エネルギー基本計画は「再エネ第一」に組み替えを

再生可能エネルギーの主軸となる太陽光発電。エネルギー国産化の鍵を握っている(写真は岡山県瀬戸内市のメガソーラー発電所、撮影:岡田広行)

いま、経済産業省の総合資源エネルギー調査会で、第7次エネルギー基本計画の策定をめぐる議論が進められている。エネルギーの安定供給を確保しつつ、どのようにして脱炭素化を進めるのか、移行過程をどうするのかが、大きなテーマとなっている。

エネルギーの脱炭素化では、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)と原子力発電の拡大が焦点となっている。ここでは、経済界出身の委員を中心に、再エネよりも新増設を含む原発の拡大を求める声が強い。

その理由として、①原発が脱炭素電源であること、②データセンターや半導体工場などの増設で電力需要の増大が見込まれていること、③にもかかわらず、再エネは立地の制約や不利な自然条件から拡大には限界があること、④太陽光パネルなど再エネ発電機器は海外依存度が高く、国内産業振興や経済安全保障上の問題があること、⑤発電量が天候に左右される変動性電源であること、などが挙げられている。

これらの理由は本当に、妥当しているのだろうか。

本稿では、エネルギーの安定供給を確保しながら、2050年までに「最小費用」で脱炭素化を実現するにはどのような道筋をたどるべきかを明らかにする。

シミュレーション分析によって、上記①~⑤の主張の妥当性を検証したい。結論を先に言えば、2050年には再エネが電力消費の88%、原発を合わせると脱炭素電源が100%を占めるというシナリオを描くことができる。火力発電は段階的に削減され、2050年にはゼロになる。

どのようにシミュレーションするのか?

著者の一人である白石が所属する米国ローレンス・バークレー国立研究所では、電力システム上の技術制約、変動性再エネの統合費用、そして再エネの増加に伴って増強すべき調整力などの要件を備え、電力の安定供給を保ちつつ最小費用で脱炭素化を実現するよう、発電、送電、蓄電設備の投資・運用を最適化するシミュレーション・モデルを開発している。

電力システムへの再エネの大量導入が何をもたらすかを分析するには、電力の安定供給を維持するための技術的対策を検討し、それらを組み込んで電力システムを作動させるための追加的なコスト(統合費用)を算定、モデル試算に反映させる必要がある。

白石は、このモデルと最新のデータを用いて、急速な価格低下を続ける国産エネルギーの太陽光や風力発電、そして蓄電池が、電力の脱炭素化と安定供給にどのような役割を果たすのかについて分析を進めてきた。

日本に関しては、①2035年までに電力の90%をクリーンエネルギー化する研究(Shiraishi et al., 2023)、そして、②2050年までに電力を100%ゼロエミッション化する研究(Shiraishi et al., 2024)を発表済みである。これらの成果を基に、上記に挙げた問いに答えることにしたい。

なお、日本の再エネの買い取り価格は下図のとおり大幅に低下し、すでに火力発電と同等の水準に達している。これらは今後も大量生産と技術革新で低下すると考えられ、洋上風力を含むいずれの変動性再エネもLCOE(Levelized cost of electricity、均等化発電原価)で10円/キロワット時未満になると予測される。

つまり、日本においても、再エネは最も安い電源になりつつあり、国産エネルギーである再エネを最大限に導入し、活用することは経済的に理にかなっている。

しかし、再エネを大量導入しつつ、電力の安定供給を満たすには、再エネの電力システムへの巧みな統合が必要であり、それを実現する技術的対策の費用、すなわち統合費用を低減させることが不可欠になる。

再エネを統合するための技術的対策

再エネの統合費用が発生する原因は、変動性再エネの次の3つの特徴にある(例えば、Heptonstall and Gross, 2021)。

すなわち、①昼夜や季節によって発電量が変わる「変動性」、②天候などの条件は確率的であるために再エネの発電電力量の予測に誤差が生じうる「不確実性」、そして③利用可能な再エネ資源の質が場所によって大きく異なる「立地制約」である。

