ヒョンデとBYD「6車種のデザイン」本当のところ
韓国・ヒョンデのスポーツモデル「アイオニック5N」と、中国・BYDの上級セダン「シール」が、今年6月にそろって発売された。これでアジアの輸入車ブランドが、それぞれ3車種ずつの電動車両を揃えたことになる。
ヒョンデは、これ以外に燃料電池自動車(FCEV)の「ネッソ」も日本で販売していて、グローバルではエンジン車も数多くラインナップ。一方のBYDは、プラグインハイブリッド車(PHEV)で攻勢をかける。
それなのに両社とも日本でEVを中心とするのは、量販が見込めるクラスに参入の余地があると考えているからだろう。
軽自動車の日産「サクラ」と三菱自動車「eKクロス EV」の姉妹車を筆頭に、日産「リーフ」「アリア」、トヨタ「bZ4X」とスバル「ソルテラ」の姉妹車、マツダ「MX-30」など、日本メーカーのEVラインナップも増えて入るが、実際に“量販”といえる台数が売れているのは、サクラ/eKクロス EVぐらいだ。
では、2つのアジアンブランドは、デザインについてどのような路線を目指しているのか。「アイオニック5(5Nを含む)」「コナ」、ネッソのヒョンデ3モデルと、「ATTO3」「ドルフィン」、シールのBYD3モデルから探ってみたい。
ランボルギーニやアウディで活躍したデザイナーを起用
両ブランドで共通しているのは、フォルクスワーゲングループなどで活躍した、欧州のデザイナーを引き抜いてトップに据えたことだ。
具体的には、ヒョンデはランボルギーニ「ガヤルド」「ムルシエラゴ」などを担当したルク・ドンカーヴォルケ氏、BYDはアウディやアルファロメオのチーフデザイナーを務めたヴォルフガング・エッガー氏を招聘(しょうへい)している。
日本のメーカーは、外国人をチーフデザイナーに据えてもうまくいかないことが多かったので、こうした動きに否定的な人がいるかもしれないが、BMWがアメリカ人のクリス・バングル氏、VWがイタリア人のワルター・デ・シルヴァ氏を起用して成功した例もあり、グローバルで見れば不思議なことではない。
でも、ヒョンデとBYDのデザインで共通しているのはこのぐらいで、他はことごとく違っている。
エクステリアを見て感じるのは、ヒョンデの特にアイオニック5とコナは、「他と違う」ことをアピールしているのに対し、BYDの3車種はトレンドに沿った形であることだ。これは韓国が約5000万人、中国が14億人以上という人口の違いも関係しているだろう。
自国市場に限りがあるヒョンデが、グローバルで戦うべく、独自のアイデンティティをアピールするのに対し、BYDをはじめとする中国車は、自国市場がメインで優位な立場でもあるので、素直に時流に合わせていると解釈している。
またそれぞれの車種は、ブランドの中での立ち位置も異なる。ヒョンデの「アイオニック」はEVのサブブランドであり、残りの2車種については「ネッソよりコナのほうが、世代が新しい」と、コナの試乗会でインポーターが説明していた。
BYDは、ATTO3が本国では「元プラス」と呼ばれ、「漢」や「唐」などとダイナスティ(王朝)シリーズを形成するのに対し、ドルフィンとシールは、名前が示すようにオーシャン(海洋)シリーズに属する。これもインポーターから教えてもらったことだ。
歴史あるヒョンデ、新興のBYDという違いも
こうした背景を知ると、ヒョンデではアイオニック5とそれ以外、BYDではATTO3とそれ以外のデザインテイストが違うことにも納得できる。
たしかにアイオニック5は、この6車種の中では、群を抜いて前衛的だ。サイドには大胆な斜めのキャラクターラインが入り、ヘッドランプやリアコンビランプは「パラメトリックピクセル」と呼ばれる、細かいドットを規則正しく並べた意匠であり、モダンかつクールである。
パッケージングはオーソドックスな2ボックスなので、一見すると大きさが掴みにくいが、それだけバランスが取れていると言えるし、1975年に登場した同社初の自社開発乗用車「ポニー」のDNAを継承したというヘリテージ性にも配慮した造形は、歴史の浅いBYDにはできない技だ。
