地下鉄なのに幻想的、「世界一長い美術館」が圧巻
ストックホルムの世界一長い美術館
2023年2月、あまりにも寒すぎる外気から逃げるように私たち夫婦は地下に潜っていた。夫婦で一緒に訪れるのは初めてのストックホルム。なんとか寒さから逃れられる方法でストックホルムを楽しめないかと下調べをしていたところ、どうやらストックホルムの地下鉄がすごいらしいという情報を入手した。
調べてみると、まるでファンタジーや映画に出てきそうな雰囲気のお洒落な地下鉄駅の数々があるらしい。ごつごつとした無骨な岩肌にアーティスティックなデザインが施され、およそ公共的な場所である地下鉄とは到底思えない非日常的な世界が広がっているではないか。
移動のための手段として利用する地下鉄に、デザインやアートの鑑賞を目的として訪れるということにもなんだか胸が高鳴っていた。とても私たち好みな世界観を見つけられた喜びに加えて、肌を刺すような凍てつく寒さの中を歩かなくてよいという安心感もどこかで感じていたように思う。
こうして地下鉄駅を巡ることが決まり、次は実際にどの駅を訪れるか選ぶことにした。各駅にさまざまなテーマがあり、どこも魅力的なデザインとなっている。
どの駅もいつか機会があれば行ってみたいと思える、人を惹きつける魅力にあふれてはいるものの、まず最初に訪れたい地下鉄駅はすんなりと決めることができた。決めることができた、というよりも一目惚れに近く、すでに最初から決まっていたといってもいいかもしれない。
地下鉄線3路線が交わるストックホルムを代表する駅
訪れたのはストックホルム地下鉄中央駅、現地ではT-Centralenと表記される駅だ。中央という名の通り、通称グリーンライン、レッドライン、ブルーラインというストックホルムの地下鉄線3路線すべてが交わり、地下鉄の他にも国鉄やバスなどさまざまな交通機関が乗り入れるストックホルムを代表する駅だ。
レストランやカフェなどさまざまなお店も入っている主要駅だけあって、駅構内はかなり広くてダンジョンのように複雑な構造をしている。最下層にあるブルーラインのプラットホームを目指す道中も、まるで冒険のようにわくわくできるのも醍醐味のひとつかもしれない。
目的の地下鉄駅がある最下層まで潜ると雰囲気ががらりと変わり、青と白が広がるアートの世界に包まれた。ストックホルム地下鉄中央駅はプラットホームのデザインも目を見張るものがあり、地下を走る電車の青いカラーともよくマッチしている。
まるで電車とセットでひとつの作品となっているようだった。特にプラットホームへと続くエスカレーター付近のデザインが圧巻で、まるで地下の岩盤がむき出しになった洞窟のような空間がツタ植物のデザインで覆われている。人の往来の少ない夜の時間に訪れたこともあってか、どこか心落ち着くブルーの世界での非日常的な体験は何事にも代えがたいものがあった。
ストックホルム地下鉄中央駅の後に訪れたスタディオン駅もまた素晴らしく、青い空にかかっている虹のような絵を見ると心が踊り出すような気持ちになる。
童心に帰ることができる壁面アートが少しダークさも感じられる洞窟のような空間に広がっているギャップにも格好良さを覚えた。こんな素敵な空間が90駅もあるのかと思うと驚きを隠せない。
この芸術的な地下鉄を日常的に使っている人々はどのように感じているのだろうか。
コンセプトは「駅全体を作品にする」
アートを身近に感じてもらえるようにと1950年代からはじまった、ストックホルムの地下鉄アートの活動。今となっては3路線101駅のうち90駅以上が「駅全体を作品にする」というコンセプトのもと、壁面アートやオブジェに覆われ、ストックホルムの地下鉄は「世界一長い美術館」と呼ばれている。
駅のホームの隅で妻とふたりで記念撮影をするため、カメラのタイマーをセットして妻のもとに駆け寄ると、その姿を目にした方から「ほほえましくて素敵だね」と声をかけられたり、撮影中にたまたまその場に居合わせたグループから「せっかくだから自分たちのこともそのカメラで撮ってくれないか」と声をかけられたり、なんだか心が温まるような平和な時間が流れていたのは、このアートの力なのかもしれない。
国民的アニメ映画『魔女の宅急便』の舞台ともいわれる鮮やかで可愛らしい造形の建物が並ぶ街並み、バロック様式を取り入れた上品で美しい歴史的な宮殿、スウェーデンの歴史や文化に触れることができる博物館。ストックホルムという街の魅力は枚挙にいとまがない。
もし北欧スウェーデンの首都ストックホルムを訪れることがあれば、是非「T」マークのサインにも注目してみてほしい。「Tunnelbana(トゥンネルバナ)」というスウェーデン語で地下鉄を意味するサインで街中のいろんな場所で見かけることができるだろう。そこが地下鉄の入り口、いや、ちょっとした非日常の冒険への入り口になっている。
(まるたび夫婦の休暇 : インフルエンサー)
09/14 13:00
東洋経済オンライン