しかし、これらの課題を克服する技術的・制度的対策のオプションは豊富に存在し、それらを計画的に幅広く活用することで統合費用を最小限に抑えることは可能である。

ただし、対策の導入には一定の期間(リードタイム)が必要となる。再エネの大量導入が実現する前に、十分な時間をとって対策導入の準備をすることが重要だ。幸い、日本の変動性再エネ(太陽光、風力)の割合は1割前後と非常に低い水準であり、今から準備をすることで統合費用を小さく抑えることができる。

①の変動性(統合費用のうち、「プロファイル費用」の発生源)に対する技術的対策としては、蓄電池によるエネルギー貯蔵、連系線を含む送電線による広域化と変動性再エネの出力平準化、火力発電所の改修、フィード・イン・プレミアム(FIP)など再エネ買い取りの市場化、再エネ電源種別のバランス化、タイム・オブ・ユース(TOU)契約などの電気料金体系の導入などがある。

②の不確実性(統合費用のうち、「バランシング費用」の発生源)に関する技術的対策としては、蓄電池などの各種蓄エネ技術による調整力の強化、電力取引市場におけるゲートクローズ(市場閉場) 時間の短縮、機械学習(AI)を用いた再エネ出力予測精度の向上などがある。

最後に、③の場所の制約(統合費用のうち、「グリッド費用」の発生源)に対する技術的対策としては、地理空間情報やシミュレーションを用いた再エネ適地の正確な選定や、再エネ適地に関するポジティブ・ゾーニングと統合した送電網計画、許認可の合理化による取引費用の低下などが挙げられる。

以上の技術的対策にかかる統合費用を抑えるうえで、中でも非常に大きな役割を果たすのが、蓄電池である。下の図のとおり、世界の蓄電池市場は過去10年間で40倍以上という爆発的な拡大を果たし、2023年には年間導入量が40ギガワットに達した。その間にコストは4分の1未満に低下している。

電力システムの「柔軟性(Flexibility)」こそ重要

以上を「技術的対策」と呼ぶと、日本語の語感ではハードウェアによる対策のイメージが強い。しかし実際には、種々の制度改革や、企業・人々の行動変容を促すインセンティブの導入など、ソフト面での対策も非常に重要だ。

ハード、ソフト両面の対策が融合し、協調することで電力システムの「柔軟性」を高められる。再エネが増えるタイミングで他の電源の出力を下げたり、逆に需要側を引き上げて余剰再エネを消費したり、さらには余った再エネを蓄電したりして、システムコストを引き下げつつ電力需給バランスを保つことができる。

そうした柔軟性を機能させ、電力需給のバランスを促すシグナルとなるのが、電力市場の価格である。

再エネが増えて電力が余るタイミングで市場価格は下がる。小売価格を市場価格と一定程度相関して設定(リアルタイム・プライシングやTOU契約など)することによって、経済合理的に考える企業であれば、安価な時間帯に操業することで、電力コストを引き下げるだろう。

家庭も同じだ。屋根に付けた太陽光パネルで発電した電気を自家消費するか、備え付けの蓄電池やEVで充電するか、それとも売電するか、小売価格を見ながら最も得になるオプションを選択する。

こうして電力市場の価格変動に合わせ、供給側も需要側も自らが最も得になるよう柔軟に行動を変える結果、電力システム全体で需給バランスが保たれる。まるで、個々の楽団員が協調的に演奏して全体として美しいハーモニーを奏でる交響楽団のようだと、アメリカのロッキーマウンテン研究所のエイモリー・ロビンズ氏は述べている。

他方、第7次エネルギー基本計画の審議では、いまだに「ベースロード電源」の概念が喧伝され、 予見性・確実性をもたらす電源として24時間定格運転が可能な火力発電や原発が望ましいという意見表明がなされている。

