日本未発売、ホンダ「シティ・ハッチバック」の実力

タイで試乗したシティ・ハッチバックRSの走行シーン

タイで試乗したシティ・ハッチバックRSの走行シーン(写真:三木宏章)

ホンダの“シティ ターボ”と聞いて、1980年代に一斉を風靡したホットハッチを連想した人もいるかもしれない。しかし、今回紹介するのは、タイを中心にマレーシアやシンガポールなどの東南アジアを中心に、世界60以上の国と地域で販売されている現行モデルだ。

軽量コンパクトなハッチバックにVTECターボエンジンという組み合わせで、じつは以前から非常に気になっていたモデル。残念ながら日本では販売されていないが、1度乗ってみたいと思っていたクルマで、ちょうどタイ出張の機会があったので、ホンダから試乗車を借りて運転してみた。

ちなみにホンダは、今年の3月にタイで開発し、インドで生産をするコンパクトSUV「WR-V」(インドでの車名はELEVATE(エレベイト)、タイではWR-Vとして販売)を日本導入している。そのあたりについては、別記事でタイの開発拠点「Honda R&D Asia Pacific」で行った開発者インタビューも後日公開予定なので、そちらで詳しく紹介したいと思う。

少し脱線したが、今回は日本未発売ながら注目度の高い、ホンダのシティについて試乗記も交えて紹介していく。

【写真】日本未発売のグローバルモデル、ホンダ「シティ・ハッチバック」。VTECターボ&RSグレード設定、ホットハッチの内外装をチェックする(53枚)

高性能で超軽量&コンパクト、往年の名車「シティ」

1983年発売のシティ・ターボⅡ

1983年発売のシティ ターボⅡ(写真:本田技研工業)

ホンダのシティは、今から40年以上前の1981年に初代がデビュー。初代シティは、“トールボーイ”と呼ばれる少し背の高い、角張ったコンパクトなボディに加え、荷室に折りたたんで載せられる50ccバイク「モトコンポ」も同時に発売されるなど、かなりユニークで遊び心が溢れるモデルだった。

そして1982年には、ターボチャージャーを追加してパワーアップを図った「シティ ターボ」が登場。超小型&軽量なボディに最高出力100PSのエンジンを搭載し、当時流行っていた高性能コンパクト“ボーイズレーサー”の定番マシンとして若者を中心に人気を博した。

さらに1983年には、“ブルドッグ”の愛称でも親しまれている「シティ ターボⅡ」を発表。1.2Lの4気筒エンジンと基本的な設計はシティ ターボと同様ながら、インタークーラー付きターボチャージャーをセットすることで110PSまでパワーを引き上げている。ちなみにNAモデルが67PSなので、43PSもパワーアップしているのだ。今どきの軽自動車より小型・軽量なボディにターボエンジンという組み合わせからわかるとおり、かなりじゃじゃ馬なマシンだった。

1986年発売の2代目シティ

1986年発売の2代目シティ(写真:本田技研工業)

1986年に2代目が登場。初代は少し背の高いスタイルが印象的だったが、2代目はロー&ワイドなスタイルとなり、ターボ搭載の高性能グレードを廃止。ただ、軽量コンパクトなボディは健在で、サーキットやジムカーナなどのモータースポーツで人気を博す。しかし、初代のようなインパクトは残せず、1994年に生産中止、翌年に販売終了となり、日本国内においては2代でシティの車名が消滅する。

その後、国内でシティが復活することはなかったが、アジアを中心とした新興国向けモデルとして復活を遂げる。1996年発売の3代目シティは、「シビックフェリオ(セダン)」をベースに、2代目までのコンパクトハッチバックとは異なり、セダンとして登場した。“シティ”という車名を引き継いでいるが、まったく別路線のクルマとして新たなスタートを切ったわけだ。

2014年発売のホンダ「グレイス」

2014年発売のホンダ「グレイス」(写真:本田技研工業)

その後、2002年デビューの4代目や2008年デビューの5代目は、「フィット」をベースにしたコンパクトセダンになる。2014年に登場した6代目もフィットをベースにしたコンパクトセダンという基本コンセプトは同様で、タイやインド、中国、台湾、パキスタンなどで生産。そんな6代目シティは、日本でも「グレイス」という車名で販売されていたので、記憶に残っている人もいるかもしれない。

7代目シティ、待望のハッチバックとRSグレードが登場

シティ・ハッチバックのサイドシルエット

シティ・ハッチバックのサイドシルエット(写真:三木宏章)

