「中国AI」はChatGPTを超えるか?驚く実態(後編)

中国 AI

中国に間違いなく大きな優位性があり、それがAIと結びつくことによって、さらに価値を最大化させていく領域があります(写真:cassis/PIXTA)
実は中国はAIの論文数および特許数において世界最多を誇る。
中国がアメリカと並ぶAI大国であることに異論はないだろう。
ところが、中国AIの「本当の」現状を把握するのはなかなかに難しい。
理由は2つ。ひとつは、中国国内のネットユーザーは、グレートファイアウォール(金盾)によって、ChatGPTなどの海外のAIサービスを使用できないこと。
そしてもうひとつが、海外のユーザーも中国のAIサービスを使用するには、中国国内の電話番号を持っていないと使用できないケースが多いことにある。
そのために、AI大国である中国のAIの現状が、内側からも外側からも正確に捉えられていないというわけだ。
そこで、北京でインターネット広告会社を4年間経営し、北京大学MBAにも通う岡俊輔氏が、「中国AIのリアルな現在地」の実像に迫ったレポートをお届けする。
*このシリーズの1回目:「中国AI」はChatGPTを超えるか?驚く実態【前編】
*このシリーズの2回目:「中国AI」はChatGPTを超えるか?驚く実態【中編】

「中国AIの本丸」は製造業だ

この記事の1回目(「中国AI」はChatGPTを超えるか?驚く実態【前編】)において、中国のAIとアメリカのAIは近いレベルに達しつつあるものの、半導体の質と量の差によって、まだ中国はアメリカに追いつけないでいると述べました。

この差は、中国が国内半導体の研究と開発によって差を縮めていくでしょう。とはいえ、やはり政治的な要因が大きく作用する領域でもあるので、予測しにくいというのが正直なところです。

一方で、中国に間違いなく大きな優位性があり、それがAIと結びつくことによって、さらに価値を最大化させていく領域があります。

それが製造業です。

中国は世界最大の製造業大国であり、実にGDPの27.6%を占めています。これはアメリカの11%と比べて大きな差があり、中国自身が強みだと認識しているところです。

不動産市場がクラッシュした現在、雇用と経済を守るために改めて中国政府が重要視している領域でもあります。

今後、デジタル領域だけでなく、あらゆるものがインターネットとつながる時代に突入していきます。そういった中で、AI×製造業が中国の強みになることは間違いありません。

「自動運転が実現する日」は近い

顕著な例は自動車です。

日本ではライドシェアの議論がようやく盛り上がってきていますが、中国ではライドシェアがある生活はすでに日常です。

いま議論されているのは自動運転で、私の大学のクラスメイトにも、中国大手自動車メーカーの自動運転領域で働いている学生が何人もいます。

話を聞いていると、自動運転は遠くない未来に必ず実現するものだと感じています。

すでに各地域で実証実験が積極的に行われており、私が住む北京でも見かけることがあります。

Apollo Go

アポロゴー(萝卜快跑)の外観(写真:数码沸点より) 

最近の話題は、バイドゥが武漢に1000台の自動運転タクシー「Apollo Go(アポロゴー、萝卜快跑)」を投入したことです。

アプリで呼ぶと自動でタクシーが来て、目的地まで自動で到着します。

普通のタクシーよりも運賃が安く、車内の音楽や温度も自分で自由に調整することができます。

また、その安全性においては、保険会社のデータによると、「Apollo Go」の事故率は、人間が運転する場合のわずか1/14です。

「Apollo Go」はすでに累計1億キロ以上を安全に走行しており、重大な死亡事故は1件も発生していません。

ライドシェアによって普段の移動がとても便利な中国ですが、自動運転によって移動によるコストがさらに下がるだけでなく、「移動空間」の価値そのものが大きく変化しようとしています。

自動運転タクシーの中には自分以外は誰もいないわけで、本来パブリックな空間がプライベートな空間に変貌するということであり、それはきっと日常生活に与える影響も大きくなるはずです。これらもまさにAIなどによる技術革新の賜物と言えるでしょう。

「AI×産業用ロボットの領域」で強みを発揮

自動運転だけではありません。

ブルーカラー市場においての産業用ロボットの発展にも目覚ましいものがあります。3K(きつい、汚い、危険)な業務を代替するAIロボットの開発が急速に進んでいるのです。

業務用清掃ロボットの海外進出カンファレンスでの登壇風景(写真:著者提供)

