ジム・ロジャーズ「投資で成功する唯一の方法」

ジム・ロジャーズ氏が説く「投資で成功する唯一の方法」とは? (写真:Luxpho〈Takao Hara〉)

シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。

このたび『世界標準の資産の増やし方:豊かに生きるための投資の大原則』を刊行しましたが、同書に対して、世界的投資家のジム・ロジャーズ氏より「いま投資の世界は、特に日本で大きく変化している。本書から未来を最善なものとする方法を学んでほしい」という推薦の言葉をいただきました。

新NISAがスタートした日本で、個人投資家が成功するためには何が必要なのでしょうか。同氏に長年にわたって取材を続けていますが、「よい時代に正しい場所にいることが重要」というのが最も印象に残るフレーズの一つです。

日本は最も刺激的な国だった

世界標準の資産の増やし方: 豊かに生きるための投資の大原則

「ここ50年の間、世界で最も刺激的な国は日本だった。ここ40年間はそれがシンガポールで、30年間は中国だった」(『お金の流れで読む 日本と世界の未来』)

「どうして世界中に桁違いに豊かな中国人が溢れていて、日本やシンガポールの不動産を買い漁るのだろう?」――こうした素朴な疑問を感じていたのですが、それはデータにも現れています。

UBS Global Wealth Report 2024によると、2008年以降個人資産が最も増加した地域の一つに中国本土が挙げられ、成人1人当たりの平均資産額は現地通貨で360%以上増加しています。

ジム・ロジャーズ氏も「1980年代に中国を見ていたら、それはとても安く、前向きな変化が起きていました。そのような変化は長く続くでしょう。これはほんの一例です。安くて、変化があったところで大儲けできたかもしれないでしょう」と言います。

私はシンガポールのスイス系ファミリーオフィスで働いていて、中華系のファミリーオフィスで働いているシンガポール人の友達もたくさんいます。

シンガポール金融管理局(MAS)によると、資産家一族の資産運用を手掛けるシングルファミリーオフィスの数は、同国では2020年の400件から1400件に増えており、東南アジアの50%のオフィスが集中しているという調査もあります。その中で中華系のオフィスは多いと感じます。

HSBC「Theriseof Asian Wealth」によると、シンガポールでは、2030年までに人口の13.4%が富裕層になると予想されており、これはアメリカ、中国本土、またはアジア太平洋地域の他のどの経済よりも高い割合になる予測です。富裕層の移住は現地の雇用を押し上げるなど、さまざまな経済効果があると感じます。

まず、富裕層の定義ですが、世界では一般的に金融資産が100万米ドル(約1億5000万円)以上を指します。日本で億り人と言うと、株式投資や暗号資産取引(仮想通貨取引)などで1億円以上の資産を築いた投資家を指すことが多いようですが、海外では少し定義が違います。

シンガポールで富裕層ビジネスに携わっていると、こうした世界中の富裕層と知り合う機会は多くなります。先日、一代で100億円以上を築いたシンガポール在住の富裕層の中華系アメリカ人女性(40代)を東京で6日間アテンドをしていました。その方は20歳の時に最初の100万米ドルを手にしたという40代の女性の投資家で、コモディティで大成功したようでした。

今回はこうした富裕層から学んだメンタル、思考法、投資行動の共通点をお伝えしたいと思います。

富裕層に共通するリスク許容度の高さ

ファミリーオフィスでは、お客様の投資を始める前にリスク許容度診断を必ずします。その方が許容できるリスクの範囲内から最適なリターンを追求するためです。もちろん人にもよりますが、日本人の多くはローリスク、ローリターンを好む方が多いですが、中華系はハイリスク、ハイリターンを好む方が多いと感じます。欧米系はその中間くらいの印象です。

一代で富裕層になった方の多くはリスクの許容度がかなり高く、リスクへの耐性がある方が多いと感じます。例えば、融資などは最大限引き出して投資をするなどです。当然、損をする時は大きくなりますが、儲かる時も大きいのであまり気にしない方もいます。

楽観的でリスクを取る方が多いのですが、普通の人がいきなり大きなリスクをとると大失敗するので、日常から小さなリスクを取る訓練を重ねることをお勧めします。

例えば、会議の際には必ず挨拶と発言をするなど。先ほどの富裕層の女性は壇上に立ってパフォーマンスをする機会があると、真っ先に手を上げるタイプでした。こうしたことを繰り返すと、試行回数が増えます。