日本で消滅した後もグローバルモデルとして進化を続けてきたシティ。その現行モデルとなるのが、今回試乗した7代目。2019年にタイで発表され、翌年からは世界各国で市場投入を開始。従来モデルは、4ドアセダンもみだったが、2020年にタイで5ドアハッチバックが発表され、さらにシティとしては初となるスポーティな最上位グレードRSも設定された。これによって往年の名車シティ ターボの再来を連想したクルマ好きもいるのではないだろか? 筆者もそんなひとりだ。

シティ・ハッチバックRSに搭載された1.0L直列3気筒VTECターボエンジン

シティ・ハッチバックRSに搭載された1.0L直列3気筒VTECターボエンジン(写真:三木宏章)

ちなみにパワートレインは、販売国によって違いがあるが、タイでは1.0L直列3気筒VTECターボと、1.5L直列4気筒i-VTECのe:HEV(ハイブリッド仕様)という2タイプがラインナップされている。最高出力は、ターボモデルが122PS/5500rpmで、ハイブリッドモデルが98PS/5600~6400rpm(エンジン出力)+109PS/3500~8000rpm(モーター出力)。パワートレインは、セダンとハッチバックで共通だ。

ボディサイズは、セダンが全長4580~4589mm×全幅1748mm×全高1467~1480mmで、ホイールベースは2589mm。今回試乗したハッチバックは、全長4350~4369mm×全幅1748mm×全高1488~1501mmで、ホイールベースはセダンと共通で2589mmとなっている。セダンに対して、ハッチバックは全長が短く、全高は少し高く、全幅は同じとなる。

フィット e HEV RSのスタイリング

フィット e HEV RSのスタイリング(写真:本田技研工業)

日本国内モデルに目を向けてみると、同じ5ドアハッチバックのフィットは、1.5L直列4気筒エンジンを搭載し、ガソリンエンジン車で118PS/6600rpm、ハイブリッドのe:HEVで106PS/6000~6400rpm(エンジン出力)+123PS/3500~8000rpm(モーター出力)を発生。ボディサイズは、全長3995~4095mm×全幅1695~1725mm×全高1515~1570mmで、ホイールベースは2530mmとなる。

シビック e:HEV RSのスタイリング

シビック e:HEV RSのスタイリング(写真:本田技研工業)

また、「シビック」の国内モデルもガソリンエンジン車とハイブリッドのe:HEVを設定。ガソリンエンジン車は、1.5L直列4気筒エンジンを搭載し、最高出力は182PS/6000rpmを発生。ハイブリッド車のe:HEVは、2.0L直列4気筒+モーターの組み合わせで、エンジン最高出力は141PS/6000rpmで、モーター最高出力は184PS/5000~6000rpmとなっている。ボディサイズは、全長4550mm×全幅1800mm×全高1415mmで、ホイールベースは2735mmだ。

フィット以上、シビック以下のサイズ感

このようにタイ仕様のシティは、フィットやシビックよりもダウンサイジングした1.0L直列3気筒VTECターボエンジン、もしくは1.5L直列4気筒ハイブリッドのe:HEVのパワートレインを搭載。4気筒エンジンを搭載するフィットやシビックに対して、シティのガソリンエンジン車は3気筒エンジンという点が大きく異なる。

また、ボディサイズは、フィットに対して全長・全幅ともに大きく、全高は低く抑えられているので、よりロー&ワイドなスタイルが強調される。シティはセダンから派生してハッチバックを展開しているので、どちらかといえばシビックにも近い寸法だ。

シティ・ハッチバックRSのリアビュー

シティ・ハッチバックRSのリアビュー(写真:三木宏章)

ここまではシティの概要、日本国内モデルとの比較を行ってきたが、次からは実際にタイで試乗した「シティ・ハッチバック」ついて詳しく紹介していく。今回、試乗車として借りたのは、シティ・ハッチバックの中でもスポーツグレードに位置するRSグレードのガソリンエンジン車だ。ちなみにシティは、セダン/ハッチバックともにCVTの設定のみで、マニュアルミッションの設定はない。

まず外観だが、RSグレードではヘッドライトやフォグランプがLED化され、フロントグリルもブラックアウトされている。さらにフロントバンパーやリアバンパー、サイドアンダースポイラー、リアスポイラー、フロントグリルなどもRS専用品を装備。ホイールも標準車は15インチだが、RSはブラックカラーの16インチを採用。基本的な走行性能は標準モデルと同様だが、各部をブラックアウトしてスポーティな外装に仕上げられている。