だが、「ベースロード電源」という概念は国際的にはもはや死滅しつつあり、「柔軟性」に取って代わられている。それに伴って再エネの変動性や不確実性は、上記の幅広い対策によって十分対処可能なものと考えられている。重要なのは、供給側・需要側の両面で柔軟性を高めることにあり、再エネの変動性を吸収しうるよう、電力システムの力を高めることだ。解くべき課題の設定が変化しつつある点に気づいていないのは、日本だけかもしれない。

カーボンニュートラルに向けた費用最小化の経路

次に、2050年に電力の脱炭素化を最小費用で実現する経路に関するシミュレーション結果を紹介しよう。下表に電源種別ごとの設備容量、発電電力量に占める割合(電源構成)、炭素強度、システムコスト、電力自給率等をまとめた。電力需要は電化率の上昇により、2050年までに2020年の1.5倍になると想定している。

結論の第1は、発電費用がもっとも安価な電源として太陽光と風力が選ばれ、主力電源になるということだ。2040年には両者合わせて発電電力量の58%、2050年には75%まで増加する。これらの割合が増加した結果、1日未満の短期の変動性に対処するため、蓄電池が2030年代から本格導入される。

結論の第2は、地域間連系線の強化や、再エネ種別のバランスに合わせた蓄電池の導入により、電力の安定供給を確保しつつコストは横ばいに抑え、2040年までに炭素強度(排出係数)を8割以上引き下げられるということだ。

ただ、蓄電池は単位エネルギー(キロワット時)当たりのエネルギー貯蔵費用が高いため、電力を大量に長期貯蔵できず、数日から数カ月にわたる長期の変動再エネの発電の落ち込みに対応できないという問題がある。2030年代までは天然ガス火力がこうした長期の落ち込みを支える機能を担うが、最終的なカーボンニュートラル化において、この点を克服するのが水素だ。

結論の第3は、脱炭素の最終段階(2040年代)に、天然ガス火力を再エネ(とくに大きく伸びる洋上風力)で置き換えることである。反面、その(季節間)変動性の克服も課題になる。そこで、再エネ電力が余るときは、それを電源とする水の電気分解により「グリーン水素」を国内で製造し、タンクなどで貯蔵すれば、長期蓄エネ(LDES: Long-duration energy storage)として機能する。必要な際に燃料電池などで電力に戻すことができる。

再エネ大量導入で国産化可能な「グリーン水素」

水素は国内で製造する方法と、海外の安価な電力で製造して液化して輸入する方法がある。日本で水素政策が議論されるときは、もっぱら後者が前提にされているように見受けられる。後者のほうが安価だから、という理由だ。ところが本研究は、その反対の結論を引き出した。さまざまな仮定を置いて国産と海外輸入の経済性を比較したところ、ほとんどのケースで国産水素のほうが安価であることが示された。輸入水素の需要は小さく、国産水素を製造して長期エネルギー貯蔵を行うほうが経済的であることがわかった。

海に囲まれた日本が遠方から水素を輸入する場合、天然ガスと同様に液化して輸送し、そこから気化することが最も安価な方法である。この点は、陸上の天然ガスパイプラインを改修して利用できるアメリカやヨーロッパとは大きく異なる。

その液化、輸送、気化の際に多くのエネルギーが失われる。さらに、港や液化設備などの関連設備の整備には巨額の投資が必要になる。仮に再エネ電力が非常に安価な国(オーストラリアなど)で水素を製造したとしても、液化、輸送、気化などのプロセスを通じて日本で利用する段階では数倍の費用がかかる。それは輸送が容易とされるアンモニアなどに改質して輸送し、水素に戻す場合でも本質的には同じことである。日本政府が掲げる非常に野心的な20円/Nm3(ノルマル立方メートル)という供給コストで水素を輸入できたとしても、さまざまな再エネ・蓄エネの技術コストを置いて費用最小化計算を行った結果、ほとんどのケースで国産水素によるLDESが選択される(すなわち国産水素のほうが安価である)ことが示された。

また上図のとおり、短期と長期のエネルギー貯蔵のニーズを蓄電池と水素で分担することで、排出ゼロ化の費用を大幅に引き下げることができる。蓄電池は年間を通じて毎日充放電を繰り返す一方、水素は安価な余剰電力が多い春などの時期に大量のエネルギーを貯め、残余需要が多い冬などの時期に貯めたエネルギーで発電する。このため、システムコストを抑えられる。

