クレーム電話には「笑顔」が防御となる納得理由

電話対応で顔をしかめる男性

クレーム電話に対して、自らをガードする術をお伝えします(写真:Graphs/PIXTA)

こんにちは。メンタルアップマネージャ®の大野萌子です。

「電話が苦手」をさらに加速させているのが、クレーマーの存在ではないでしょうか。対面でない分、遠慮なしに暴言を吐かれることも少なくありません。意図が明確でない理不尽なものであれば、なおさら苦痛を感じてしまうと思います。そんな電話への対応方法を、拙著『電話恐怖症』から、一部抜粋・再構成してお伝えします。

怒りは「二次感情」

クレーム電話でトラブルになるのは、相手の怒りがエスカレートしてしまうことです。顔が見えない分、感情がエスカレートしやすく、ストップがきかなくなる傾向があります。その場合は、怒りに同調しないことが重要です。

コミュニケーションの基本は相手の感情に寄り添うことですが、怒りだけは、それが逆効果になります。なぜなら、喜怒哀楽のうち怒りだけは「二次感情」と呼ばれていて、怒りのもとに別の感情があるからです。

喜びや悲しみと違って、怒りは単独ではやってきません。必ず怒りのもとになった感情が、その背後に隠れています。寄り添うべきは怒りにではなく、そのもとにある一次感情です。

元の感情に寄り添わないかぎり、表面にあらわれた怒りに寄り添って静めようとしても、元が解決されていないので、怒りはおさまりません。逆に怒りを否定されたと感じて、ますますエスカレートします。

ですから、相手が怒って電話をしてきた場合、何が怒りを呼んでいるのかを確かめる必要があります。たとえばすぐに電話をしてこなかったことが原因だとすると、そのときの悔しい感情なのか、不安な感情なのか、困った感情なのか、大元の感情をしっかりつかんでそちらにフォーカスすれば、クレームはおさまりやすくなります。

相手の意向を探る

ではどうやって、大元を探り当てるかですが、怒りの感情に同調することをまず避けましょう。「腹が立ったんですね」「それはお怒りですね」などと怒りの感情に直にふれると「そんなもんじゃないよ」とますます火に油を注ぐかたちになってしまいます。

そうではなくて、何があったのか、事実を聞いていきます。「どうされましたか?」「何がありましたか?」「何がお困りですか?」など、感情ではなく事実をたしかめます。そうすることで、怒りのもとにある一次感情に迫っていけるのです。

イメージとしては、取材をしている感覚です。「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」という「5W1H」をおさえるように、冷静に聞いていきます。事実関係がつかめると、「ああ、だからこの人は馬鹿にされたと思って悔しいんだ」とか「理解されなくて悲しかったんだ」ということがわかります。

でも一次感情が理解されないままだと、相手は理解してもらうために「そう言えばこんなこともあった」「こんなこともされた」とエピソードを引き出し、ますます怒りがエスカレートすることになります。

あくまで冷静に、客観的な事実から相手の一次感情を推測する。そしてそれに寄り添って「こちらも勉強不足で、きちんとご不安にお答えできずにもうしわけございませんでした」など相手の一次感情に寄り添ってコミュニケーションします。怒りの奥底にある一次感情をわかってもらえたと感じると、それで満足して、怒りがトーンダウンすることが多いでしょう。

また、はずしてはいけない質問は「あなたはどうしたいか」ということです。何に困っているのか、何を解決したいのか、感情論ではなくて、具体的にどうしたいのか意向を聞くことが、最終的な解決になります。

話を聞いてほしいだけなら、不満を聞いてあげればいいですし、何かを希望するのであれば、こちらもそれなりの情報開示や裏取りも行わなければなりません。

相手がどうしてほしいのか、知ることがクレーム対応に一番大切なことです。

理不尽なクレーマーには

クレームの電話の中には理不尽なものもあります。私が電話相談業務に携わっていたとき、相手が理不尽なことを言い、ただ感情をぶつけているだけだと感じたら、思う存分吐き出してもらうことにしていました。

