運送業界に革命をもたらす「自動運転トラック」がアメリカで間もなく高速道路を走行し始める

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工場で製造されたモノを販売店舗まで運ぶ運送業界に、間もなく自動運転トラックが革命をもたらす可能性があると、The Washington Postが指摘しています。
Autonomous semi trucks are coming, despite job fears and lack of regulation - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2024/03/31/autonomous-semi-truck-jobs-regulation/


Prioritizing Safety: A Spotlight on Driverless Trucking Capabilities
https://blog.aurora.tech/safety/driverless-trucking-capabilities
アメリカ・テキサス州パーマーにある州間高速道路45号線を南に向かって走る重量3万5000ポンド(約15.9トン)のトラック。18輪ものタイヤを備える巨大トラックに乗っている運転手のAJ・ジェンキンスさんは、トラックの運転席に座っているものの、実際にトラックを運転しているわけではありません。
ジェンキンスさんが乗っているトラックは自動運転で走行しており、ボロボロの路面を走行しながら緊急車両を見つければ路肩へ移動して走行の妨げにならないようにすることもできるそうです。高速道路を出た後、ジェンキンスさんの乗っていた自動運転トラックは交差点で急ハンドルを切ったあとに、突如停止しました。その理由はトラックの近くに人が居たからだそうです。元FedExの配達員であるジェンキンスさんは、「トラックの周りでおかしなことをしている人がいました。何事もに備えておく必要があります」と語り、自動運転システムの判断を称賛しています。
ジェンキンスさんが乗っている自動運転トラックは、Auroraが開発してKodiak Roboticsと共同での販売を計画しているという車両です。両社は2024年末までに自動運転トラックを発売することを目指しています

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このような自動運転トラックの登場は、アメリカのサプライチェーンに多大な影響をおよぼす可能性があります。商品輸送にかかるコストを劇的に節約し、トラック運送業界における人的労働力のコストや物理的制約をなくすことができる技術として、業界からも注目を集めています。しかし、自動運転トラックが高速道路を走行する場合の安全性、雇用の喪失、規制の欠如など、解決しなければならない問題が複数存在することも事実です。
記事作成時点では、アメリカでは州が明示的に禁止しない限り、無人での自動運転車の走行が認められています。つまり、企業は国のほとんどの地域で無人での自動運転車の運用が可能となるわけです。Auroraによると、テキサス州・フロリダ州・アリゾナ州・ネバダ州を含む24の州では無人での自動運転を認められており、16の州では自動運転車に関する規制が存在しません。そして、カリフォルニア州・マサチューセッツ州・ニューヨーク州を含む残りの10州でのみ、州境内での自動運転車の使用に明確な制限が課せられています。
一部の労働安全擁護団体はアメリカにおける自動運転トラックに対する規制の遅れに危機感を抱いており、複数の州に対して「自動運転トラックの運用を全面的に禁止する州法を制定するように」とロビー活動を行っています。しかし、記事作成時点ではこれらの努力は実を結んでいません。
カリフォルニア州議会は2023年にすべての自動運転トラックに対して「人間の運転手を一緒に乗せることを義務付ける法案」を承認しましたが、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム州知事はすでに同州には1万ポンド(約4500kg)を超える自動運転車の通行を禁止する規制が存在するため、「このような規制を新たに設ける必要はない」として、法案への署名を拒否しました。

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運輸業界の専門家は、自動運転トラックに関する規制の遅れがアメリカ経済に混乱を引き起こす可能性があると指摘しており、政府の取り組みの遅さに不満の声も上がっています。トラック運送業界について研究するペンシルバニア大学の社会学者であるステーブ・ヴィセリ氏は、「鉄道や海運が変えたのと同じように、自動運転トラックの登場が経済地理を大きく変える可能性がある」と語りました。また、トラックの運転手たちの間でも自動運転トラックに対する強い懸念が示されているそうです。
また、自動運転車がサンフランシスコなどの都市部で大きな混乱を引き起こしているという問題もあります。2023年には自動運転タクシーが歩道橋を歩いていた歩行者をはねるという事故が起きたため、批評家からは「自動運転トラックがより悲惨な事故を引き起こす可能性がある」という懸念の声が上がっています。
完全自動運転のロボタクシーがひき逃げされた歩行者をさらにひいてしまう事故が発生 - GIGAZINE


