堀江貴文「だから団塊ジュニアは出世ができない」

(写真:bee/PIXTA)
堀江貴文氏が日本のさまざまなビジネスリーダーと多岐にわたるテーマを語り合うNewsPicksの人気対談企画「HORIE ONE」。本稿ではその書籍版『僕らとビジネスの話をしよう。~新時代の働き方』から、東京大学先端科学技術研究センター教授で数学者の西成活裕氏との対談をお届けする。

数字は「世界共通の言語」

――今回お越しいただいた数理物理学者の西成先生は、インタビューでこんなお話をされています。「文系、理系の区分はいらないと思います。昔はそれでよかったのですが、いま人類が解かないといけない課題は、融合した知識でないと解けません」、「キーになるのが数学です。数学ができないと、いろんなものをつないでいくことができません」。

西成活裕:はい。今、世界に単純な問題ってほとんどなくて、難しい問題しか残っていないですよね。それらを全部つなぐのは何かというと、おそらくは数学です。なぜなら、言語として世界共通だからです。それをキーにして、いろいろなものをつなげていって、解決していこうということです。

例えば環境問題が挙げられます。環境問題の専門家って、実はいないんですよ。いろんな分野の人が集まらないといけない。その共通言語としての役割が数学にあると思っています。

――そのようなお話を聞くと、数学が必要であることまでは理解できるのですが、苦手意識のある人も多いですよね。どうしたら解消できるでしょうか。

西成:数学は語学と一緒だと思っています。単語を覚えるのと同じように数式を覚えたりすればいい。そうすれば、英語でコミュニケーションするのと同じようにいろいろな人たちとコミュニケーションをとることができます。

私の好きな数学者の言葉なんですが、「数学を勉強すると、読めない本がなくなります」とその人は言っているんです。

――ビジネス書にも必ずと言っていいほど数式がありますもんね。そんな西成先生は「渋滞学」を研究しているとのことですが、これはどういう学問なんでしょうか。

西成: 車の渋滞はもちろんなんですけど、物の渋滞、人の混雑、それから体の調子が悪いのは、どこかに渋滞が起こっているからです。そんなあらゆる渋滞をひとくくりにして研究しようというのが渋滞学です。

車間距離40m以下になる「渋滞」

――では早速ですが、高速道路の自然渋滞はなぜ数式で表せるんでしょうか。

西成:まず、渋滞の定義って知っていますか。「今日は混んでいたな」とか「今日は空いていたな」って言いますけど、どれくらい車がいると渋滞というのでしょうか。

例えば、車が通行している写真を見せて「これ渋滞ですか」「渋滞じゃないですか」って、誰が判断できるのでしょうか。だから、まず、そこを決めるところから始めないといけません。

堀江貴文:渋滞の定義を決める必要があるということですね。

西成:そうです。それにはデータが必要です。まず「1㎞の間に車が何台走っているか」というデータ。これを「交通密度」と言います。そして、もう1つが、どれだけ車が通過するかという「通過量」。通過量が多ければ、別に「渋滞」ということにはなりません。結論から言うと、25台くらいまで通過量は伸びます。

堀江:1㎞あたり25台くらいで流量がピークに達すると。

西成: そうです。25台以上になると流量がガタ落ちする。だから、1㎞あたり25台になると渋滞が始まるんです。すると、渋滞を解消するためには1㎞あたり25台以下にすればいいということがわかります。

1㎞は1000mですから、車間距離を計算すると1000m÷25台で40mとなる。運転していて車間距離を40mで走らざるを得なくなったら、その時から渋滞と言えばいいんです。

堀江:なるほど。わかりやすい。でも、40mの車間距離って意外と長いですよね。

西成:そうなんです。だからみんな車間距離を詰めたり、割り込んできたりする。そうすると、割り込んだ人も含めてみんな損をするんです。割り込まないほうが早く着くんです。

