かえって体力消耗?酷暑の食事•入浴の落とし穴

残暑による体力消耗を回復させる方法を、東洋医学の視点からご紹介します(写真:zon/PIXTA)

厳しい暑さが続き、熱中症にかかる人も少なくありません。気がついたときには救急車を呼ぶような事態になっているケースもあり、突然、発症するのが熱中症の怖いところです。

頭痛や吐き気を伴う中等度以上の熱中症は、医師にすぐに診てもらったほうがいいですが、予防や軽度の熱中症はセルフケアや漢方薬で対応が可能です。今回は夏バテや熱中症を防ぐ養生と、薬局やドラッグストアで購入できる漢方薬をいくつか紹介します。

残暑が長引いて体力が落ちていると、熱中症にもなりやすくなります。こんなときこそ漢方の知恵でうまく乗り切りましょう。

江戸時代から夏は過ごしにくかった?

『養生訓』をはじめとする書物には、「四季のうち最も注意すべき季節は夏であり、夏の養生は冬よりも難しく重要」といった意味の記載があります。江戸時代は現代の夏よりもだいぶ涼しかったと思われますが、夏は当時でも過ごしにくい要注意な季節だったわけです。

酷暑が続く現代は冷飲食を控え、体力を温存することが大切です。東洋医学に基づいた、暑さを乗り切るポイントをご紹介しましょう。

まずは食養生です。食べる内容も大事ですが、食べる量も大切です。

筆者は薬局を営んでいますが、当院に来られる方を見ていると、夏バテしないように、熱中症にならないようにと、食べすぎている方が多いです。

夏は冬ほど体温を上げる必要がないので、基礎代謝量が下がり、体は省エネ状態になっています。このような場合は食欲が少し落ちるのがふつうなのですが、エアコンの効いた部屋だと食欲が維持されたままになり、ガッツリと食事をしてしまいがちです。

その結果、栄養過多になり、余った栄養を体外に排出するために下痢をしやすくなったり、反対に余った栄養が体に蓄積することで、夏やせどころか夏太りになったりするのです。

夏太りでは胃腸に不要なものがたまったままになるので、体に熱がこもりやすく、余計に暑さを感じます。また、体が重だるく、疲れやすくもなります。

「お腹がすいていないのに食べる」はNG

こういう症状があったら、まずは朝食を見直してください。

起きたばかりでそれほど空腹でもないのに、朝食に結構な量を食べている方が多くいらっしゃいます。

理想的な食事は、朝と夜は軽め、昼に多め。「昼になってもお腹がすかない」と言う方に何を食べているか聞いてみると、パンにコーヒー、バナナ、ヨーグルト、卵……と、けっこうな量を召し上がっています。意外と、胃腸の調子が思わしくない方にかぎって、食べすぎていることが多いのです。

暑い時期の朝食は、お粥がおすすめです。『養生訓』でも「1日のどこか1食をお粥にすると、胃腸の負担が減り、調子が良くなる」と書かれています。梅干し入りのお粥は適度な塩分があるため、脱水予防にもなります。

朝食を見直せたら、昼食の摂り方も変えてみましょう。

リモートワークなどで自宅にいる方によく見られるのは、昼はパンや麺類で軽くすませ、夜はいろいろ作ってたくさん食べるというパターンです。

しかし、麺類やパンが中心のランチだと糖質が多く、昼食後は眠くだるくなるうえ、夕方ごろに血糖値が急激に下がるので、無性に甘いものが食べたくなってしまいます(これも夏太りにつながります)。

昼は、肉や魚を中心とした定食をしっかり食べて、夜は軽くすませます。昼食をしっかりとると夕方に空腹にならず、おやつを食べなくても夕食まで過ごせますし、万が一昼食を食べすぎても、夕食で調節することができます。

仕事などで夕食が遅くなる場合(具体的には夜8時以降)は、夕方に主食のおにぎりやサンドイッチなどを食べ、遅い時間の食事は汁物だけにする「分食」をするとよいでしょう。

夕食に食べすぎると、質の良い睡眠を得ることができません。寝ている間に食べたものの消化でエネルギーを使ってしまい、疲労物質や老廃物を処理することができないからです。