旅行の行き先を選ぶ、外食の時にメニューを選ぶなど生活をする中でもいろいろな選択肢はあります。そうした何気ないことでもいつもと違う選択肢を選ぶことで少しずつ自分の殻を破ることはできます。

富裕層の思考法 

富裕層の思考法としては、他人と違うことに着眼する方が多いと感じます。自分の頭で理解できるまで徹底的に調査をするところもあります。

「人と異なる考え方をすれば、他の人には見えないものが見えてくる。それが成功への第一歩だ。もし、周りから自分の考えを馬鹿にされたり、笑われたりしたら、大チャンスだと考えればいい。人と同じことをして成功した人は、いままでにいないのだから」(『お金の流れで読む 日本と世界の未来』)

何かの分野で成功した方は、偏見を持たずに、子供のように曇りのない目で事実を直視する人が多いと感じます。数分後に意見や判断が変わることもありますが、それは数分後に状況が変わったから対応が変わるのだと感じます。そのため、成功した方のアドバイスを聞いても、数分後には本人も判断を変えるかもしれないので意味がなく、自分で考える必要があると気付かされました。

ジム・ロジャーズ氏は「投資家として成功を収める唯一の方法は、自分自身がよく知っているものに投資をすることだ」と言います。

「株式であれ債券であれ、あなたがどんな知識を持っているかによって投資すべき商品は変わる。株式が何たるかを知らずに株式を持つべきではないし、債券の仕組みを理解せずに債券に投資をしてはならない。もし不動産が大好きで、いつも見て回っているような人であれば、全資産を不動産に投入しよう。そうした人が『分散投資にするとリスクが低い』という言葉を信じて、詳しくない株式にも投資をするのは間違いだ」(『日本への警告』)

富裕層の多くは自分が最も得意な事業で財産を形成した方がほとんどです。UBS Billionaire Ambitions Report 2023によると、2022年から2023年の間に相続ではなく、起業によって新たにビリオネアとなった人々に目を向けると、大半はIPOのような特定のイベントからの利益ではなく、ビジネスの自律的成長、つまりビジネスからの利益を積み上げて資産を蓄積しています。

富裕層の割合が高いシンガポールでは、不動産の値上がり益も資産増大に貢献しているものの、会社員をしながら100万米ドルを築いた方も多いです。よく分からない投資に手を出すよりもまずは本業で資産を作ることが重要だと気付かされます。

UBS Global Wealth Report 2024によると、富は流動的であり、どのような富の階層でも、富の階段を登る可能性は、そこから下に落ちる可能性よりも一貫して高いです。しかし、最高資産層の約半分がその層から転落するリスクもあるようです。

例えば、香港市場に上場をした中国企業の創業者の中には、市場がよいときに売り抜けて超富裕層になっている方もいれば、株式を保有し続けていて普通の富裕層にとどまっている方もいます。事業で資産が貯まって、初めて投資をしたのが大失敗をして、富裕層から転落する方もいるのです。

特にインフレは毎年、それまでに築いてきた富を食い潰していきます。億り人になって早期退職をしようとしても、退職年齢によっては1億円では心もとないのです。

本書では大金を手にして運用を始める際の注意点、インフレを考慮した後の資産運用とリタイアメントプランニング、長く働く重要性などを強調しています。

日本でも億万長者は増えていく

UBS Global Wealth Report 2024では2028年までに、56の国と地域の中から52で100万米ドル以上の資産を保有する成人の数が増加すると予測しており、日本と韓国では米ドル建ての億万長者が25%増加し、台湾ではほぼ50%増加すると予測しています。

富の有機的成長がこの大幅な増加の一部を占めると予想していますが、台湾では主にマイクロチップ産業が人工知能ブームの恩恵を受けていることもあるようです。また、外国人富裕層の移民による恩恵も大きいようです。

ジム・ロジャーズ氏もアジアの時代の到来を早くから予測しており、自身も2007年から家族と共にシンガポールに移住しています。この大きなトレンドを頭に入れながら、日々の株式市場の上げ下げに惑わされないようにしっかりと本業と資産運用に力を入れていきたいものです。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(花輪 陽子 : ファイナンシャルプランナー)

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