親友ができない男性が囚われる「男らしさ」の呪縛

FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい

もろさを見せずに、深い友情を築くことはできません。もろさを見せないと、友情は単なる「一緒にいるだけの相手」になってしまいます(写真:y.uemura/PIXTA)
男性と女性では、男性の方が「親しい」友達が少ないと言われることがあります。それはどうしてでしょうか?
『FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい』では、男性は、友達に悩みを相談したり、弱さを見せるとバカにされることもある、という社会的な問題を指摘します。
お互いに相談し合えることは、友情を深めますが、そもそも「男らしさの壁」が親密性から遠くするのです。本文から、抜粋してご紹介します。

男性は、男友達の悩みをよく知らない

1992年に行われた少し古いメタ分析で、友情において(友情以外のほとんどの人間関係においても)男性は女性と比べてあまりもろさを見せないことがわかりました。

2021年の調査では、調査前の1週間で、友達に心を支えてもらったり、何かしらの個人的な話を打ち明けたりした割合は、女性が男性の約2倍に達しました。

記者のジュリア・ラインスティーンはSNSで、この状況をこんなふうに表現しています。「男の人っていつも“男友達って最高だぜ”って言うけど、男友達が悩みを抱えているか否かの話は絶対にしないよね」。

もろさを見せずに、深い友情を築くことはできません。もろさを見せないと、友情は単なる「一緒にいるだけの相手」になってしまいます。それはそれでよいのですが、友情はもっと多くのものを与えてくれる存在であるため、「一緒にいるだけ」では完全とは言えません。

友達は、バスケットボールをする仲間であり、飲み友達であり、ゴルフ仲間でありますが、それだけでは、アイルランド語で「心の友達」という意味の「アナム・カラ」、つまり心の奥底に秘めた思いを打ち明ける類の友達の深みに達することはできません。

アトランティック誌の「Games Boys Play」(男の子たちがプレイするゲーム)というタイトルがついた記事は、男性が友達との間に「第三の存在」を置くことにより、ふとしたときにもろさが頭をもたげるのを避けると指摘しています。

「一緒に狩りをしたり、車をいじったり、バスケのフリースローを打ったりしているとき、一緒に鹿やトランスミッション、バスケットボールを見ながら話せる。共通の目的のおかげで話すネタができるし、お互いの顔を見ないですむというのはつまり、感情を互いに相手にすべて押しつけ合わなくていいということだ」

では、もし男性が親しい友達にもろさを見せないのであれば、そのもろさはいったいどこへ行くのでしょうか? 大学院で私たちが学んだ格言は、「女性は内にしまい、男性は外に出す」でした。

大まかに言って(例外もありますが)、これはつまり、感情が乱れたときに女性は、自分を責め、罪悪感を抱き、落ち込むといった具合に、内に向かいます。

一方で男性は、世の中とのかかわりを通じて、自分の感情が乱れていることを表現します。ある研究で、女性は怒りを抑える傾向が強く、男性は攻撃的な行動を取る傾向が強いという結果が出ており、これを裏づけています。男性は怒鳴ったり、いばりちらしたり、壁を殴ったりするかもしれません。

相手に支配的になるときは、心の底にもろさが隠れている

私たちは、自分が社会的に受け入れられやすいだろうと思うふるまいをするものです。だからこそ、男性はもろさよりも支配性や怒りを選ぶのかもしれません。

ある研究によると、男性が怒りを行動に表すと、女性が同様にした場合と比べ、地位や能力が高いと見られます。とはいえ、支配性や攻撃性を示した男性を称えれば称えるほど、男性のもろさは粉々に押しつぶされてしまいます。なぜなら支配性は、もろさをうまく避けるため、そして他者の力を認めることから逃れるための仮面だからです。

もろさと支配性は、共存できません。もろさははっきりと、「あなたが私に対して力を持っていることを認めます。どうか思いやりをもってその力を使ってください」と言っているからです。

反対に、支配性は「あなたは私に対して一切の力を持っていません。私はあなたに対して力を持っています」と言っています。

もろくいることで、男性は支配したいという衝動を手放します。なぜなら、もろさは支配によって隠された脅迫的な感情を解き放つからです。

俳優でありポッドキャスターでもあるダックス・シェパードという人がいます。ダックスの妻は、アフリカにある国で慈善活動をする予定でした。ダックスは反対します。自分は人類学を学んだが、外国による慈善事業は解決するより多くの問題をつくり出しているから、がその理由でした。

