資産寿命を延ばし、100歳でゼロを目指す出口戦略
資産をどう「キャッシュフローを生む資産」に替えるか
70歳になったら、ここまで運用で増やしてきた資産を取り崩すフェーズに入ります。
前記事(60〜70歳までの「資産形成期」に何に投資するか)で、60歳から70歳までの資産形成期のポートフォリオの一例を紹介しました。仮にその目論見どおりにお金が増やせていれば、投資信託や株での運用でおおよそ1000万円からの資産が築けていることになります。この資産を継続保有して、運用しながら取り崩しつつ、一部を「キャッシュフローを生む資産」に替えていきます。
「キャッシュフローを生む資産」とは、具体的には高配当株や債券、REITなどのこと。これを持ち続けることで定期的な不労所得(キャッシュフロー)を得られます。原則として、寿命まで持ち続ける前提ですが、売ることももちろんできます。
取り崩し資産もキャッシュフローを生む資産も新NISAを利用するのが鉄則。税金がかかるかどうかは手取り金額に大きな影響を及ぼします。
キャッシュフローを生む資産に切り替える際、複数の資産を保有しているならば、リスクの高い資産から切り替えます。
たとえば、投資信託と株(高配当株を除く)を保有しているなら、株から切り替えていきます。
新NISAの成長投資枠では、年間240万円までしか投資できませんので、キャッシフローを生む資産を300万円確保するならば2年、500万円とするならば3年かけて切り替えていくことになります。
なお、「300万円」「500万円」と金額きっかりで切り替えるなら、高配当株ファンドを利用するのが手軽です。株は銘柄により購入単価がまちまちですが、高配当株ファンドであれば、自分で決めた金額で投資できます。
資産寿命を延ばしつつ、100歳でゼロを目指す出口戦略
資産を取り崩すうえで注意したいのは、早々にゼロになる「資産寿命」を迎えてしまうこと。
資産は、ただ取り崩すだけでは早々になくなってしまいます。しかし、資産を運用しながら少しずつ取り崩すことで、資産寿命を延ばすことができますし、売るタイミングも分散できるので、資産価値が下がったタイミングで一度に売ってしまうことも防げます。
資産を取り崩しながら一定の利回りで運用した場合に、毎年いくら受け取れるかを計算する「資本回収係数」という数字があります(図表3)。
なお、以降の計算は運用益に税金がかからない「新NISA」で行った場合とします。
表の縦の列には資産の取り崩し年数、横の行には運用利回りをとっています。自分の資産額に、この両者の交差するところの係数をかけると、毎年取り崩せる金額が計算できます。
たとえば、70歳時点でたまった資産2000万円のうち、300万円を預貯金、500万円をキャッシュフローを生む資産に替えたとします。そうして残った1200万円の資産を年利4%で運用しながら、30年かけて取り崩すとします。
この時、30年にわたって毎年受け取れる金額は、「1200万円×0.05783=69万3960円」となります。月額に直すと約5.8万円です。年利4%で運用できていれば、仮に70歳から毎月資産を5.8万円ずつ取り崩しても、おおよそ100歳まで資産がもつというわけです。
しかも、この例では100歳時点でも300万円の預貯金と500万円のキャッシュフロー資産を確保しています。もしもの時には預貯金が役立ちますし、500万円のキャッシュフロー資産からは毎月取り崩す5.8万円とは別に定期的な収入が得られます。仮に年4%得られたとすれば年20万円、毎月1.6万円ほどですから、毎月取り崩す5.8万円と合わせて月7.4万円です。年金に加えて、月7.4万円が100歳まで受け取れたら、老後の収入として心強いですよね。
定額取り崩しと定率取り崩し
前述の取り崩し方法は「定額取り崩し」と言います。毎年4%で運用できる例で計算しましたが、必ずその年利で運用できるわけではありません。
