"推し"へのファンレター「自分の言葉」で書く方法

ノートに書く女性

「推し」にファンレターを届けたいとき、どうすればうまく自分の言葉で感想を伝えられるでしょうか?(写真:Carlos / PIXTA)
アイドルと宝塚をこよなく愛する書評家・三宅香帆さんが、長年培ってきた文章技術を「推し語り」に役立つようにまとめあげた著書『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』から一部を抜粋・再編集し、「推し語り」のコツやヒントを3回にわたってご紹介しています。
2回目の本記事では、推しに感想を伝えたいとき、その言語化の前に必要なプロセスについて深掘りします。
1回目:「やばい」以外の"自分の言葉"で「推し」を語るコツ

自分の言葉をつくるための3つのプロセス

仮に、推しにファンレターを書く機会があるとします。

推しの公演期間、5回はファンレターを書きたい。ということは、5回分のネタをひねりだしたい。ああ、でも5回分書けるような内容、思いつかないよ!

そう思ったとき、SNSで他人の感想を見る前にこのプロセスを踏みましょう。

① よかった箇所の具体例を挙げる
② 感情を言語化する
③ 忘れないようにメモをする

つまり、①心を動かされた箇所の具体例を挙げる→②自分の感情を言語化する→③それをメモする、という順番です。

もちろんこの①〜③のプロセスを踏まずにいきなり「書く」段階に向かってもいいですが、①〜③を手早くできるようになると、書くことがとても楽になるので、習慣として身につけることをおすすめします。

慣れてくると、頭の中でぱーっと①〜②ができるようになって、気がついたら③のメモを取りだし始めている!という状態になりますよ。

私の場合は、①〜③を他人の感想を見る前にやってしまいます。

そして③まで終えたところで、人の感想を見始めます。本格的な感想を実際に書くかどうかは置いておいて、SNSを見た前に「書く前の準備をすべて終える」習慣があるんです。

たとえば書評家として面白い本に出会ったとき、あるいは自分の好きな宝塚の公演を見たとき、または好きな映画や漫画にふれたとき……とりあえず①〜③のプロセスを一巡します。

そして自分の日記やX(旧Twitter)にがーっと感想を書いておく(このあと、ブログや記事のようなしっかりとした文章にするかどうかは、時と場合によります)。

この①〜③のプロセスを終えておくと、あとでいきなり「●●について記事を書かなきゃ!」「なんか●●にファンレターを書きたくなってきた!」という機会があったとしても、メモを読み返せばいいので、大変ラクなのです。

言語化とは「細分化」のこと

それでは紹介した①〜③のプロセスについて、詳細に説明していきましょう。

自分の言葉で感想を書くための3プロセス

①〜③でなにをやっているかというと、「自分がなにに感動したのか? どこを面白いと思ったのか? なんであの場面にもやもやしたのか? 違和感を覚えたのはなぜか?」など、自分の感情を細かく見ていく作業をしているんです。

ここでもっとも重要なことを言います。

「言語化するには、語彙力が必要だ」と世間ではよく言われますよね。本を読んで語彙力をつけろとか、聞いたことのある人は多いでしょう。

でも、推しの魅力を言語化するとき、本当に重要なのは語彙力ではありません。必要なのは、「細分化」です。言語化とは、いかに細分化できるかどうかなのです。

たとえば、あなたが好きなアイドルのライブについて語りたいとしましょう。ライブ、すごくよかった。あのよさを言語化したい。そう思ったときにまずやるべきは、「自分は」「どこが」よかったのかを具体的に思い出すことです。

これは箇条書きで構いません。下記に例を挙げますね。

【具体例】
・一曲目に●●の曲がきたこと
・●●のタイミングのMCで「●●」という発言がでたこと
・●●のダンスがうまくなっていたこと
・●●の衣装がかわいかったこと