残る2車種、ネッソは上下に薄いヘッドランプが今風であるものの、それ以外はむしろ常識的、コナのほうはピクセルデザインのLEDを線のように並べ、下のコーナーにウインカーなどを集めており(リアも同様の造形)、好き嫌いが分かれそうだ。
コナは、ボディサイドも明確に張り出した台形の前後フェンダー、リアクォーターのモールからドアパネルにつながる斜めのキャラクターラインなど、かなり大胆である。
それと比べると、BYDで最初に日本に上陸したATTO3は、EVらしさをあまり感じないオーソドックスなクロスオーバースタイルだ。
本国で展開している同じダイナスティシリーズの漢は、ATTO3と似た顔つきだし、唐は大きなグリルを据えているぐらいなので、シリーズとしての方向性とも言える。
オーシャンシリーズのドルフィンとシールのうち、より海洋生物っぽいのは、ボディサイズに余裕があるシールのほうだ。
ただし、テスラのようにシンプルに徹しているわけではなく、ヘッドランプまわりやボディサイドにはアクセントをつけている。
ドルフィンは小柄で、パッケージングはATTO3に近い。フロントマスクで親しみやすさを出しつつ、鋭角的なサイドのキャラクターラインで躍動感も表現しており、エントリーモデルにふさわしいキャラクターが与えられている印象だ。
ちなみに6車種のボディサイズを小さい順に並べると、ドルフィン、コナ、ATTO3となり、少し離れてアイオニック5とネッソが同等、シールはSUVではなくセダンということもあり、この2車種より長くて低くなる。
インテリアは「ブランド」を反映する
インテリアは、エクステリアと比べると、ブランドごとの統一感が強い。とりわけインパネは、ヒョンデの3車種がすべてメーターとセンターをつなげた横長のディスプレイを置くのに対し、BYDは小ぶりのメーターパネルと、縦にも横にもできる大きなセンターディスプレイの組み合わせが共通する。
ヒョンデの横長ディスプレイは、アイオニック5が平面なのに対し、ネッソとコナはセンターが少しドライバー側にチルトしている。ネッソはインパネ中央から伸びるセンターコンソールが高めで、スロープしていることも特徴だ。
逆にアイオニック5は、インパネとセンターコンソールを離すことで、EVならではのフラットなフロアを強調。また、インパネだけでなくドアトリムも水平基調になっていて、サブブランドならではのこだわりを感じる。
BYDの3車種でもっとも個性的なのはATTO3で、スポーツジムをイメージしたというエアコンルーバーやドアグリップ、ギターの弦を思わせるドアポケットのサポートなど、エクステリアとは対照的にアクが強めだ。
海洋シリーズのドルフィンは、波をモチーフにしたエアコンルーバー、イルカのヒレにヒントを得たというドアオープナーなど、ATTO3ほどではないが独自性が強い。その点シールは、センターコンソールなどが有機的な造形であるものの、上級車種ということもあって主張は控えめだ。
キャビンの広さは、ボディサイズも近いコナとドルフィンが同等で、ATTO3は少し広め。残りの3台は、身長170cmの自分なら足が組めるほど広い。とりわけ、後席もスライドとリクライニング可能なアイオニック5のスペースは圧倒的で、EVのパッケージングをフルに生かしていると思えた。
販売台数の差は販売網の差だけではないはず
全体的に見ると、ヒョンデは外観、BYDは内装で個性を打ち出しているが、BYDのドルフィンとシールは主張が抑えめであり、より多くの日本人に受け入れられやすいデザインであると感じている。
日本自動車輸入組合(JAIA)が発表した2024年1~7月の新車乗用車登録台数を見ると、ヒョンデが382台、BYDが1187台と明確な差がついている。
ヒョンデがオンライン販売、BYDは実店舗販売という販売方法の違いや、有名人を起用したプロモーションの効果もあるだろうが、デザインの方向性の違いもこの数字に関係しているのではないかと思っている。
ヒョンデとBYD、それぞれのデザインについて、皆さんはどう思われるだろうか?
(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)
09/11 13:00
東洋経済オンライン