相場が下がることも当然あります。その下がったタイミングでも定額で取り崩していくと、資産寿命が尽きるのが早くなっていきます。そうした弱点があることにまずは留意しなければなりません。
また、比較的体力や気力が充実している老後の前半によりお金を多く使うという視点も入れたいところです。お金を使いたくても「健康」でないとうまく使い切れないですよね。人生を充実させる視点を踏まえて、資産をうまく使い切る「取り崩し方法」を考えてみましょう。
運用しながら取り崩す方法には、大きく分けて「定額取り崩し」と「定率取り崩し」の2つがあります。
定額取り崩しは、「毎月〇円ずつ」と、資産を毎月一定の金額ずつ取り崩す方法。定額取り崩しは、毎月取り崩す金額が一定なのでわかりやすく、生活費のメドが立てやすいのがメリットです。しかし、資産の減りが早いのがデメリットです。
対する定率取り崩しは「毎月資産の◯%ずつ」と、資産を一定の割合で取り崩すことです。定率取り崩しのメリットは、相場が下がったタイミングでも多く取り崩しすぎない面もあり、資産が長持ちしますが、受け取れる金額が年々減っていきます。また、毎年取り崩せる金額が変わるので、いくらになるかわかりにくい、というデメリットもあります。
先ほどの例と同様に、70歳から1200万円の資産を取り崩すことを考えてみましょう。「運用せずに96万円(=月8万円計算)ずつ定額で取り崩す」「年4%で運用しながら年96万円ずつ定額で取り崩す」「年4%で運用しながら8%ずつ定率で取り崩す」の3パターンを比較したのが図表5です。
運用なしで年96万円ずつ取り崩すと12年半、運用しながら定額取り崩しだと17年半ほどで資産がゼロになりますが、運用しながらの定率取り崩しでは30年後も約350万円残すことができます。
定率取り崩しを利用するともっとも資産寿命を延ばせることがわかります。
とはいえ別途、預貯金300万円、キャッシュフローを生む資産500万円は確保してあるので、取り崩し資産はゼロにはなりません。
また、定率取り崩しの場合、たとえば1年目は年96万円の取り崩しになりますが、20年目には44万円ほどにしかなりません。資産額の一定割合の取り崩しなので、年々受け取れる金額が減るというデメリットがあります。
「前半定率・後半定額」で上手に取り崩せる
定額取り崩しと定率取り崩しのデメリットを補完する方法としておすすめなのが、資産が多いうちは定率取り崩し、少なくなったら定額取り崩しに切り替える「前半定率・後半定額」戦略です。老後前半の元気なうちはお金をたくさん取り崩して使いつつ、老後後半まで資産寿命を延ばして使い切ることができます。
資産1200万円を取り崩す際、まずは年8%の定率取り崩しを行います。そうして、資産が半分の600万円を切るタイミングで年60万円の定額取り崩しに切り替えます。
運用によって毎年4%増やせたとすると、定率取り崩しによって、16年経過時点まで年96万~52万円程度(月8万~4万3000円程度)を受け取れます。
資産が600万円を切ってきたら、今度は毎年60万円(月5万円)ずつ定額取り崩しを行います。これにより、29年経過時点まで毎年60万円を取り崩して、30年後の資産残額をゼロにすることができます。
70歳から取り崩しを始めた場合、30年後というと100歳です。老後の後半は資産残高が減ってきますが、気にする必要はありません。健康寿命を過ぎたあたりから、誰でも活動範囲が減り、お金も徐々に使わなくなっていくからです。
また、資産がゼロになっても年金は生涯もらえますし、前述のとおりキャッシュフローを生む資産500万円から年4%(年20万円)の配当をもらえれば月約1.6万円の上乗せもあります。収入がゼロになることはありません。
目指すべきは「富の最大化」ではなく、「幸福の最大化」。
老後のお金の安定=心の安定を得ながら、資産を上手に使いきって、豊かな人生を送りましょう。
(頼藤 太希 : マネーコンサルタント)
09/06 07:00
東洋経済オンライン