「友達づくりは運」と考える人が孤独になる必然
仕事より友達を優先させることはできない社会
ある大規模な調査では、SNSのヘビーユーザーは「SNSを人と直接会うために使う」か「対面でのやりとりの代わりとして使う」かによって、「孤独とは無縁」か「もっとも孤独」かのどちらかになることがわかりました。
こうした事実が混ざり合い、私たちはここ数世紀の間に、仕事や便利さのために、ますます地域社会を犠牲にするようになりました。仕事のせいで友達との予定をキャンセルするのは許されるものの、その逆は許されない、私たちはそんな社会に生きています。
愛する人のために時間をつくるべく昇進を諦めるのは、可能性を無駄にしているとされる社会。
アメリカ人の61%は、実はこっそりと孤独を認めているにもかかわらず、孤独だと口にするのは今でもタブーな社会。
豊かさを高めるとはつまり、より大きな家、より広い土地、さらなる孤立への片道切符を意味する社会。
食料品店の店員とのおしゃべりが、ドアベルが鳴って届けられる宅配用ダンボール箱に取って代わった社会。
空港へ迎えに来てくれる友達が、ウーバーの運転手に取って代わった社会です。
人とのつながりは、人類にとっての基本的な価値であるにもかかわらず、社会においてはそうなっていません。
私たちは、社会学者のエミール・デュルケームが「アノミー」と呼ぶ状態に生きています。つまり、人が繁栄のために必要とするものと、社会的規範とされるものとの間にある隔たりです。
人類学者のセバスチャン・ユンガーは、著書『Tribe: On Homecoming and Belonging』(『種族:帰郷と帰属』、未邦訳)の中で、次のように結論づけています。
「私たちの社会は、反人間的だ。(中略)この社会はよそよそしく、厳密で、冷淡で、不可解だ。人間として私たちが基本的に抱く欲求は、他者のそばにいることだが、社会はそれを許さない」。
その結果どうなったでしょうか? 2013年に行われた、合計17万7653人を対象にした研究277件のメタ分析から、友人のネットワークはここ35年間で、縮小の一途をたどっていることがわかりました。2000年代を生きた人は、1980年代前半を生きた人と比べて、友達の数が平均で4人少ないのです。
別の分析では、友達がいない人の数は、1990年と比べて2021年は4倍になりました。男性にとって状況はより深刻で、友達がいない人の数は、1990年と比べて2021年は5倍に達しています。
恐らくは自分が成長してきた過去の記憶から、友情は自然発生的に生まれるものだと私たちは思い込んでいます。かつては実際にそうだったからです。
でも、もうそうはいきません。友達をつくり、維持したければ、何世紀にもわたって私たちの生活を少しずつ汚染してきた「つながりの分断」という潮流に逆らって泳ぐ必要があります。こんなに大変だなんて、まったくもって不公平です。
でも、人類史上もっとも友達づくりが難しい時代にありながら、うまく友達をつくるためのツールをあなたが身につけられるよう、私がお手伝いします。
友達は自然にできるものではない
シンプルですが、驚きでもある事実はこうです。大人になってから友達をつくるには、自分から働きかける必要があります。自ら行動を起こして、トライしなければいけません。
一言で言えば、何度も繰り返し手を差し伸べるというプロセスです。いいなと思った人に出会ったら、電話番号を聞いてきてくれないかなと願いながらそのままにしてしまう代わりに、チャンスをとらえて相手の電話番号を聞く、ということです。
キャット・ヴェロスは著書『We Should Get Together: The Secret to Cultivating Better Friendships』(『仲よくしませんか:良好な友情を育む秘訣』、未邦訳)の中で、つねに自分から働きかけることで、いかにして友情の方向性を変えたかを説明しています。
「人間関係を育む基本でありながら非常に重要な点は、相手にフォローアップの連絡をすることと、元気かと連絡を取ること。私は旧友と新しい友達のどちらに対しても連絡をするよう、スマートフォンにリマインダーを設定しています」
友情は自然と湧いてくる―—宇宙のエネルギーがあなたに友達を授けてくれる—―ものだと思い込むのは、友達づくりの妨げとなります。そう思っていると、意図的に友達をつくろうとしなくなってしまうからです。
カナダのブランドン大学で心理学を教えるナンシー・E・ニューオール准教授は同僚らとともに、友達は努力でつくるものか、運でできるものか、どちらを信じているかによってどのような違いがあるのかを知るべく、高齢者を対象に調査を行いました。
友達づくりは運によると考えていた人は5年後、前より孤独になっていた一方で、友達づくりには努力が必要だと考えていた人は、そこまで孤独ではありませんでした。
理由は何だったのでしょうか? 努力が必要だと考える人は、友達や家族に会いに行ったり教会に行ったりなど社会的な活動を多くする傾向にありました。そしてこうした社会的な活動に関わることで、友達ができたのです。
どのように働きかけるかは、自分で選べる
友達をつくるには、自分から働きかけなければいけません。とはいえ嬉しいのは、どのように働きかけるかは、自分で選べるということです。
もしかしたら、都市型農業従事者の交流イベントや、サイクリング・クラブで8キロ自転車に乗るイベントは、あなたのスタイルではないかもしれません。単に人の集まりや交流イベントに参加するだけが、自分から働きかけることではありません。
内向的な人に向いている戦略に、旧友に連絡してみる方法があります。また、もっと仲よくなりたいなとずっと思っていた知り合いに連絡してみるのもいいでしょう。
このふたつは、特に私のお気に入りです。というのも、どんな人か精査が済んでいる相手であるうえ、知り合いならすでにしっかりとしたつながりがあるからです。
タラとミカは、職場で知り合った友達でした。出会ってからすぐにミカは仕事を辞めてしまったのですが、その後、インスタグラムでフォローし合いました。お互いのストーリーズにコメントし、ラポールを築いていたそんなとき、一緒にランチでもしようよ、とタラがミカを誘いました。
テクノロジーという緩衝材のおかげで、以前よりずっと楽に働きかけられるようになっています。
同僚をコーヒーに誘うのも、自分から働きかけることになります。一緒にいて楽しいけれど、職場以外では会ったことがない相手です。
ほかにも、草の根スポーツに参加する、習いごとを始める、自分が情熱を注げる何かしらの組織に関わる、などで友情を育める環境につねに自分の身を置く方法もあります。
ほとんどの人は、友達づくりには受け身のアプローチを取りがちですが、ニューオール准教授の研究によると、それを変えなければいけません。私が「堂々とした働きかけ」と呼ぶ姿勢でアプローチすることが必要になります。
(マリサ・G・フランコ : 心理学者、フレンドシップ専門家)
(松丸 さとみ : 翻訳者・ライター)
08/29 16:30
東洋経済オンライン