などなど。ここで「感想」を書いてもいいですが、無理して書かなくても大丈夫。大切なのは心を動かされたところを細かく具体的に挙げること。

「好きだった」「よかった」「感動した」ところを挙げてもいいですし、反対に、「嫌だった」「違和感を覚えた」「好きじゃなかった」ところを挙げてもいいです。

全体的には好きだったとしても、ここはちょっと微妙だったな……と思う要素って、絶対にありますよね。無理して挙げる必要はないですが、あれば書いておいたほうが、あとで感想を書くときに役立ちます。

具体例の挙げ方

ライブ鑑賞の場合の具体例は、前ページで書いた要素になりますが、他のジャンルであれば下記のような項目を参考にしてみましょう。

◎フィクション(小説・映画・漫画・舞台など)
・好きな/好きじゃないキャラクター
・印象に残ったセリフ
・なんかすごく心に残っている場面
・びっくりした展開
・結局最後までよくわからなかった心情
◎イベント(音楽ライブ・ショーなど)
・自分に響いた歌詞
・よかった場面/曲
・舞台装置で気に入った点
・ぐっときた衣装
・ぴんときた人
◎人(アイドル・俳優・ミュージシャン・芸人など)
・自分がなるほどと思った言動
・好きになったきっかけ
・今まででいいと思った現場
・好きな髪型や服装
・やってくれて嬉しかった仕事

あくまで一例ですが、私はこんな感じで具体的にメモをしています。そして具体例をどのぐらいメモするか、どこまで網羅するかは、ぶっちゃけ、あなたがどれくらい「メモ魔」になれるかどうかによります。

ちなみに私はけっこうメモ魔なので、大量に具体例を記録しておくのが好きなんですが。メモが苦手な人も「感動ポイントを全部メモしなきゃ!」とプレッシャーを感じる必要はありません。それより、ひとつのことでもいいので、とにかく具体的に書いておきましょう。これがなにより大切です。

そして、自分に嘘をつかずに挙げること。

無理して「よかった点だけ」挙げるのではなく、「違和感を覚えた点」も含めて挙げることで、より自分の感覚を深く言語化することができます。嘘をつかず、楽しくできる範囲で、具体的に感動した点を挙げるのがポイントです。

感動ポイントを「細分化」すべき理由

心を動かされたところを具体的に挙げるうえで注意してほしいのが、「細かく」挙げること。

これは細かくたくさん挙げろ、と言っているのではありません。挙げるのが全体的な点ではなく、細かければ細かい点であるほどいい! という意味です。

細かく具体例を挙げることのなにがいいのか。それは、感想のオリジナリティは細かさに宿るからです。

たとえば、ライブの感想に「最高!」という言葉しかでてこないという悩みは、ライブの「どこが」最高だったのかを言えたら解消されます。ライブで「この曲が」演奏されたのが嬉しくて、「この歌詞が」あらためて響いて、「この演出が」自分の心を揺さぶった。

「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない (ディスカヴァー携書)

そんなふうに、最高だった点を細分化さえできれば、じつは語彙力なんてなくても、あなたのオリジナルな感想になり得るのです。

あなたの心に、どこが響いたのか。それを細かく挙げることによって、あなたの感想はあなたの言葉になります。

この具体例が細かければ細かいほど、ほかの人と違う感想になりやすいんですよね。

もちろん無理に他人と違う感想を言う必要はないのですが、それでも、あなた個人のオリジナリティある感想を書けたほうが、あなたが書く理由があるじゃないですか。だから私は、できるだけ細かい点が挙げられた感想が読みたいな、といつも思っています。

そう、言語化って、細分化のことなんです。

感想だけでなく、この世のあらゆる言語化は、まず細分化が必要です。言語化というと、なにかをそっくりそのまま言い換える表現のように思われますが、違います。言語化とは、「どこが」どうだったのかを、細分化してそれぞれを言葉にしていく作業なのです

推しが最高!しか言えないのが嫌だ

(出所:『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』)

(三宅 香帆 : 文芸評論家)

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