"時代遅れ"の「ファミレス」とくに厳しい店の正体
じわじわ減っているファミレス
今年(2024年)の4月、筆者は東洋経済オンラインに「ファミレスが『時代遅れ』になってきてる深い理由 ガストもサイゼも…国内店舗数はジワジワ減少」と題した記事を寄稿した。
上位4チェーンが揃って国内店舗数を減少させていることを説明しつつ、個々人の嗜好が多様化し、「なんでも安く食べられる」こと自体が大きな魅力を持たなくなった現在、より専門的で個人の好みを満たすことのできる専門店のほうが、業態としては有利なのではないか……などと論じていた。
ただし、あれから数カ月経って各社の動向を見ていると、ファミレスの中でも「意外と善戦」しているところもあれば、「思ったより苦戦」しているところもあることがわかってきた。
業界をさらに細分化していくと、「低価格路線」よりも「中価格路線」のほうが、さらなる苦境を強いられているようなのだ。
まず、ファミレスの一大チェーンであるガストの店舗数を見てみよう。
コロナ禍前では最大1390店舗だったが、2020年からコロナ禍の影響もあって、数が減少。以後も数をじわじわ減らし続けており、2023年12月期では1280店舗になっている(いずれも期末の数字)。
しかし、店舗数がじわじわ減っているとはいえ、である。実際、すかいらーくグループの業績を見てみると、客単価・客足共に伸びており、グループ内で圧倒的な店舗数を持つガストがその業績に貢献していることは間違いない。
また、すかいらーくグループは2025〜2027年の中期事業計画を発表したが、そこでは今後の既存店の方向として、「業態転換」は年平均で40店舗を見込むのに対し、「店舗改装」は年平均で300店舗の実施を見込んでいる。既存店をそのままリニューアルする方向に注力していく方向性だ。つまり、ガスト自体は以後もかなりの数が温存されていく。
実際、ガストはさまざま戦略を行っている。
例えば、ガストでは2023年にグランドメニューを改定しているが、ここでは「アルコールの全品値下げ」や「小皿、シェア商品の拡大」等を打ち出している。コロナ以後に復活してきた「ちょい飲み」需要を拡充させ、結果的には客単価の増加を狙う意図も見えるが、ただでさえ円安が急激に進行し、物価高が進む現在において「値下げ」に踏み切っている。
また、こうした業績拡大の背景には、すかいらーくグループの店舗全店にわたって、ネコ型の配膳ロボットの拡充やセルフレジ導入などの、DX化を進めていることもある。
特に、配膳ロボットに関しては、2022年ごろから店舗への配備を増やしており、当初は人間が配膳をしないオペレーションに対して不安の声もあったが、低価格帯のファミレスであるガストについては、そこまでのサービスを求める声がなかったこともあり、かなり浸透している。
こうした戦略によって、ガストはかなり踏ん張っているといえそうだ。
意外と厳しいのは「ジョナサン」?
このとき、さまざまな決算関連の書類を見ていると、あることに気が付く。実は、すかいらーくグループの中でも、ガストより「ジョナサン」のほうが厳しいのではないか?ということだ。
実際、10年間という期間で見れば、もっとも多かった303店舗(2015年12月期)から188店舗(2023年12月期)と、100店舗以上を閉めている。割合にして38%も少なくなった計算だ。
母数が違うのでわかりにくいが、8%程度の減少にとどまっているガストよりも、はるかに減少率が大きいのだ。
すべての決算や店舗での取り組みは、すかいらーくグループ全体を合わせた形でしか見ることができないから、確定的なことはいえない。
ただ、減少率から判断するに、ガストよりもジョナサンのほうがより厳しい局面に置かれているのは間違いないだろう。
この理由は、ガストとジョナサンの、ファミレス内でのポジションを考えるとわかりやすい。端的に言えば、ガストのほうが低価格路線、ジョナサンのほうは高品質・中価格路線のファミレスだということだ。
高品質・中価格路線を進めるジョナサン
メニューを見るのが一番わかりやすい。例えばアルコールだ。
ガストでは、ビールは生ビール(アサヒスーパードライ)が1種類、ワインも赤と白が1種類ずつなのに対し、ジョナサンはビールについて、生ビール(プレミアムモルツ)と中瓶(ハートランドビール)の2種類を揃える。また、ワインもいくつかの店舗限定で、豊富な種類を取り揃えているところもある。
これに伴って、価格もジョナサンのほうが高い。種類が異なるから当然だが、ガストの生ビールは税込500〜550円に対し(ガストは地域によって値段が異なる)、ジョナサンの生ビールは税込605円、ハートランドの中瓶は税込659円だ。
