株価が暴落したときでも慌てない「資産運用法」

60歳からの新・投資術

70代以降は年金収入、キャッシュフローを生む資産からの収入、そして取り崩し資産からの収入の3つがあります(写真:tsukat/PIXTA)
投資でもっとも不安なのは、元本を大きく割るような大暴落が起こることではないでしょうか。資産を守り、リスクを回避しつつ、70歳以降も安心して暮らしていくための具体的な運用モデルを、頼藤太希さんの著書『60歳からの新・投資術』から一部引用・再編集してご紹介します。

2つの運用モデル・シミュレーション

前記事(資産寿命を延ばし、100歳でゼロを目指す出口戦略)では、70歳から資産寿命を延ばしながら上手に使いきる考え方を紹介しました。本記事では実際に、運用モデルのシミュレーションを2つ紹介します。

70代以降の収入には、年金収入、キャッシュフローを生む資産(図表中ではCF資産と表記)からの収入、そして取り崩し資産からの収入の3つがあります。以下の運用モデルで毎月の収入がどう変わるのかを示します。

ちなみに、年金収入は、いずれの運用モデルでも、70歳から受け取ることとし、月の手取りを18万円(65歳時点の年金額面が月14万円、70歳に繰り下げると1.42倍の約20万円。額面の10%が税金・社会保険料として引かれる)と設定しています。

また、もしもの時のためのお金である預貯金は、一人あたり300万~500万円は別途ある前提で考えていきます。

【ケース1】ローリスクで堅実な運用モデル

⇒月に年金+ 3.3万~5.5万円を確保

まずは保守的に見積もった場合のシミュレーション例です。60代の10年間で「ニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)」(以下「ニッセイ」)に投資し、10年間で1000万円の資産を築いたとします。このうち300万円を「SBI日本高配当株式(分配)ファンド(年4回決算型)」(以下「SBI」)に投資して、保守的に低めに見積もって年3%の分配金を得られたとします。

キャッシュフロー資産として「SBI」を選んだことにしていますが、これ以外にも、たとえば高配当株ファンドの「Tracers 日経平均高配当株50インデックス(奇数月分配型)」、高配当株ETFの「NEXT FUNDS 日経平均高配当株50指数連動型上場投信(1489)」、REIT ETFの「NEXT FUNDS 東証REIT指数連動型上場投信(1343)」などが候補です。日米の高配当株や個別REITといった選択肢もあるでしょう。

残った「ニッセイ」の700万円を保守的に年3%で運用しながら、8%で定率取り崩しをするとします。

年金と定率取り崩しで月20万円以上の手取り収入を確保

70歳からの定率取り崩しでは、当初月4.7万円ほど取り崩すことができます。以後、徐々に取り崩せる金額は減っていきますが、年金とキャッシュフローを生む資産を合わせた手取りは月21.3万~23.5万円と、月20万円以上の手取り収入を確保できます。残高が350万円を切る84歳以降は、定額取り崩しに移行すると97歳まで毎月21.3万円の手取りを確保できます。

98歳時点で取り崩し資産はほぼなくなりますが、貯金300万~500万円+キャッシュフローを生む資産300万円は残ります。死ぬまで医療費・介護費がかからなければ、これらのお金は葬儀代・相続へ回せばよいですし、高配当株などキャッシュフローを生む資産は売却するオプションもあります。また、取り崩し資産がなくなっても年金がもらえますので、収入がゼロになるようなことはありません。

(画像:『60歳からの新・投資術』より)
【ケース2】ノーマルな運用モデル

⇒月に年金+ 4万~7万円を確保

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(以下「オルカン」)の目標利回りは5%と紹介していましたので、ここでも年5%で運用しながら取り崩す前提としています。

【ケース1】より手取り収入が期待できる運用

定率取り崩しは10%とし、「SBI」から年4%のキャッシュフローが得られたとすると、年金を含む毎月の手取り収入は22.2万〜24.8万円。ケース1の堅実な運用モデルより月1万円程度手取りが増えます。

定額取り崩しのフェーズでは年36万円と、月3万円の収入を確保できるので、毎月の手取り収入は22万円になります。この計算では97歳時点で資産がほぼゼロになりますが、以後も毎月19万円の収入が得られます。

なお、貯金300万~500万円+キャッシュフローを生む資産300万円は残ります。キャッシュフローを生む資産は売却するオプションもあります。

(画像:『60歳からの新・投資術』より)

資産運用は常に右肩上がりということはありません。暴落することも当然あります。そんなときどう対処したらいいでしょうか?

