「驚異のドラマ」米国人語る「SHOGUN」圧倒的魅力

真田広之

エミー賞では、真田広之氏自身も主演男優賞を受賞した(写真:ロイター/アフロ)

「SHOGUNは、真に、純粋に、優れたショーだった」

と興奮気味に語るのは、舞台演劇作品に贈られるトニー賞主演女優賞にノミネートされたことがある女優ジェニーヴァ・カーさん。

アメリカの優れたテレビ番組に贈られるエミー賞の授賞式で、俳優真田広之氏がプロデュース・主演したドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」にドラマ部門作品賞など過去最多の18の賞が贈られた。アメリカ人がなぜSHOGUNに惹かれ、グランドスラム受賞につながったのか、緊急取材した。

日本語と英語での熟練した演技は過去にない

「真田さんがスピーチで言ったように、東洋が西洋に出会う、という意味を多くのアメリカ人が学んだ作品だ。日本人がどうやって敬意を示すかなどを学ぶ『窓』となるドラマだ」とカーさんは、電話インタビューで答えた。彼女は、ネットワークテレビ局CBSのヒットドラマ「ブル(Bull)」で6シーズンにわたり出演したベテランだ。

アメリカメディアや業界関係者によると、SHOGUNは派手なハリウッド・キャンペーンも展開せず、「レーダー外」の存在だったという。しかし、エミー賞で25部門にノミネートされたことで、業界を驚かせた。さらに18部門で受賞という快挙で、カーさんが言う「優れたショー」だったことをいきなり見せつけた。

真田広之氏とアンナ・サワイさんの「ダブル」主演賞受賞について、カーさんはこう解説する。

「2人とも日本語と熟練した英語で演技し、しかもそれぞれの言語のニュアンスさえもつかんでいた。1つの作品でこうした俳優が2人以上もいるというのは、(ドラマでは)なかったことだ。サワイは集中した『静』と『動』の使い分けで見たこともない演技を見せた」

真田氏が主演賞を受賞したことで、「今後、(英語が話せる)日本人や他のアジア人男優が、ハリウッドの主役として抜擢される可能性を高めたと思う。今までアジア人男優が主役になったことはほとんどなくて、いつも助演だった。授賞式翌日の今日、ハリウッドは、アジア出身の男優や監督でヒット作をできる人物を探し始めているはずだ」とカーさん。

ジャッキー・チェン氏のようにハリウッドチックなコメディで楽しませるというのではなく、アジアの自国文化を体現できる男優に、真田氏がチャンスを与えたと強調する。

アンナ・サワイ氏も主演女優賞を受賞した(写真:ロイター/アフロ)

日本の歴史という「未知」に接する特殊な魅力

「SHOGUNは、驚異的なドラマだった」と話すのは、デビッド・ブッシュマン氏で、ペイリー・センター・フォー・メディア (旧テレビ & ラジオ博物館および放送博物館)の元テレビ・キュレーターだった。

同氏が注目するのは、映画とは異なるSHOGUNのドラマ性だ。

「ドラマは、エピソードごとに次のエピソードを視聴させる作りが必須だ。それには、強力な人物描写とストーリーテリングにリソースを傾注しなければならない。アメリカでの成功例では、『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア(邦題)』の主役トニー・ソプラノがそうであり、SHOGUNでは、吉井虎永、ジョン・ブラックソーン/按針、戸田鞠子が、(エピソードを見続けるために)際立った演技をみせた」

日本の戦国時代という設定で、日本の現代のアニメ、漫画、映画に親しんだ視聴者が、未知だった日本の歴史に接したというのも特殊な魅力だったという。

「視聴者は、容赦ないテンポと、何が起こったのかを知るために毎回エピソードが終わるたびにインターネットにアクセスしなければならない。それくらい濃密な神話に浸っているという体験を楽しんだ」

実際に、筆者の友人でエンジニアのイアン・パラデス氏は、戦国時代に関する本を読み、SHOGUNのストーリーが「100%フィクションではないと初めて理解した」という。