余剰再エネによる国産の「グリーン水素」の戦略的な活用は、ガス火力をゼロにする電力システムの脱炭素化の最終段階(2040年代)のコストを引き下げ、電力自給率の向上に資する。さらに、水素や水素由来のアンモニアなどの燃料は、石油に替わるエネルギーの戦略的備蓄、船舶や航空機など長距離輸送の燃料、化学産業などの原料として活用することが期待され、電力部門を超えてエネルギーシステム全体の安価な脱炭素化を可能にする。

電力の脱炭素化を通じて日本経済の成長へ

以上により、蓄電池や長期蓄エネ(LDES)を活用し、国産再エネを大量導入することで、電力の安定供給と脱炭素化とを両立させうることを示した。しかもこの経路は、脱炭素化を最小費用で実現する道であり、電力自給率は、現在よりもはるかに高くなる(現在の18%⇒88%)。経済合理的かつ経済安全保障上、優れた選択だといえよう。またこの結論は、統合費用 を考慮したとしても、再エネが最小コストの電源であることを示している。

総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の事務局資料(第59回、2024年7月23日、資料1、スライド5枚目)に示されているように、原油、ガスなど鉱物性燃料の2023年の輸入金額は26兆円にも上り、貿易赤字の最大要因である。これは自動車、半導体製造装置などで稼いだ金額(約29兆円)をほぼ打ち消すほどの規模だ。

こうした日本のエネルギーシステムの海外依存体質は持続可能ではなく、抜本的な転換が必要である。本稿冒頭で示した、エネルギー基本計画をめぐる議論の場で示された再エネへの疑問への回答として、本分析結果の結論を以下のようにまとめたい。

①再エネが第1の脱炭素電源であることは疑いなく、②&⑤電力需要の増大が見込まれるとしても、再エネはその量的拡大によって十分需要に応えうる。ただし、変動性を制御するために蓄電池と水素への投資を進め、それらが短・長期の十分な蓄電機能を果たすことが条件となる。

③自然条件の課題は、洋上風力への展開(とくに浮体式)、そして住宅・建築物や農地への太陽光発電のさらなる展開で克服可能である。

④再エネ機器の高い海外依存度によるデメリットはたしかにあるが、化石燃料の大量輸入がもたらす巨額の貿易赤字を、再エネ大量導入で解消できることのメリットのほうがはるかに巨大である。

本分析では 、再エネ電力とグリーン水素製造は国産化を前提としている。政府や産業界のシナリオによれば、水素は現在、海外から輸入する前提となっており、脱炭素化は日本の貿易赤字をいっそう増大させる要因になりかねない。本分析によれば、再エネ電力とグリーン水素製造の国産化により国内産業を振興し、貿易赤字の最大要因を解消することになる。これこそ、日本経済の成長を加速させる道ではないだろうか。

[引用文献]
P. J. Heptonstall and R. J. K. Gross, “A systematic review of the costs and impacts of integrating variable renewables into power grids.” Nature Energy. 6, 72-83, 2021. https://doi.org/10.1038/s41560-020-00695-4

K. Shiraishi, et al., "The 2035 Japan Report: Plummeting Costs of Solar, Wind, and Batteries can Accelerate Japan's Clean and Independent Electricity Future." Lawrence Berkeley National Lab. (LBNL), Berkeley, CA, LBNL-2001526, 2023. https://emp.lbl.gov/publications/2035-japan-report-plummeting-costs

K. Shiraishi, et al., "The role of hydrogen as long-duration energy storage and as an international energy carrier for electricity sector decarbonization." Environmental Research Letters. 19 084011, 2024. https://doi.org/10.1088/1748-9326/ad5856

(白石 賢司 : 米国ローレンス・バークレー国立研究所 研究員)
(諸富 徹 : 京都大学大学院経済学研究科教授)

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