アキュラ「MDX」デカくて速い日本未導入車の衝撃

ホンダの高級車ブランド「ACURA(アキュラ)」のフラッグシップSUVである「MDX」。現行モデルは2020年12月に発表された4代目

ホンダの高級車ブランド「ACURA(アキュラ)」のフラッグシップSUVである「MDX」。現行モデルは2020年12月に発表された4代目(写真:平野 陽)

本田技研工業(以下、ホンダ)が海外市場で展開している高級車ブランド「ACURA(アキュラ)」。8月16日には、モントレーカーウィークにおいて「アキュラ・パフォーマンス・EVコンセプト」や「インテグラ・タイプS・HRCプロトタイプ」を一般公開するなど、主なターゲットとなる富裕層に向けた新鮮な話題を振りまいている。

【写真】ホンダの北米高級ブランド、アキュラのフラッグシップSUV「MDX」の内外装を詳しく見る(17枚)

アキュラが誇るフラッグシップSUV「MDX」とは

そのアキュラが誇るフラッグシップSUVが「MDX」。現行モデルは2020年12月に正式発表された4代目で、全長が5039mm、全幅が1991mmに達するのに対して、全高は1704mmに抑えられ、大型ながらもシャープなアピアランスを実現。ホイールベースは2890mmで、全車3列7人乗りのシート配列を採用している(数値はいずれもインチから換算)。

MDXの初代は、日本でも「ホンダMDX」として販売されていたので、記憶に残っている読者もいるかもしれない。だが、現行MDXに初代の面影を見出すのはむずかしく、すっかり現代的なSUVとして洗練された印象になっている。

試乗したのは最上級グレードの「タイプSアドバンス」。旅の出発地であるロサンゼルスで記念撮影

試乗したのは最上級グレードの「タイプSアドバンス」。旅の出発地であるロサンゼルスで記念撮影(写真:平野 陽)

日本であれば、「オラオラ系」とも表現されそうなアキュラの現行デザインだが、その方向性が初めて提示されたのが2016年のデトロイト・オートショーだった。「アキュラ・プレシジョン・コンセプト」というデザイン・コンセプトが示したエッジーなスタイリングは、2018年デビューの3代目「RDX」に採用され、その後のMDXにも継承される。ダイヤモンド・ペンタゴンと呼ばれる大型のフロントグリルが、アキュラブランド全車共通のアイコンとなっている。

全長5039mm、全幅1991mm、全高1704mm。ホイールベースは2890mm(いずれもインチから換算)で、全車3列7人乗り

全長5039mm、全幅1991mm、全高1704mm。ホイールベースは2890mm(いずれもインチから換算)で、全車3列7人乗り(写真:平野 陽)

MDXにおいては、長いフロントノーズが、さらにその存在感を高めている。フロントガラスの付け根からフロントアクスルまでの距離(ダッシュ・トゥ・アクスル・レシオ)は、先代から4インチ(約101mm)延長され、まるで縦置きエンジン搭載の後輪駆動車のような伸びやかさを生み出している。実際のエンジン搭載方向はもちろん横置きで、駆動方式もFFもしくはSH-AWDというホンダ独自の4WDなのだが、それを感じさせないところが印象的だ。

大幅改良されたプラットフォーム

ダイヤモンド・ペンタゴンと呼ばれる大型グリルがアキュラのアイコン

ダイヤモンド・ペンタゴンと呼ばれる大型グリルがアキュラのアイコン(写真:平野 陽)

現行モデルはプラットフォームが刷新され、従来はマクファーソンストラットだったフロントサスペンションを、MDX史上初となるダブルウィッシュボーンに変更。リアも新設計のマルチリンクとして、乗り心地の良さとハイレベルなロードホールディング性能を追求している。

プラットフォームが刷新された現行MDXは、フロントサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用。リヤも新設計のマルチリンクとなっている

プラットフォームが刷新された現行MDXは、フロントサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用。リアも新設計のマルチリンクとなっている(写真:平野 陽)

また、ギア比可変式のステアリングシステムには、新たにベルト駆動式の電動パワーステアリングを採用。瞬時に応答するパワーアシストにより、低速から高速まで自然な操舵フィーリングを実現していることも、ストロングポイントのひとつとして挙げられている。

