ドラッグ店ゲンキーが地方スーパーを倒せる理由

ゲンキー(写真:編集部)

最近はドラッグストアといっても、マツキヨココカラのような王道のドラッグストアもあれば、売場の半分以上が食品売場のコスモス薬品、クスリのアオキといったフード&ドラッグといったタイプもある。ドラッグストアというくくりは共通だが、同業とは思えないほどに多様化している。

経済産業省の業態分類では、さまざまな商品をセルフサービスで提供するスーパーマーケットのうち、食品売上比率が7割以上、店舗あたりの売場面積が250㎡以上のチェーンを「食品スーパー」と規定している。

食品の売り上げの割合を毎年増やし、来年にはドラッグストアで、かつ、食品スーパーにも該当しそうなチェーンが、福井県発祥のフード&ドラッグ、「ゲンキー」である。

食品が売り上げの約7割を占めるゲンキー

ゲンキーの商品別の売上構成は食品が約7割、次いで雑貨が12%であり、ドラッグストアの本来の中心商材、化粧品は10%、医薬品は8%しかない。これだけをみたら、ドラッグストアだとはとても思えないほどだ。

実際、この会社が戦略としてIR資料で示しているのは、食品ディスカウントストアとしての先端的な取り組みだ。

戦略の概要を頭出ししてみると、

1.来店頻度・買い上げ点数向上
①プロセスセンターによる精肉、惣菜の自社製造
②惣菜、ベーシックアイテムの拡充
③青果の鮮度UP
④飽きさせないバラエティ売場
⑤プライベートブランド(PB)の充実でPB比率3割超へ
2.ローコストオペレーション(売場300坪タイプによる標準化、セルフレジ化、カテゴリー納品……)
3.高速多店舗出店

といった項目が並んでいる。

チェーンストア理論の徹底による小型ディスカウントストアチェーンの実現を目指していることが、明確にうたわれているのだが、その成果は業績にも現れている。売上高、収益ともに右肩上がり、順調に成長しているのである。

郊外型としては小ぶりなサイズで多店舗展開

ざっくり言ってしまえば、ゲンキーの戦略はこうだ。

これまでの検証の結果、食品、生活雑貨、化粧品、医薬品を詰め込んだ、生活必需品をワンストップで買える300坪(約1000㎡)の「レギュラー店」が、最も効率よく収益確保できるフォーマットであることが判明した。この店舗をプロセスセンターや物流センターを軸としたインフラで支えて、高速で多店舗展開していく、というものである。

(画像:ゲンキーIR資料より)

ちなみにこの1000㎡というサイズ、一般論で言えば、現在の郊外型の食品スーパー、フード&ドラッグの勝ち組サイズ(1500~2000㎡)としては、かなり小ぶりであり、地域一番店になるためには、品ぞろえで負けるサイズとされている。

ただ、彼らの選んだ最適サイズとは、最低限の生活必需品がほぼ揃う店で、かつ、ビジネスとして成り立つ最低限の売り上げを確保できる店、というものであった。そこで出た答えが1000㎡、だったようだ。

この戦略はチェーンストア理論からすれば、至極まっとうな考え方だが、実はここまで徹底したチェーンオペレーションを展開している食品スーパー、ディスカウンターはこれまで存在していなかった。なぜなら、これまで日本の消費者は、鮮度を重視するため「プロセスセンターからの生鮮品供給を許容しない」とされてきたからである。

ディスカウントストアのオーケーとの違い

店舗のバックヤードで最終流通加工(カット、パック詰め、など)を行う、というのが原則であるため、ディスカウントストアとして効率性を重視するオーケーやトライアルであってもバックヤードは稼働させている。

しかし、食品スーパー出身ではないゲンキーにとっては、そんな原則は迷信にしか見えなかったのかもしれない。プロセスセンターで製造した生鮮、惣菜を供給することで、生鮮のコストを下げつつ、そのロス管理を実現したのである。ゲンキーはこれまで「レギュラー店」への切り替え、規模拡大を進め、その結果データを公表している。

レギュラー店による多店舗化が進むほど、売場効率(売場面積あたりの売上)、面積あたり営業利益は改善していくといった結果が得られている。この戦略、かなり成果が出ているのである。