妻は聞き入れません。ダックスは、妻が取り組む慈善団体の評判に疑問を呈して再び反対します。数えきれないほどの議論を重ねた後、ダックスは、自分の議論の底にあった自分のもろさに気づきます。

「この“人助け”ってものが、君にとって僕よりも大切になるんじゃないかってことを、僕はとても恐れているんだ」とダックスは打ち明けます。

ついにもろさを受け入れたダックスに対して、妻はこう答えます。「あなたより大切なものなんてないわよ」。ダックスはその後、妻が関わる慈善団体の評判を気にすることはなくなりました。

「僕は知性に訴えるポイントを並べているけど、でもそれは事実じゃないと思う」とダックスは言います。私たちがムキになって議論するほとんどは、理論ではなく、その下に湧き上がるもろい感情を避けるために、支配的でいようとする衝動であることが多いのです。ダックスはもろさを通じてこそ、心から求めていた本当のニーズを満たし、妻との関係を癒せたのでした。

もろさを見せることは、男性にはバカにされるというリスクが伴う

とはいえ、男性にとって諸刃の剣となるのは、支配性が男性の人間関係を損なう可能性がある一方で、もろさを見せてもやはり、人間関係を損なう可能性があるという点です。もろさを受け入れることは、とりわけほかの男性に対しての場合、リスクが伴います。

2013年の研究では、もろさを見せる男性について、男性は好ましくないと判断しました(女性はそうは受け取りませんでした)。ニューヨーク州立大学バッファロー校の社会福祉学の教授であり、黒人の男らしさを研究しているクリストファー・セント・ヴィル教授は、こう話します。

「男性は、ほかの男性に目を光らせています。だからもろさを内に閉じ込めてしまうのです。いったんほかの男性の弱さを見つけると、そこを狙います。その人を物笑いの種にし、からかい、いじめるのです」

ワシントン・ポスト紙の記事「No Game Days. No Bars. The Pandemic Is Forcing Some Men to Realize They Need Deeper Friendships」(試合もない。バーもない。パンデミックで一部男性が気づかされた、深い友情の必要性)に登場した男性、マニー・アルゲタもまた、悩みは男友達にバカにされる、という決めつけに異論を唱えます。

FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい

マニーはそれまで、男友達とは主にバーに行ったり、スポーツ観戦したりといった、浅い友情でつながっていました。しかしコロナ禍や恋人との別れを経験し、セラピーを受けたマニーはついに、男友達に悩みを打ち明けました。

こき下ろされるかと思っていましたが、どんな別れだったか、その後どんな気分か、など友達は質問してくれました。

マニーの経験は、男性がもろさをさらけ出せる場所は存在するものの、そこを見つけるにはリスクが伴うことを物語っています。もろくいられるような友情がほしいと考える男性は、恐らく自分からもろさを見せていく必要があるでしょう。

欧米での男らしさを考えると、いかに「もろさを見せないこと」が深く染みついているかを考えれば、友達が先にもろさを見せてくれるのを待っていたら、恐らく待ちくたびれてしまいます。いつもよりほんの少しもろさを見せて、反応をうかがってみましょう。

他者を支配する人は、親しい人間関係に満足していない

多くの男性が、支配では幸せになれないことに気づいています。ある研究では実際に、他者を支配する人は、平等な人間関係を築く人と比べて、親しい人間関係にそこまで満足していないことが証明されています。

もろさを支配で覆い隠さないとき、男性は一見してパワーとはわからないパワーを手にします。それは、人を愛し、人とつながることができるパワーです。

書籍『だれかに、話を聞いてもらったほうがいいんじゃない?』(海と月社)の著者であり、セラピストでもあるロリ・ゴットリーブは、こう話します。

「要求が多く、批判的で、怒りっぽい人は、強烈な孤独を抱えがちです。こうした行動を取る人は、自分を見てもらいたいと思いつつ、同時に、見られることを極度に恐れてもいます」

自分を強く見せようともろさを隠していたら、本当の自分をきちんと知ることはできません。自分を持ち上げようと相手を必死に抑えつけていたら、相手をきちんと知ることはできません。

俳優のテリー・クルーズはこれをこう表現しています。

「誰かを愛しながら同時に支配などできません」

(マリサ・G・フランコ : 心理学者、フレンドシップ専門家)
(松丸 さとみ : 翻訳者・ライター)

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