「全編を貫く王宮(発言ママ、武家の意味)の陰謀もとても興味深くて、それが二重三重の礼儀で包まれているのも面白かった」

西欧文化を学ぶきっかけにもなった

同時にアメリカ人が、17世紀当時の西欧文化を「逆に」学ぶきっかけになったという見方もある。日米文化についてのブロガー、作家で、早稲田大学客員教授のローランド・ケルツ氏は、こう指摘する。

「SHOGUNを(歴史的に)ごまかしがない作品にしている重要な要素は、ブラックソーンと彼の仲間のヨーロッパ人が、比較的洗練され文明化されていた17世紀の日本における”外国人”として描かれていることだ。

重要なシーンは、ブラックソーンが腐ったキジを吊るし、不気味でまずいウサギのシチューを作って、日本のホストたちは礼儀正しくいながらも味はひどすぎると思ったところだ」

「食べ物は、文化的違いの最も身近な象徴かもしれない。この場面で、エキゾチックでかつ野蛮な文化は、歴史的に支配的であった、つまり白人側だ」と鋭く指摘する。

女優のカーさんも「当時、イギリスに毎日入浴する習慣がなかったことなども学ぶ機会になった」と言う。

日本のアニメや漫画から流暢な日本語を学んだゲーム会社のマーケティング・コーディネーター、ミゲル・モランさんは、アメリカのドラマが陥っている一種のパターン化を指摘する。

「アメリカのテレビ番組は、(傾向として)スケールが小さく、設定がオフィスやレストランの中などになっている。それに比べて、ユニークで壮大なスケールのSHOGUNを見ることができて興奮した」

モランさんはまた、「主役の2人の演技も素晴らしかったが、全編を通して照明やメイク、せりふなどもすべての人物を際立たせる役割を果たしたと思う」とも語る。

SHOGUNはアメリカ国民の願いをかなえるもの

SHOGUNが描かれた戦国時代を、今年の混沌とした大統領選挙を体験している現代のアメリカに通じる部分があるという見方もある。日本在住の作家・翻訳家のマット・アルト氏は、授賞式前にニューヨーク・タイムズに寄稿し、こう分析した。

「私たちアメリカ人は今、戦国時代ではなく、戦国的文化の時代にある。真田が演じた虎永は、まさに今日に欠けている人物だ。分極化し、分断された世間を巧みに操り、それをつなぎ合わせることができる。

オーディエンスが真田が体現する虎永に惹かれるのは無理もない。2024年のSHOGUNは、単に魅力的なテレビ番組ではない。アメリカ国民の願いを叶えるものだ」

『SHOGN』の配信に先駆けて、ニューヨークで開催された特別イベントに参加した真田氏(写真:筆者撮影)

日本育ちで国際政治学者でもあるジョシュア・ウォーカー・ジャパン・ソサエティー理事長からも話を聞いた。

「SHOGUNは、東洋と西洋が出会うという時代を超えた物語だが、今回のドラマ化では、徳川時代から今日に至るまでの日本の魅力を、ハリウッドが魅力的だと感じるような信憑性をもって再構築した。

真田氏は、日本人初のエミー賞受賞俳優としてだけでなく、プロデューサーとしても評価に値する。普遍的でありながらユニークなストーリーテリングを求められる業界で、日本文化の魂が燦然と輝くような作品に仕上げることができたのだから」

すべてが「本物」であることにこだわった

日米文化の懸け橋を目指すジャパン・ソサエティーは今年2月、真田氏ら主要製作陣を招いて、公開前の試写会を開き、筆者は真田氏らにインタビューした。

そこで真田氏は、世界に「本物の(authentic)サムライ作品」を伝えたいと強調し、世界配信されることになったのを喜んでいた。過去最多のエミー賞を受賞したことで、「本物の」サムライ作品が真に日本の外で評価された。

「異文化の映画を作るときは、本物を作らなければいけない。金儲けだけが目的ではない、すべてが本物で、カメラの前にあるものはすべてが本質的なものでなければならない、という気持ちを込めた」とも真田氏は語っていた。そのこだわりが実を結んだエミー賞授賞式の夜だった。

アンナ・サワイ氏(撮影:筆者撮影)

(津山 恵子 : ジャーナリスト)

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