先日、私も中国深圳で行われた、業務用清掃ロボットの海外進出カンファレンスに招かれて登壇し、日本進出に関して100名くらいの前で講演してきました。

そこで、新興企業からトップ企業まで、さまざまな企業の代表者に話を聞くことができました。

すでにこの領域も大きな発展を遂げており、ユニコーン企業も誕生しているそうです。

AI×産業用ロボットの領域自体は10年前ほどから存在しましたが、コロナ禍をきっかけに需要が大きく増え、中国国内だけでなく日本を含む世界でそのニーズが増えてきています。

Gausium(高仙)という会社がこの領域のリーディングカンパニーです。技術レベルは世界トップレベルであり、グローバルにおけるこのマーケットは中国企業が優勢です。

Gausium(高仙)の製品とロゴ(写真:GAUSIMU社提供)

Gausiumの強みは、技術力の高さにあります。

2023年時点で450件ほどの特許を取得しています。このうち発明特許は170件、実用新案特許は226件、意匠特許は48件と、最先端のテクノロジーを保有することを強みとしています。

この領域のリーディングカンパニーとして、長年のグローバル展開の中で、生産・研究開発・販売・サービスなどのあらゆる領域で高い水準を保ち続けているのです。

Gausium以外の会社ももちろん多く存在します。

iKitbot、PUDO、COUNTRY GARDEN、DDRobotなど、それぞれ展開する地域や清掃シーンに合わせた多種多様でハイレベルな清掃ロボットの開発と展開が、こうした多くの会社で進められています。

各国にローカルのメーカーは存在していますが、中国企業の技術力と価格優位性が抜きん出ており、AIの活用がそれをさらに顕著にさせています。

特に日本のような労働力が明確に減少していく成熟国家では、そのニーズは今後より高まっていくでしょう。

中国政府が「AI立国」へ「3カ年計画」を発表

中国政府も「AI立国」にむけて本格的に動きはじめています。

今年の1月7日、北京大学に中国工業経済学会会長、中国社会科学院大学教授・博士課程指導教員、国務院元副秘書長の江小涓氏が訪れ、『数据要素×三年行动计划』の政府方針の内容について発表がありました。

長時間の講演で多岐にわたる内容でしたが、つまりは中国がビッグデータを活用した、より付加価値の高いサービスを、あらゆる領域においてこの3カ年(2024~2026年)で推し進め、デジタル経済を中国の経済成長の原動力にしていこうという内容です。

中国工業経済学会会長、中国社会科学院大学教授・博士課程指導教員、国務院元副秘書長の江小涓氏(写真:北京大学光華管理学院より)

要点をまとめると以下のようになります。

データの活用強化:データを経済発展の新たな動力として活用し、データ市場や関連産業の発展を推進します。

重点分野:工業、農業、金融、交通、文化、医療など12の主要産業でデータの応用を強化し、データの乗数効果を最大化します。

政策目標:2026年までに、データの応用範囲を広げ、新たな産業やビジネスモデルを育成し、データ産業の成長を促進することを目指します。

基本原則:需要に基づいた効果的なアプローチを取り、市場と政府の役割をバランス良く発揮し、安全で秩序あるデータの利用を確保します。

デジタル経済は「中国経済成長の要」

江小涓氏の発言で特に印象的だったのは、次のような言葉です。

「経済成長を安定させるためには、デジタル経済が半分を占める主要な成長点になるべきです。この半分というのは比喩ではなく、現実的な目標です。それが50%以上に達する必要があります。なぜなら、それは最も重要な新たな原動力であり、これが成長しなければ、経済全体の成長が大きな制約を受けるからです」

中国は世界で最もインターネットユーザーが多い国であり、製造業のデジタル化のレベルも世界トップクラスです。中国各地で約600のスマートシティ建設が行われています。

AIのパフォーマンスは扱えるデータ総量に大きく依存することを考えると、膨大なビッグデータを活用した「AI立国への挑戦」というのは合理的なようにも思えます。

政治体制によるリスクなどは否定できないものの、むしろこの体制下だからこそ、3カ年計画の中で中国がアメリカを超え、他の国々も大きく引き離すほどに飛躍的なAI大国に成長していく未来も否定しきれないのではないでしょうか。

*このシリーズの1回目:「中国AI」はChatGPTを超えるか?驚く実態【前編】

*このシリーズの2回目:「中国AI」はChatGPTを超えるか?驚く実態【中編】

(岡 俊輔 : 中国在住経営者 北京大学MBA23期生)

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