暴落にどう備えておくか?

投資の格言に「上げ100日、下げ3日」というものがあります。市場の値上がりは緩やかですが、値下がりはわずかな期間で起こることを言い表したものです。

確かに過去を振り返ると、市場は緩やかに値上がりしながらも、数年に一度暴落を見せます。

米国の株価指数「S&P500」と日本の株価指数「日経平均株価」の1980年1月から2024年3月までの推移は、図表3、図表4のようになっています。

(画像:『60歳からの新・投資術』より)

市場に大きな影響を与えた政治・経済・国際関係のニュースと、S&P500・日経平均株価の値動きを見比べると、特に値下がりのタイミングで連動していることがわかります。

世の中が不安定になると、投資している商品は総じて値下がりしてしまいます。こんな時、無傷でいられる商品はほとんどありません。新NISAでコツコツ投資してきた商品も、値下がりするでしょう。

しかし、グラフを見ると、暴落の数年後には再び値上がりして暴落前の水準を回復していることもわかります。

つまり、暴落があった時にもっともやってはいけないことは、慌てて売ること、です。暴落に慌てて売ってしまうと、値下がりしたタイミングで利益(または損失)が確定してしまいます。そのうえ、その後の値上がりによる資産回復の恩恵も受けられなくなります。資産形成期に暴落があったのであれば、淡々と積立投資を続けていればよいのです。

回復までの期間は、図表5のとおりまちまちです。早ければ1年程度ですし、長ければ5年程度かかる場合もあります。

(画像:『60歳からの新・投資術』より)

一方、資産取り崩し期に暴落があった場合、運用しながら取り崩していても、資産が思ったより減ってしまう可能性があります。

資産取り崩し期に暴落があったらどうする?

60歳からの新・投資術 (青春新書インテリジェンス PI 697)

老後の前半、定率取り崩しをしている時に暴落があった場合、資産の減りは定額取り崩しよりは少なくなりますが、取り崩せる金額が減ってしまう可能性があります。

定率取り崩しをしている老後の前半に何をしたいかにもよりますが、こんな時にはいったん定率取り崩しをストップするのもひとつの手です。しばらくそのまま運用を続けて、資産がある程度回復してから定率取り崩しを再開するようにすれば、資産の減りもそこまで大きくなりませんし、再開した際の取り崩し額も増やせます。

もっとも、定率取り崩しをストップすると、その間は資産取り崩しによる収入が得られなくなってしまいます。その期間は、たとえば預金を取り崩して生活する、支出を抑える、年金+キャッシュフローを生む資産からの収入でしのぐといった方法が考えられます。もちろん相場の上げ下げを気にせず、定率取り崩しを継続するのもひとつの手です。

一方、定額取り崩しをしている時に暴落があった場合は、定率取り崩しをしている時よりも資産が大きく減ってしまう可能性があります。ただ、定額取り崩しをしているということは、取り崩し資産もすでに半分以下になっていますし、80代、90代となってお金を使う機会が減ってきているでしょう。

それであれば、資産を長持ちさせることを考えるよりも、気にせず取り崩してしまったほうがよいかもしれません。

取り崩し資産がゼロになっても、引き続き年金とキャッシュフローを生む資産からはお金を得られますし、もしもの時の預貯金も残っています。お金がなくて決定的に困るという事態にはなりにくいのではないでしょうか。

(頼藤 太希 : マネーコンサルタント)

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