今回は、そんなMDXの中でも、もっともスポーティな「タイプS」に試乗する機会を得た。ほかのグレードが3.5L V6自然吸気を搭載するのに対して、タイプSは3.0L V6ターボを搭載。最高出力は前者が290hp(約294ps)、後者が355hp(約360ps)と圧倒的な差がつけられている。トランスミッションは、いずれも10速ATだ。

タイプSは3.0のV6ターボエンジンを搭載。最高出力は355hp(約360ps)/5500rpm、最大トルクは354lb-ft(約480Nm)/1400-5500rpm

タイプSは3.0LのV6ターボエンジンを搭載。最高出力は355hp(約360ps)/5500rpm、最大トルクは354lb-ft(約480Nm)/1400-5000rpm(写真:平野 陽)

乗って真っ先に感じたのは、見た目のイメージと相通じるソリッドで引き締まった乗り味。車両重量は4788ポンド(約2171kg)に達するが、そんなことを一切感じさせないほどエンジンはトルクフルで、欲しい加速感を瞬時に導き出してくれる。

タイプSには、オートレベリング機能付きのアダプティブエアサスペンションが標準装備されており、速度域や路面の状態を問わず、つねにフラットな姿勢をキープ。路面追従性が極めて高いので、はじめて乗ったドライバーでも自信を持って運転できるところが頼もしい。フロントブレーキもブレンボ製の4ポットキャリパーとφ363mmの大径ディスクで強化されているため、減速感やブレーキタッチに不足を感じることも一切なかった。

さまざまな乗り味が楽しめるモード設定

カリフォルニア郊外のワイディング。巨体ながらハンドリングは極めて軽快だ

カリフォルニア郊外のワインディング。巨体ながらハンドリングは極めて軽快だ(写真:平野 陽)

ドライブモードはNORMAL、SPORT、COMFORT、SNOW、INDIVIDUALに加えて、タイプSにはSport+を装備。エアサス装着車は一時的に車高を上げるLIFTも選択できる

ドライブモードはNORMAL、SPORT、COMFORT、SNOW、INDIVIDUALに加えて、タイプSにはSport+を装備。エアサス装着車は一時的に車高を上げるLIFTも選択できる(写真:平野 陽)

そして、おもしろいのはドライビングモードをNORMAL、SPORT、COMFORT、SNOW、INDIVIDUAL、LIFTなどから任意に変更できるIDS(インテグレーテッド・ダイナミクス・システム)の制御による「変わり幅」が大きいところ。オンロードでは主にNORMAL、SPORT、COMFORTを切り替えて使うことが多いが、各モードで如実にキャラクターが変わるため、走る状況や気分に応じて積極的にモード変更を楽しみたくなる。

ダウンヒルでもブレーキ性能の確かさから安心感が高い。タイヤはコンチネンタルのCrossContact RXという、パンク時のセルフシール機能を備えたオールシーズンタイヤ

ダウンヒルでもブレーキ性能の確かさから安心感が高い。タイヤはコンチネンタルのCrossContact RXという、パンク時のセルフシール機能を備えたオールシーズンタイヤ(写真:平野 陽)

タイプSはブレンボ製のビッグブレーキを標準装備。ホイールはベルリナブラックに切削処理を施した21インチアルミホイールを備える

タイプSはブレンボ製のビッグブレーキを標準装備。ホイールはベルリナブラックに切削処理を施した21インチアルミホイールを備える(写真:平野 陽)

とくにタイプSの場合は、Sport+というモードも追加され、スロットルレスポンスや変速制御、パワーステアリングのアシスト量、SH-AWDの応答性は極限までアグレッシブに変化。車高も自動で下げられ、おのずと目線も下がることから、否応なくやる気を刺激されてしまう。今回は交通量の多い街中やハイウェイだけでなく、ワインディングにも足を踏み入れてみたが、爽快この上ないコントローラブルな走りを堪能することができた。

豪華な内装やオーディオシステム

タイプSアドバンスは、ミラノプレミアムレザートリムとウッドトリムを組み合わせた豪華な内装を実現。ギアセレクターはホンダ車ではおなじみの電子制御スイッチ式

タイプSアドバンスは、ミラノプレミアムレザートリムとウッドトリムを組み合わせた豪華な内装を実現。ギアセレクターはホンダ車ではおなじみの電子制御スイッチ式(写真:平野 陽)