走る楽しさが詰まった俊敏なフットワーク

シティ・ハッチバックRSのインテリア

シティ・ハッチバックRSのインテリア(写真:三木宏章)

さっそく乗り込むと、ブラックレザー×スムースレザーにレッドステッチをあしらったシートに加え、ピアノブラックのインテリアパネルなど、スポーティかつ質感の高いインテリアに驚かされた。リアシートも広く、大人2人が十分にくつろげる空間が広がっている。

ラゲージスペースも十分な広さを確保。6:4分割の後席を倒せば、フルフラットになり、小柄な人なら車中泊も楽しめそうな空間だった。スポーツハッチバックというより、より多目的なステーションワゴン的な使い方を想定しているように感じた。

後席を倒した状態のラゲージスペース

後席を倒した状態のラゲージスペース(写真:三木宏章)

実際に運転してみると、VTECターボといっても排気量は1.0Lで、最高出力も122PSなので劇的な速さはない。ただ、低回転からタービンが仕事をはじめ、ピックアップがいいので軽快さが際立ち、ボーイズレーサー的な楽しさは存分に感じられた。

ちなみに日本仕様のフィット(ガソリンエンジン車)の最高出力は106PS、シビック(ガソリンエンジン車)は182PS。車重はフィットRSが(FF)1100kg、シティ・ハッチバックRSが1187kg、シビック(ガソリンエンジン車)が1330~1370kgとなる。ボディサイズのわりには、車重がフィットと同等程度に抑えられているので非常に軽やかなドライビングフィールだった。

標準グレードでは15インチだが、RSグレードでは16インチのアルミホイールを採用

標準グレードでは15インチだが、RSグレードでは16インチのアルミホイールを採用(写真:三木宏章)

また、足まわりも引き締められてスポーティな仕上がり。日本とタイのユーザー嗜好の違い、また道路環境に関わる部分も大きいだろうが、荒れた道路では多少跳ねることもあるし、はじめて運転するとサスペンションはかなり硬く感じるかもしれない。とはいえ、乗り心地が悪いわけでもなく、バンコク周辺の一般道や自動車専用道路を走ってみた感想としては、キビキビとした走りが好印象だった。

タイは荒れた道路も多く、急な車線変更や割り込みも日常茶飯事なので、これくらい引き締められたサスペンションセッティングのほうが安心感につながるのだろう。タイの道路を走ると、クルマの鼻先さえ突っ込めれば車線変更ができる、多少強引ではあるが譲り合いの精神的な交通事情があり、普通の街中ですら、それなりに攻めたドライビングが強いられる。それを考えれば、フラットライドな乗り心地より、キビキビとしたフットワークのほうが求められるのかもしれない。

シティ・ハッチバックの現地価格

シティ・ハッチバックの外観

シティ・ハッチバックの外観(写真:三木宏章)

最後にシティ・ハッチバックの現地価格は599万タイバーツ、日本円で約253万円(執筆時の為替レートにて計算)となる。また、今回試乗したガソリンエンジン車のRSは749万タイバーツ、日本円で約314万円。日本のフィットRSガソリンエンジン車が215万3800円で、シビックEXが359万0400円なので、値段的にも中間あたり。タイの場合、スポーティなクルマの人気が高く、シティは若者でも手が出せるホンダ・スポーツのエントリーモデルという位置づけなのだろう。

ちなみにタイでは、スポーティなモデルを求めるユーザーが多く、「シビック」や「アコード」、SUVの「CR-V」や「WR-V」「HR-V」など、ほとんどの現地販売モデルでRSグレードが設定されているのも、日本とは違って面白い部分だ。

今のところシティの日本発売予定はないというが、先代モデルはグレイスの名前で日本販売された実績もある。今回、タイでシティ・ハッチバックRSに試乗し、スポーティな走りを楽しめ、利便性が高く、手頃なホットハッチが日本でも復活してほしいと強く感じた。

東京オートサロン2024での展示が話題になり、今年秋頃に追加されるシビックRSのように、日本でもいろいろな車種でRSグレードが展開されれば、“走りのホンダ”というイメージの復権にもつながるのではないだろうか?

(三木宏章 : 東洋経済オンライン編集者・記者)

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