ただ、まともに聞いているとこちらのメンタルが疲弊するので、基本的には受け流しです。「ええ」とか「はい」くらいはたまに言いますが、基本的にこちらからは何も言いません。すると、そのうちに気持ちの整理ができるのか、落ち着かれることが多かったように思います。

ただ、相手が取引先やお客様だと受け流すだけではすみません。あまりに理不尽な場合は、「恐れ入ります。電波の調子が悪くてお声がとどかないようなので、一度切らせていただきますね」と言って切ってもいいと思います。

クレームがエスカレートした場合、相手も自分も一度リセットすることが大切です。向こうもヒートアップして、ふり上げたこぶしをどうしていいかわからなくなっているので、いったんリセットする機会を作ります。

これは対面の場合ですが、相手がエスカレートしたときは、部屋を替えるのが第一選択になります。「きちんとお話をおうかがいしたいので、別のお部屋をご用意いたします。もうしわけありませんが、そちらに移っていただけますでしょうか」と言って場所を替えると、たいていトーンダウンします。

電話の場合は部屋を替えることができないので、いったん切って、時間を置いてかけ直すのです。相手からかけ直してきても、すぐ出るとリセットにならないので、出ないで時間を置きましょう。その間、社内の人に相談して、対策を練ればいいのです。

あまりに理不尽なクレームが激しくて、自分が苦しくなってきたときは、何も言わずにプツンと切ってかまわないと思います。「すみません。電話が落ちてしまいましたね」とでも言っておけばいいでしょう。

ほかにリセットの方法としては、人を代えるのも効果があります。上司に代わってもらうとか、異性の人に代わってもらうと静まる人もいます。

言葉尻をとらえて攻撃してくる場合は

言葉尻をとらえて攻撃するのが趣味のような人もいます。そうすると何を言っても悪いほうにとらえたり、つっかかってきたりして、話になりません。その場合は無視するに限ります。

何か言うと、相手に情報を与えることになるので、いつまでたっても攻撃が終わりません。でも自分が何も言わなければ、言葉尻のとらえようもないでしょう。

たとえば車が完全に止まっている状態でぶつけられたら、「こちらは止まっていました」ということで責任は100%相手に課せられますが、自分が少しでも動いていると、責任の一端をになうことになります。

「危ないなと思ったので止まっていました」のほうがいいわけですから、何も言わない、話さないことが賢明です。許容範囲の中でやりとりして、それ以上はかかわらない。無視するのがいいと思います。受話器を置いて、放置でかまいません。

それでもしつこく攻撃してくるときは、はっきりノーを言って拒否しましょう。「今ここはそういうお話を受けるところではないので、もうしわけありませんが、切らせていただきます」でいいと思います。

取引先や上司など、簡単に切れない相手で、しかもあまりに理不尽だったら、社内のコンプライアンスルームに相談してみましょう。そういう部署がない会社なら、労働基準監督署など外部の機関に相談するのがおすすめです。直接的な解決に結びつかなくても、相談したという事実があとで生きてきます。

笑顔で電話に出るとクレームを言われにくい

意外だと思われるかもしれませんが、電話でも笑顔で応対している人はクレームを言われにくい傾向があります。

電話では顔が見えませんが、なぜか笑顔で話したほうが相手からの印象がよくなるのです。「笑声(えごえ)」という造語があり、コールセンターなどではよく使われます。にっこりすると声の表情が変わるというのです。

電話恐怖症 (朝日新書)

私も経験上、声には表情があると思っています。笑顔をつくることで声が明るくなったり、やわらかくなったりします。心の中は笑顔でなくても、とりあえず笑顔をつくってみる。すると、声の印象が変わります。

最初は引きつった笑顔でもかまいませんから、笑顔で電話に出るよう心がけましょう。そうすると、なぜかクレームが減ったり、相手の怒りがトーンダウンしたりするのです。

お店で商品を買うときも、ムスッとしている店員さんより、笑顔の店員さんのほうが買いやすいのと似ています。店員さんが心から笑っているのでなくても、そちらから買ってしまうことを思い出してみましょう。

一方的な攻撃を防ぐのは難しい面もありますが、是非とも自らをガードする術を身につけていただければと思います。

(大野 萌子 : 日本メンタルアップ支援機構 代表理事)

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