都知事・小池百合子が「自民党の救世主」になる日

東京都知事3選を果たした小池百合子氏(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)
岸田首相の突然の退陣表明に始まり、総裁選で候補者乱立の自民党は混迷の一途をたどっています。
佐藤優元外務省主任分析官と山口二郎法政大学教授の共著『自民党の変質』では、国際政治の潮流も踏まえ、自民党およびこの国の未来が読み解かれています。
同書より一部を抜粋し、2回にわたってお届けします。

侮れない小池百合子の「動員力」ー山口

2024年7月7日、小池百合子さんが石丸伸二さん(前・安芸高田市長)、蓮舫さん(前・参議院議員)らを抑えて、東京都知事3選を果たしました。

小池さんは、まだまだ首相になる野望を捨てていませんし、東京都の自治体選挙──八王子市の市長選挙(2024年1月21日投開票)や江東区長選挙(2023年12月10日投開票)を見ても、小池さんの動員力は侮れないものがあります。都庁の官僚を送り込み、自民党とも組んで野党系に大差をつけて勝っています。しかも小池さんは、もう都政には関心がありません。

小池さんが描くシナリオは2通りだと思います。

ひとつは自民党が落ちぶれた時に、“救世主”として自民党入りして総理総裁を目指す。もうひとつは、新党を立ち上げて自民党の一部を吸収し、なおかつ維新の会と連携する。いずれにしても、その時の自民党の状況と選挙のタイミング次第で判断するでしょう。

闘争を勝ち抜いた政治家が持つ一面ー佐藤

「小池百合子は国政復帰をあきらめていない」と私に強く言う人がいます。他ならぬ元首相・森喜朗さんです。

鈴木宗男さんは「佐藤さんね、森さんに会ったら、必ず1回は小池さんの話をしたほうがいいぞ」と言います。その心は、「小池百合子さんの話が、森さんの元気の源になる」からとのことでした。確かにそうでした。森さんにお会いして私が小池さんについて話すと、森さんは急に凜として、こう言うのです。

「何? 小池がそんなことを言っているのか」

 さらに続けて、

「俺も、もうすこしがんばらないとな」

森さんは小池さんの名前を聞いたとたん、スイッチが入ったようにピシッとして、「そう簡単に俺は死ねないぞ」と、本当に元気になります。権力闘争を勝ち抜いた政治家が持つ猛禽類としての一面です。昨今の自民党の政治家には、とんと見かけなくなりましたが。

小池新党の可能性──山口

2022年の衆議院の定数是正(10増10減)によって、東京都では衆議院の選挙区も25から30に増えました(2022年12月)。

小池さんが希望の党での失敗を踏まえて国政に出る場合、周到な戦略を練ると思います。

ひとつは、日本保守党や参政党など右派ポピュリズム政党を巻き込んだ再編。もうひとつは、自民党が崩れた時の受け皿としての新党です。小池さんにとって、最後のチャンスかもしれません。

小池都政の支持基盤は連合東京ですから、その意味では民間労組の勢力が支援に回るでしょうし、旧民主党系の保守層も取り込むと思います。また、いよいよ目ぼしい人がいなくなった自民党が小池さんを迎え入れて生き残る絵図を描く人が現れる可能性もあります。

好き嫌いは別にして、小池さんにはまだポテンシャルがありますから。

いずれにしても自民党の変質は否めないので、私はここであえて「非自民政権のシナリオ」という思考実験をしてみたいと思います。シナリオは次の3つです。

①改革政権再構築
②右派連合
③穏健保守連合

順に見ていきましょう。①の改革政権再構築とは、かつての細川政権のイメージで想定しました。立憲民主党と国民民主党が連合と組み、改革政権の旗を振る。これがひとつの可能性です。

民主党の再結集

自民党の変質 (祥伝社新書 703)

ただし、それには条件があります。民主党政権で首相を務めた野田佳彦さんが出てくることです。言うなれば、民主党の再結集ですね。野田さんや岡田克也さん(立憲民主党幹事長。野田内閣で副首相など)が実務をハンドリングする。

そこに、公明党と維新の会の一部、場合によっては自民党の穏健派が加わり多数派を形成──私にとっては最善のシナリオですが、可能性としては低いと言わざるを得ません。

次は②の右派連合です。これは、AfD(ドイツ)や国民連合(フランス)などヨーロッパの右派ポピュリスト勢力およびアメリカのトランプ政権(共和党)のイメージです。国際環境が緊迫化し、中国・北朝鮮の脅威がリアリティを持ってくると、どうしてもナショナリズムの高揚や防衛力強化が政権の旗印になります。

言わばタカ派連合ですね。日本では、まず液状化した自民党に小池さんの新党が救命ボートのように助けを出す。あるいは維新の会、日本保守党、参政党、自民党右派による新党。そこに、民間産別と国民民主党の一部が参加するネオファシズム的な政権です。

最後の③穏健保守連合とは、②右派連合の裏返しです。選挙で過半数に届かず、自民党の右派とリベラル派が分裂し、その自民党リベラル派が立憲民主党、公明党と連立を組む。1994年の村山政権に近いイメージです。

以上はあくまで思考実験であり、近未来の現実と断定する意図はありません。しかし、常に「非自民政権のシナリオ」を想定しておくことは重要だと思います。①から急に③になる。もしくは②が短期間で倒れる。そんなブレは十分にありえますし、国際情勢の影響をかなり受けるでしょう。

(山口 二郎 : 法政大学教授)
(佐藤 優 : 作家・元外務省主任分析官)

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