Auroraは2017年にUber、Google、テスラなどの元幹部により設立された自動運転技術開発企業で、2020年からアメリカのテキサス州で無人の自動運転トラックの試走をおこなっています。記事作成時点ですでにFedExなどの荷物を週に100件以上輸送しているそうです。
Auroraは2024年末までに約20台の完全自動運転トラックをダラス・ヒューストン間の240マイル(約390km)の距離を走行させる計画を練っており、同社は最終的にアメリカ全土で数千台の自動運転トラックを運用することを計画しています。
Auroraとパートナーシップを締結しているKodiak Roboticsも、UberやAlphabetの元従業員が設立した自動運転技術開発企業です。同社も2024年末までにテキサス州で自動運転トラックの運用を開始する予定で、他にもダイムラー・トラックも2027年までにアメリカで自動運転トラックの運用を開始する計画を立てています。
Auroraで最高安全責任者を務めるナット・ビュース氏は、自動運転トラックについて「トラックがさまざまなシステム障害にどのように対応できるかを含む、厳格な安全基準を採用することで、自動運転トラックという技術を系統的に導入してきました」と語っています。

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テキサス州の運輸省でエグゼクティブディレクターを務めるマーク・ウィリアムズ氏は、テキサス州の道路で試験を行っている自動運転車開発企業と良好な関係にあることを強調し、テキサス州が自動運転業界を支援する最前線に立っているとアピールしました。また、ウィリアムズ氏はテキサス州の経済成長にとっても自動運転技術は不可欠な要素であると主張しています。
Auroraの自動運転トラックがテスト走行しているのはテキサス州だけではありません。オクラホマ州やニューメキシコ州などでも自動運転トラックのテスト走行を行っているとのこと。アメリカ道路交通安全局(NHTSA)が公開しているデータによると、2021年以来自動運転トラック業界の大手3社が運用している自動運転トラックが、数件の交通事故に巻き込まれているものの、死亡事故や重症者を出す事故は起きていないそうです。
なお、自動運転トラックが起こした事故のうち大きなものは、2022年7月にダイムラー・トラックの自動運転トラックがニューメキシコ州の高速道路で起こした横転事故(燃料タンクに入っていた油が高速道路に流出)と、2023年12月にテキサス州の道路上を走行していたダイムラー・トラックの自動運転トラックが進路上の鹿と衝突した事故の2つだそうです。
Auroraの自動運転トラックが巻き込まれた事故には、「Auroraの自動運転トラックを追いこそうとした別のトラックがハイドロプレーニング現象を起こし、Auroraの自動運転トラックに衝突した事故」があります。なお、この事故の時、自動運転トラックは追いこそうとしたトラックが近づいていることを検知していたものの、事故を回避することはできなかったそうです。
Detecting and avoiding collision wrong-way driver - YouTube

自動運転トラックが引き起こした事故が複数報告されているものの、「自動運転トラックが登場すれば高速道路はより安全になるだろう」という声もあります。なお、アメリカでは2021年に大型トラックとの衝突事故で5788人が死亡しており、これは2021年における交通事故による死亡件数の13%に相当するそうです。
自動運転トラックに関する規制を主導しているのは、NHTSAや連邦自動車運送業者安全局(FMCSA)です。両局は自動運転トラックに関する基本的な規制を策定すべく、5年以上取り組みを行っており、この規制には車両メンテナンスや検査、走行の様子を監視するアシスタントに関する要件などが含まれています。この規制案は2023年12月にホワイトハウスの管理予算局に提出されているものの、記事作成時点ではいつこの規制案が施行されることになるのかは不明です。そのため、The Washington Postは「規制よりも技術の発展の方が早い」と指摘しています。
なお、この報道に対してソーシャルメディア上では「自動運転トラックに対する多くの懐疑的な意見があることは理解していますが、そういった人々は自動運転トラックが実現することでどれだけの経済的インセンティブが発生するかを過小評価していると思います。運送業界や保険業界、トラックメーカーは自動運転トラックの実現を切望しており、これの実現は『もしかすると』といった話ではなく、『いつ実現するか』という具体的な段階に迫っています」という声も上がっていました。

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