「小泉進次郎首相」なら日本株は上昇するだろうか

9人の候補者で、首相になったら株価が上がりそうな候補者は誰か(写真:ブルームバーグ)

事実上の次期首相を決める自民党総裁選挙(9月27日投開票)には、実に9人の政治家が立候補することになった。

前回のコラム「日本株は次の首相次第で再び停滞する懸念がある」(8月22日配信)では、夏場以降の日本株停滞の理由として、日本銀行の性急な利上げや岸田政権の機能不全などの影響を挙げたが、やはり「10月以降の政治体制がどうなるかわからない」という疑念が日本株市場の重しとなっているとみられる。

代表的な日本株の株価指標であるTOPIX(東証株価指数)の年初来の騰落率(約8%)は、米国株(S&P500種指数)の約19%を下回る状況が続いている(9月13日時点)。

安倍政権時の金融緩和を前向きに評価する高市氏

こうした状況が変わるかどうかは、次の政権の経済政策が大きく左右するだろう。2年程度先の経済成長率やインフレを左右するのは、マクロ安定化政策、具体的には金融財政政策である。筆者はそれぞれの候補者の考え方を、投資家の視点で最重視している。総裁選挙の候補者の経済政策に関する考え方が徐々に明らかになる中で、有力候補の経済政策に対する考え方を整理してみよう。

まず、高市早苗経済安全保障担当相は、前回の総裁選挙で安倍晋三元首相の応援を受けており、「『アベノミクス』を継続して経済成長率を高めるべき」との考えを明確にしている。経済成長が実現しなければ、自身が注力している経済安保政策も不十分になり、日本の安全保障が危うくなる、との立場である。

第2次安倍政権で実現した金融緩和を前向きに評価しており、「『失われた30年』は日本銀行の金融政策の失敗が招いた」と総括している。黒田東彦前総裁と同様の政策を、現在の植田和男総裁にも求め続けるだろう。

また、高市氏は、財務省などが重視するプライマリーバランスの黒字化目標を相当柔軟に位置づけており、財政政策の機動的な発動にも積極的である。ただ、現状の財政政策の手段として、減税に関しては「今の経済状況であれば考えていない」と発言している。

小泉元環境相は金融財政政策の重要性を理解しているか

一方、現時点で最有力候補と報じられているのが、小泉進次郎元環境相である。小泉氏の記者会見では、金融財政政策に関する発言はほとんど聞かれなかった。同氏や、支援する政治家は金融財政政策に強い関心はないとみられ、解雇規制の見直し、ライドシェア解禁などの政策が重視されている。

解雇規制については現行の不透明なルールには問題が多いので、金銭解雇ルールを明確化することが望ましいと筆者は考えているが、企業による強制的な解雇が増えるかどうかはルール設定次第である。ただ、日本の解雇要件はOECD(経済協力開発機構)諸国の中で平均的なので、解雇規制ルールの見直しが実現しても、日本経済の成長率に長期的に及ぼす影響はわずかである。

そもそも、日本の労働市場の問題が大きいようにみえるのは、解雇ルールが曖昧であることよりも、長期デフレの中で賃金の価格シグナル機能が働かなかったことが大きく影響していた。2024年にようやく賃上げが起こりつつあり、労働市場の流動化を通じた生産性向上を実現しつつあるのだから、金融財政政策を徹底して経済成長率を高めることがまず前提になる。小泉氏らがこの点を、十分理解しているかは定かではない。

石破茂元幹事長については、安倍政権時代からアベノミクスの成果を一貫して否定していた。今回示された政策集では、「経済あっての財政との考え方に立ち、デフレ脱却最優先の政策運営を行う」と書かれている。推薦人を集めるにあたり、金融財政政策の考え方を改める政治的な妥協が行われたのだろう。

ただ、つい最近も金融所得課税を引き上げる考えを示しており、地方政府への補助金支出にも積極的とみられ、再分配政策が強化されるだろう。結局、石破氏の根本の考え方は変わっていないとみられ、マクロ安定化政策が徹底されずに再分配政策だけが強まることになれば、日本経済は再びデフレと低成長に戻るリスクに直面する。

また河野太郎デジタル相からは、金融財政政策についての目立った言及はない。小泉氏のように強い関心がない、あるいは石破氏同様に拡張的な財政金融政策に否定的なのかははっきりしないが、後者に近いのではないかと筆者は警戒している。

従来の持論であった原子力発電所の廃止論などについては、実情に沿ったエネルギー政策にシフトしている。また、「納税者の確定申告の義務化」との考えを示したが、これはマイナンバー制度によって税務プロセスを効率化するということだとみられる。行政の効率化にはつながるだろうが、日本経済の成長率にはほとんど関係ないので、同氏が首相になっても日本株市場へのポジティブな影響はほとんどないだろう。

石破氏や河野氏ならデフレ逆戻りのリスク浮上も

一方、有力候補とはみなされていないが、茂木敏充幹事長が「古い財務省の考え方を転換する」「経済を成長させることによって税収を上げていく。その資金によって成長分野への投資を進める」と発言したことが注目される。

なぜこの考え方を持って幹事長の立場で党を動かし、岸田政権をサポートしなかったのか、その理由はわからない。だが、有力閣僚を務めた重鎮の有力政治家が「増税が不要」との考えを示したことの意味は小さくない。

さらに、一足早く立候補を表明した小林鷹之前経済安全保担当相も「経済は財政に優先する。今はアクセルを踏むとき」と述べており、増税政策には現状否定的である。

財政政策を政策手段として重視する有力政治家の考えを踏まえると、岸田政権時代には防衛増税が決まったが、その見直しが次期政権で実現する可能性がある。一方、金融財政政策を軽視する石破氏(あるいは河野氏)が首相となれば、緊縮的な財政政策によって、経済成長が失速してデフレに逆戻りするリスクが浮上するだろう。

現時点では、総裁選挙の情勢はかなり流動的であり、次期首相候補の金融財政政策に対する考え方はさまざまである。高市首相誕生となればアベノミクスが継続・強化される可能性は高く、この場合、日本株は再び米国株のリターンを再び上回るだろうと筆者は考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(村上 尚己 : エコノミスト)

ジャンルで探す