とにかく、寝るときに胃腸の中にどっさり食べたものが詰まっている状態を避け、すっきりした状態で就寝するのが望ましいです。

続いて、夏バテしない食べ方のポイントです。

まず、熱い食べ物を汗をかきながら食べるのを好む方がいますが、熱々のものは熱が体にこもるのでよくありません。反対に、冷たい飲食物も消化に負担がかかるので、おすすめできません。

一番よくないのは、熱いものと冷たいものを同時にとること。例えば「熱々のラーメンや辛いカレー+氷水などの飲み物」の組み合わせです。両方の刺激がダブルで胃腸に負担をかけてしまいます。なるべく体温に近い温度の飲食物を選びましょう。

「熱い湯で汗をかく」もおすすめできない

食事の次は、夏バテを防ぐ入浴法です。

『養生訓』では、過度な入浴によって汗が吹き出て、毛穴から気が漏れることを戒めています。まず見直したいのは、お湯の設定温度です。

夏でも冬と同じ設定温度で入っている方が多くて驚きますが、40〜42℃の熱い風呂に入っている方に話を聞くと、入浴後は汗が止まらず、必ず冷たい飲み物をとっています。

お風呂上がりの冷えたビールや牛乳を飲むのが習慣になっている人は、お湯の温度を今一度見直してみるといいかもしれません。理想は36~38℃です。

熱すぎる湯の影響は、睡眠にも及びます。

寝付くときにも体の中の深部体温が下がりきらないので、質の良い睡眠を得ることができず、寝苦しさで睡眠不足や疲労の原因を作ってしまいます。かといって、シャワーだけですますと、下半身に水がたまりっぱなしになり、むくみや冷えがとれません。

夏の入浴は、36~38℃ぐらいの湯に10分ぐらい浸かる。こうすると発汗することなく、日中に冷房で冷えた下半身もほどよく温まります。そして、入浴後の1時間〜1時間半後位に就寝するのが理想的です。

夜の暑さも体力を奪うので、しっかり冷房をつけて眠ることが大切です。

設定温度は個人差もありますが、筆者は脳疲労を解消する就寝時の室温は24〜25℃がベストと知ってから、そのくらいの温度になるように設定しています。

具体的には、就寝の3時間ぐらい前になったら寝室の布団をめくり、設定温度23℃にして冷房をつけます。同時に水がたまるタイプの除湿機を作動させます。寝具を乾燥させて冷たくするのが目的です。

そして寝るときには設定温度を24.5℃に上げ、除湿の設定にして朝までつけっぱなしにします。体が冷えないように、秋冬用の布団をしっかりかけます。

冷え性の方は長袖長ズボンのパジャマにすると、冷房の寒さで目が覚めてしまうといったことが防げます。筆者は数年前からこの方法にして夏バテ、秋バテはしなくなりました。

夏の不快な症状を緩和する漢方薬3つ

こうした養生だけでも夏バテや熱中症を予防できますが、それでも調子が悪くなってしまったら、漢方薬の登場です。3つの処方を紹介します。

まずは清暑益気湯(せいしょえっきとう)です。夏バテで胃腸が疲れ、体力が低下することで起こる症状や、熱中症に使用します。

軽症の熱中症には、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)がいいでしょう。白虎とは含まれている生薬の1つである石膏を指します。石膏で熱を冷まし、体内の水分を増やして体に潤いを与えます。

漢方薬は、体を温めるというイメージが強いかもしれませんが、白虎加人参湯は冷やして潤す、氷のような働きをする漢方薬です。配合されている人参や粳米(こうべい)は、石膏を補って潤いを増やします。

ただし、石膏は冷やす作用が強く、胃に障る場合もあるので、冷え性の人や胃が弱い方は注意して使用してください。

3つめは五苓散(ごれいさん)です。

熱中症の初期によく使われる漢方薬で、体内の水の偏りを正す働きがあります。必要なところに水を蓄え、不要な水を排出してくれるのです。熱中症になると脱水気味になるため、体内に水をとどめる働きをします。

なお、今回紹介した漢方薬を購入する際は、薬局やドラッグストアにいる薬剤師や販売登録者に一度、相談することをおすすめします。また、こうした漢方薬を用いても症状が治まらない場合は、医療機関に受診するようにしましょう。

(平地 治美 : 薬剤師、鍼灸師。 和光鍼灸治療院・漢方薬局代表)

ジャンルで探す