この300坪店舗は、フード&ドラッグとしての基本構造は持っていて、化粧品、医薬品、雑貨といったドラッグ商材は、売上金額としては小さいものの、利幅が高いため、収益の支えとなっている。

2022年度の時点では、食品のみでは収益が上がる構造にはなっておらず、ドラッグ商材の支えを要しているが、今後は食品でも採算が確保できる構造へと移行していくのだろう。自社製造プロセスセンターの規模の利益、プライベートブランド比率上昇による収益力の強化を進めつつあり、収益力のインフラは着実に整いつつある。出店加速による規模の利益追求のステージに来ているとみていいだろう。

ゲンキーが地方の消費者に重宝される理由

こうして発見した300坪店舗に生鮮、惣菜をはじめとする食品一通りに日用消耗品、雑貨、化粧品、医薬品といった日常生活に必要な商品の大半を品ぞろえしているこの店は、実際にとても便利なのである。特に地方で共働き子育て中の世帯にとっては、近くにあって会社帰り(クルマ通勤が前提)にちょっと不足するものを買い足せるような店、として重宝しているようだ。

また、高齢化の進行で機動力が低下しつつある地方の消費者にとって、近くにあって何でもそろうこの店の利用頻度は高くなるだろう。ただ、この便利店は品ぞろえのいい大きなコンビニのような存在なので、そこまで繁盛するというわけではない。そこそこの売り上げでも維持できる構造になっていなければならない、いわゆる損益分岐点の低い店であることが求められる。ゲンキーのレギュラー店はこの点で優等生なのである。

店舗あたりの損益分岐点を計算して比較するとなるとなかなか難しいので、簡易的に、(販管費/粗利率)/店舗数で出してみる。ゲンキーは3.25億円ほどの店舗あたり損益分岐点売上になる。これはかなり優秀な店ということを示している。

売れなくても維持しやすいゲンキー

この会社が店舗展開している中部地方あたりにもあるドラッグストア、食品スーパーと比較してみると、ゲンキーは最優秀=市場縮小が進んでも最後まで存続することができる店、だということがわかるだろう。

特に、この会社が実質的に食品スーパーとしての機能を中心としていることを考えれば、食品スーパー各社より圧倒的に持続可能であるといえる。あえてもってきた、都内のコンビニサイズ(30~60坪)のミニスーパーまいばすけっと、は2.05億円と極めて低いが、ゲンキーは10倍の大きさの店であることを考えると、いかに売れなくても維持できるのかがわかるだろう。

地方での食品流通市場は人口減少とともに縮小していけば、そこに存在するスーパーは、損益分岐点が高い店から順に撤退を余儀なくされる。しかし、ここ20年の間に地方ではスーパーの競争が激化し、広い駐車場と広い売場(500~700坪ほど)に豊富な品ぞろえを備えていない店はかなり淘汰された。

そのため、今の地方郊外の食品スーパーの損益分岐点は、先ほどの図表の通り、13億円以上とかなりの売り上げが必要になっている。現在の生き残りスーパーは、人口減少が進行すると弱い順から淘汰されていく。こうした中でも、ゲンキーの便利店は最後まで生き残ることができる「食品スーパー」なのだ。

「売れなくても存続可能な店」という強み

これから、人手不足と人件費高騰に向き合わねばならない食品スーパー業界は、生鮮、惣菜に関して、店舗バックヤードでの作業を見直さざるを得なくなっている。

センター集中化して効率化を行わねば、オペレーションが回らないのだが、中小スーパーの場合、こうしたインフラ投資を行っていく余裕はないかもしれない。地場大手であったとしても、現在の損益分岐点の既存店を維持していくためには、相当のエネルギーが必要になる。

ゲンキーは、そうした様子を横目に、300坪店舗の出店を加速して、小商圏を削り取っていくことになるだろう。ずっと右肩下がり、というこれまでにない環境下での競争要因は、「売れる店」から、「売れなくても存続可能な店」に変わってきた。ゲンキーの300坪便利店は、10年以内にロードサイドの標準的ビジネスモデルとして、認知されることになる、と大胆予測しておこう。

(中井 彰人 : 流通アナリスト)

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