また、食べ物も同様で、ジョナサンのほうはガストに比べると、より「素材へのこだわり・鮮度」を押し出している。すかいらーくの社長を務めたこともある横川竟は、自身がジョナサン社長に就任した際、新しい価値作りとして「安全と健康」を押し出した経緯を説明している。逆にその分、価格としては中価格帯での提供になっているわけだ。(『すかいらーく創業者が伝える「売れて」「喜ばれて」「儲かる」外食業成功の鉄則』による)
付け合わせの違いなどはあるが、ハンバーグの値段を比較してみると、ジョナサンのほうは、ハンバーグデミグラスソースが税込1394円なのに対し、ガストの目玉焼きハンバーグは税込620〜720円である。単純比較はできないものの、結構な値段の差があるなあと消費者としては感じてしまう。
ジョナサンが店舗として押し出すのは、こうした「食へのこだわり」である。それとともに、接客や店舗の雰囲気といった、付加価値的な要素もニーズとして求められるだろう。しかし、ここに一つ問題が生じる。
そもそも、「安さ」を訴求することの多いファミレスにおいて、ジョナサン的なポジションが中途半端なものになってしまっているのではないか、ということだ。
ガストであれば、商品の値下げやDX化をどんどんと進めて効率を上げることで、顧客としても満足のいく結果が得られる。消費者も、そこまでのサービスをそこに求めない。
一方、ジョナサンの場合、「ちょっとだけ高級」を押し出しているから、すぐすぐの値下げは難しいし、また、過度なDX化も顧客からしてみればジョナサンの雰囲気と合わないと思うかもしれない。「せっかくこれだけ払っているなら……」と思うのは、人情だろう。
これは主観に過ぎないが、ジョナサンの少し高級感を押し出す内装の中で、可愛らしいロボットが動いているのを見ると、どうもミスマッチな感じも否めないのである。
すかいらーくグループは全体としてDX化に取り組んでいるから、ジョナサンにおいては、店が本来目指す方向と、グループ全体の方向が乖離してしまう。
ロイホは好調だが、中価格帯の店は中途半端に?
逆に、他のファミレスはどうだろうか。
例えば、ロイヤルホストは、ジョナサンよりもさらに高価格帯のメニューが揃っている。店の方向性としても「脱低価格」路線を進めており、すでに2013年の段階で客単価は1170円に達している。
そしてロイヤルホストを見ると、配膳ロボットなどは導入されていない。店舗のサービス面での満足度を守るうえでは、これが正解なのかもしれない。
実際、ロイヤスホストを運営するロイヤルホーディングス2024年6月の中間決算を見ると、売上高・営業利益ともに過去最高を記録している。それだけが理由でないにせよ、恐らくこうした全体的な雰囲気作りに成功していることは指摘できるだろう。
以前、筆者はすき家の店舗を訪れ、その容器がすべてプラ容器になっている、通称「ディストピア化」をレビューした。その後、すき家の「ディストピア化」という言葉は、ほぼ一般名詞となり、こうした業務の効率化についてはさまざまな声があがった。
筆者としては、特に「ディストピア化」を批判するつもりはなく、その工夫を面白く感じていた。
実際、すき家ぐらいの低価格帯の店であれば、こうした業務の機械化による「ディストピア化」も許容されるだろう。なぜなら、顧客の期待は「価格」にあり、満足なサービス等を求めて来ているわけではないからだ。
大事なのは、DX化が戦略や客層にマッチしているか
つまり、重要なのはその店のターゲットと、その戦略がどれぐらい一致しているかである。ガストも、誕生した当初から「激安」路線を貫いており、その点ではDX化や効率化と相性がいい。
その点で、やはり中価格帯の店は、身の振り方が難しい。顧客からすれば、「せっかく、ちょっと高めのファミレスに来てるんだから……」となるし、そこでのサービスが安価なファミレスと同じであれば「じゃあ、そっちに行こう」となる。消費者からすると、なんとも中途半端に感じられてしまうのだ。実際、ジョナサンに訪れてそのように感じたことがある人も多いのではないか。
「ファミレス業界に、以前ほどの勢いがない」と一口に言っても、さまざまなファミレスがある。しかし、真っ先に苦境に立たされるのは、低価格帯のファミレスではなく、ジョナサンのような中価格帯のファミレスかもしれない。
(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)
09/18 10:00
東洋経済オンライン