京大教授が説く「株式投資」シンプルかつ深い心得

株価の動向

個別株投資をするか、しないか、迷っている人に伝えたい「株式投資の本質論」とは?(写真:tabiphoto / PIXTA)
iDeCoや新NISAでつみたて投資信託をしている人の中には、次のステップとして、個別株投資を考えている人もいるでしょう。しかし「損をしそうで怖い」「忙しくて時間がない」などの理由で二の足を踏んでいる人も多いのでは。
そのような中、日本生命保険の資産運用部門の担当取締役をへて、京都大学で証券投資を分析・研究、60年にわたり株式市場と付き合う川北英隆氏は、「売買をなるべくせず、長期保有によって、企業や経済成長の利益を享受することが株式投資の本質」と説きます。
川北氏の新著『京都大学人気講義の教授が教える 個別株の教科書』より一部を抜粋、再編集し、株式投資の本質論について3回にわたってお届けします。今回は1回目です。

「資産運用」と「投資」は異なる

2023年、政府は「資産運用立国」という政策を打ち出し、「貯蓄から投資」とのかけ声の下、新しいNISA(少額投資非課税制度)を導入した。

政府が「投資立国」ではなく「資産運用立国」を政策目標とした背景には、個人の金融資産の形成において、株式や債券を売買して儲けようとするのは邪道である、そうではなく、じっくり保有することで資産を増やしていくことが王道だとの発想がある。

そのように筆者は漏れ聞いている。この発想はきわめて正しい。

ここで、非常に大切なことを書いておく。それは「資産運用」と「投資」は異なるということだ。

一般に用いられる「投資」には「売買する」ニュアンスが強い。これに対して、「資産運用」には「売買」の意味が乏しい。むしろ長期間にわたって金融資産を保有するとの意味あいが強く込められる。

そもそも個人が株式を買う場合、大別して2つの意図がありうる。

① 安く買って高く売り抜けたい

② 優れた企業の株式をじっくりと持っていたい

である。

①を「短期売買型(もしくは短期投資型)」、②を「(長期)資産運用型」とする。この2つを区別しないのが一般的だが、実際はどちらを選択するかにより期待できる収益率に明瞭な差異が生じる。

「短期売買型」とは、これまでの一般的なイメージとしての「株式投資」である。

では短期売買はどの程度成功するのだろうか。

短期売買型と長期資産運用型の違い

単純化すれば「誰かの買い」は「誰かの売り」である。このため投資家全体としては、短期売買によって損得は生じず、誰かの得は誰かの損、この損得を足し合わせればチャラ、すなわちゼロサムである。

むしろ手数料やそれにかけた時間などを考慮すれば、合計はマイナスになる。さらにはその道のプロもいるうえに、最近ではAI(人工知能)の発達も著しい。これらに個人の投資家は勝てない。

つまり短期売買型とは投機である。個人を短期売買型に向かわせれば、結局は損失で終わり、資産を増やすどころではない。

これまで「貯蓄から投資へ」と資金が流れなかったのは、「株式とは売買で儲けるもの」との思い込みが強すぎ、損失を被った個人が多かったためだ。

これに対し、長期の資産運用型はどうだろうか。

経済の成長とともに企業は成長し、利益を増大させる。その企業利益を反映して配当金が支払われ、さらには株価が形成されるのなら、長期保有は投資家にプラスの収益をもたらす。

つまり資産運用型なら、投資家は企業成長の利益を享受できる。

また資産運用型の資金が企業に向かえば、企業の成長を促し、経済が成長する。まさに政府が期待しているような「個人金融資産、企業、日本経済」の三者の成長と好循環が実現するだろう。

優れた企業の株式を「長期間保有」が重要

筆者は、長らく日本生命保険の資産運用部門に携わったのち学会に転じ、証券投資を分析・研究してきた。一方で、個人としても幼少から株式に親しみ、今日まで株式投資を続けている。

一個人としては結局のところ、「優れた企業の株式を長期間保有することが重要」との結論に至った。

市場全体が非常な活気に包まれ、株式と名前がつけばなんでも上がったとき、「出遅れた」と感じたこともある。しかし結果として大ケガもせず、それなりに満足のいく結果を残せてきた。

長期優良株の見つけ方のポイント

(出所:『京都大学人気講義の教授が教える 個別株の教科書』を参照し、東洋経済作成)

「優れた企業の株式を長期間保有する」ことについて、別の表現をしておく。

成長しつつ、内外の経済活動を支えている複数の個別企業の株式(個別株)を長期間保有することにより、それらの企業が実らせる多くの果実のうちの1個を分け与えてもらえる。

たった1個の果実だとしても、ずっしりと重く、個人の生活には十二分な大きさだろう。

確認のためにもう一度述べる。「短期売買」は企業が実らせる果実とは無関係のゼロサムのゲームである。「長期資産運用」は経済成長が実現している社会ではプラスサムであり、長期資産運用を目指した全員が利益を享受できる。

長期資産運用はプラスサムであるから、株式に関する知識があまり高くないとか、時間がないといった個人にも向いている。

「将来性があり、経営も優れていて素晴らしいのでは」と思う企業の株式を買い、その後は時たま株価や業績を見る程度であっても、長い時間が経過すれば、ずっしりと重い果実を得ている可能性が高い。

これが筆者の60年にわたる株式市場との付き合いから得た結論である。

1個のずっしり重い果実を手にしてほしい

京都大学において2005年から今日まで、証券投資理論、証券市場分析などの講義やゼミに携わってきた。理論や分析結果を議論する合間、株式投資の話題も時々だが学生に話すことがある。その際に、しばしばこう説明してきた。

本当の株式投資(株式保有)とは副業の一種である。

自分の好きな仕事をしながら、もしくは趣味を楽しみながら、ついでに株式投資を楽しみ、できれば1個でも2個でも、まあ半分でもいいので、成長の果実を分けてもらうことである。

副業だから、株式に多くの時間を取られたくない。

いつも学生たちに紹介する理想の生活像として、「常夏のリゾート地で夕日を眺め、ワイングラスを傾けながら、ふと気づいたようにパソコンを広げて当日の株価と、それに関連するニュースをチェックすること」がある。

チェックするだけだから、10分もあれば十分だろう。その後は再びリゾート地での自分自身の時間を楽しめばいい。

京都大学人気講義の教授が教える 個別株の教科書

つまり、理想の風景と時間においては、株式を売買する必要がない。異変が生じていないことを確認すれば十分である。

世の中が平穏であり、これまでと変わったことがないと確認できれば、パソコンを閉じ、リゾート地の世界と、その時間の流れに戻る。あとは世界のどこかで、優れた企業家たちが、「株価」という果実を膨らませてくれるだろう。

新NISAやiDeCoに注目が集まり、若い人たちによる投資信託を利用した証券投資が増えている。株価の上昇が個別株(株式)投資への関心を高めている。

読者諸氏が、1個のずっしりと重い果実を、いずれ手にされることを祈念してやまない。

(川北 英隆 : 京都大学名誉教授、京都大学成長戦略本部・証券投資研究教育部門 客員教授)

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