会議を行っていたり、メール対応していたりして、勤務時間が長くなることが多いのが現状である。
長時間労働が減らないのはなぜか?
長時間労働が減らない原因として、次のようなことが考えられる。
・目的や目標、やるべき業務、役割分担などが明確になっていない
・優先順位がついていないなど、仕事の効率が悪い
・残業を前提とした業務の組み方になっている
・長時間勤務者が評価される、もしくは評価される雰囲気がある
まずは課長自身が、「長時間かけて成果を上げる」から「短時間で成果を上げる」へとマインドセットしていくべきであろう。
スマートにビジネスができているか? 課長として、同じ時間で多くの成果を上げること、ROT(リターン・オン・タイム時間対効果)も考えたい。 20%の重要要素が、全体の80%の成果をしめるという〝パレートの法則〟も参考にしたい。担当業務における20%の重要事項を決め、そこに集中することも効果的である。
タイムマネジメントの具体的対策としては、次のようなものが挙げられる。
リモートワークでのタイムマネジメントの注意点
自宅などでのリモートワークにおいては、出社や退社などの時間的な区切りがつけにくく、終わっていない仕事があれば、夜遅くまでやってしまうということも起こりがちである。
筆者もリモートワーク時、気づかないうちにメンバーの残業時間が膨らんでしまっていたことがあった。それ以降、全メンバーが当日午前中までに残業目的と残業予定時間の申請を行い、あまり多くなる場合にはすぐに対策するようにした。
課長としては、メンバーの勤怠状況を日々把握し、長時間労働になっているメンバーに対しては、その原因の分析や具体的な対策を行っていく必要がある。
(安部 哲也 : 立教大学大学院ビジネススクール(MBA)客員教授・EQパートナーズ代表)
09/19 09:00
東洋経済オンライン