堀江:でも、みんなが40m以上の車間距離で走らないといけないんですよね。そんなことはできないですよ。

西成:それで、なかなか実践するのが難しく、落ち込んでいたんですけど、自動運転の時代が来たじゃないですか。そうすると、車に車間距離をプログラムすればいいんです。

堀江:そうか。自動運転時代になったら、渋滞は理論的には発生しないようにできるんだ。

未来予測ほどいい加減なものはない

西成:渋滞というのは、組織でも個人でも同じで、適切な仕事の量があって、ある臨界を超えると急に仕事が渋滞し始めます。詰め込まず、余裕を持ったほうが生産性が高くなることがさまざまな企業で示されています。

この臨界は企業によって異なりますが、最大できる仕事量の約7割ぐらいがいい、ということがわかっています。そして未来を予測して、今後どれだけの仕事量になるか予測していくことも重要です。

堀江:そうですよね。でも、未来予測って難しいのに、みんな未来予測をしますよね。あれはなんでですかね。

西成:やはり指標がないと、予算を動かしたり物を作ったりすることができないからじゃないですか。でも未来を作っていくには、目標に向かっていく意志の力が重要だとよく言いますね。

堀江:未来予測ほどいい加減なものはないですよ。僕もよく未来予測を求められるんですけど「無理だ」って言いますもん。変数が多すぎてわかりませんよ。ただ、たまに確実に言えることがあるんです。

例えば、僕は団塊ジュニア世代なんですけど、僕の世代の同級生はほぼ就職しています。でも、人口ピラミッドから考えると、就職すると団塊の世代が上にいるのでポストが空かないんです。だから、出世もできないし、給料も上がらない。

西成:そういうのを「人事の渋滞」っていうんです。

――堀江さんは未来予測を否定されましたけど、できる部分もあるということで、将来を予測する数式というのを教えていただけますか。

西成:未来というのは、基本的には「神のみぞ知る」世界です。だから、現状で本当の未来はわかりません。でも、1秒後は多くの人が予測できると思います。2秒後も多分わかりますよね。そういう短い時間を積み重ねていくのが「微分」の考え方なんです。そうすると、1秒後の未来は絶対に当たるだろうと。

成功する人がもっと成功する仕組み

――では、その数式を使って、次の未来予測についても説明していただけますか。「成功する奴はどんどん成功する」というものです

西成:これは簡単な話です。例えば、ネットでバズってこれまでのフォロワー数が1000人だったのが、1秒後に100人増えて1100人になったとします。そして2秒後には1200人になった。

すると、そのまま100人ずつ増えていくんじゃないかと思いますよね。でも、200人、400人、800人と掛け算で増えていくかもしれない。直線で進んでいくものと、倍々で進んでいくものでは進み方が違います。

例えば人気度の伸び方を「t」と「t2」の2つで比べると、この「2(2乗)」になるのが急成長の条件なんです。未来予測で2乗が出てくると、とんでもないことになります。さらにヤバいのが「2t」です。「t(t乗)」は時間のべき乗と言われていますが、いわゆる倍々ゲームです。

例えば「パンデミック(世界的大流行)」。その日、日本中の人間が全員感染症にかかったとしたら、その前日は半分の人しかかかっていません。その前の日は4分の1です。こうした倍々で進んでいくものが、感染症や金融の世界にはあるんです。

「マルコフチェーン」とは何か

――だから、景気予測も数式で表せるということなんですね。それが「マルコフチェーン」という考え方とのことですが、これはなんでしょうか?

西成:マルコフチェーンも微分と同じ概念だと思ってください。例えば、昨年と今と、その前の年も含めて2年間景気が上がったのが続いたから、3年目はどうなるかというのがこれまでのデータからわかりますよね。

僕らとビジネスの話をしよう。~新時代の働き方

ある期間の中で過去のデータを見て、将来どうなるかを予測するのがマルコフチェーンという考え方です。微分のもうちょっと大雑把なものです。ただ、実際にはいろいろな要素(政治状況や気候など)があるので、それを入れないとダメです。でも〝ベースとなるデータは過去をあまり引きずらない〞と仮定します。

堀江:過去を引きずらない、というのが、僕にはピンとこないですけどね。

西成: もちろん少し前の過去は引きずるけど、それ以上前は引きずらない。あまり過去を考えず、今の状態だけから未来のことを考えよう、というのがマルコフチェーンの考え方なんです。その意味でこの式はいちばんシンプルな式です。

(堀江 貴文 : 実業家)

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