刺激的という意味では、真っ赤なミラノレザーとステッチが張り巡らされたインテリアも、かなり印象的。試乗車はタイプSにアドバンスパッケージが追加された「タイプSアドバンス」という最上級グレードで、25個のスピーカーを備えたELS Studio 3Dシグネチャーエディション・プレミアムオーディオ、サラウンドビューカメラ、ヘッドアップディスプレイといった付加装備も充実していた。

タイプSアドバンスは、フロントシートに16ウェイの電動調整機構と9ウェイのマッサージ機能を装備。シートヒーターとベンチレーションも備わる

タイプSアドバンスは、フロントシートに16ウェイの電動調整機構と9ウェイのマッサージ機能を装備。シートヒーターとベンチレーションも備わる(写真:平野 陽)

いずれも12.3インチのデジタルメーターとセンターディスプレイが備わり、トゥルー・タッチパッド・インターフェースと呼ばれる専用コントローラーを装備。Amazon Alexaを使った音声コントロール機能、アキュラリンクと呼ばれるコネクティッドサービス、ワイヤレス接続のApple CarPlay/Android Autoなど、ひととおりの最新機能も網羅している印象だ。

セカンドシートにもシートヒーターが備わるほか、後席用の独立したエアコン操作パネルと送風口も装備。中央席だけを取り外して、キャプテンシートにすることも可能

セカンドシートにもシートヒーターが備わるほか、後席用の独立したエアコン操作パネルと送風口も装備。中央席だけを取り外して、キャプテンシートにすることも可能(写真:平野 陽)

セカンドシートはもちろん、サードシートも広く、大人が座っても十分なクリアランスが確保されている。ちなみにセカンドシートの中央席は独立して取りはずしが可能。自宅やガレージにはずしたシートの置き場所さえあれば、キャプテンシートとして使うこともできる。

今回の試乗では、カリフォルニア州内をあちこち動きまわり、走った距離は1055.8マイル(約1700km)に達した。平均燃費計の示した燃費は20.2mpgで、日本風に換算すると約8.58km/Lだ。とくに燃費を気遣った走りをした覚えはないが、期せずしてメーカー公表のEPA燃費コンバインドモードの19mpgより優秀な値を叩き出してしまった。

ラゲッジルームはサードシート使用時でも実測で550mmの奥行きを確保

ラゲッジルームはサードシート使用時でも実測で550mmの奥行きを確保(写真:平野 陽)

左右独立で格納できるサードシートを倒すと、より広くてフラットなスペースを生み出せる

左右独立で格納できるサードシートを倒すと、より広くてフラットなスペースを生み出せる(写真:平野 陽)

第一印象は「派手でデカい」と感じたMDXだったが、ありとあらゆるモノのスケールが日本よりひとまわり大きいアメリカの大地で乗り慣れてくると、むしろボディが引き締まったアスリートのような印象すら覚えるようになっていった。我ながら人間の主観とはこうも移ろいやすいものかと呆れてしまったが、MDXタイプSが数あるSUVの中でもとびきりスポーティで、ハンドリングが楽しいモデルであることは、確信を持って断言できる。

日本円換算で約1000万円の捉え方

1055.8マイル(約1700km)を走行しての燃費は20.2mpg(約8.58km/L)だった

1055.8マイル(約1700km)を走行しての燃費は20.2mpg(約8.58km/L)だった(写真:平野 陽)

より映えるのはやはり街中だが、こうして自然の風景の中でも際立つ個性を発揮する

より映えるのはやはり街中だが、こうして自然の風景の中でも際立つ個性を発揮する(写真:平野 陽)

最後となるが、試乗したタイプSアドバンスの車両本体価格は、現地価格で7万3800ドル。原稿執筆時のドル円レート(1ドル146円)で換算すると、1077万4800円だ。その費用をポンと出せる人にとっては、他人とカブらないクルマに乗ることにプライオリティを置く向きも多いと思う。

街でも山でも映えるアキュラMDXタイプSは、そんな要望にも応える穴場的なプレミアムSUVと言えるだろう。

(小林秀雄 : ライター)

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