岸田首相、"四面楚歌"でも「とにかく明るい」理由

自民党へあいさつ回りに訪れた岸田文雄首相(写真:時事)

「政治改革」国会が6月23日、当初会期通り閉幕したことで、自民党内では9月の総裁選に向け、“ポスト岸田”の動きが急拡大。各種世論調査での内閣支持率過去最低が相次ぎ、与党内でも“四面楚歌”となりつつある岸田文雄首相の対応が注目の的となっている。

そうした中、岸田首相周辺からは「本人は依然強気で、総裁再選を狙うため、党・内閣人事をちらつかせて反岸田グループの動きを牽制する考え」(官邸筋)との声が漏れてくる。ただ、ここにきて党内若手から「潔く身を引くべきだ」との厳しい声も相次ぐなど、岸田首相の求心力は「低下の一途」(閣僚経験者)であることは否定しようがない。

党内で反岸田勢力の旗頭と目される菅義偉前首相も23日、9月の総裁選に絡めて「刷新感を国民に思ってもらえるかどうかが一つの節目」などと総裁交代が望ましいとの認識を表明。各種世論調査で次期首相候補のトップを独走する石破茂元幹事長ら「ポスト岸田」の有力候補たちも、国会閉幕に合わせて総裁選出馬に向けて活動を活発化させており、「秋に向けて党内の駆け引きが一段と複雑化」(自民長老)しているのが実態だ。

唯一現職で敗北の故福田氏「天の声にも変な声」と独白

そこで総裁選の歴史を振り返ると、再選に挑んだ現職が敗れたのは1回だけだ。1978年11月の総裁選で、当時の福田赳夫総裁(首相)が、初めて実施された党員・党友による予備選挙で、党幹事長を辞任して出馬した大平正芳氏に敗れ、党所属議員を中心とする「本戦」の出馬を断念したケース。その際、福田氏が発した「天の声にも時々変な声がある」は、総裁選史に残る“名台詞”として、今も語り継がれている。

そうした歴史も踏まえ、岸田政権発足以来、首相の後見人を自任してきた麻生太郎副総裁も、春先までは「首相が総裁再選を目指すのは当たり前」と繰り返していた。しかし、「4・28衆院3補選」での自民「全敗」と、これに続く「5・26静岡知事選」での自民推薦候補敗北後は、国会終盤での政治改革関連法をめぐる首相の独断専行に「将来に禍根を残す」と批判するなど、党内の“岸田降ろし”への同調も匂わせている。

さらに、麻生氏と共に首相を支えてきた茂木敏充幹事長も、ここにきて総裁選出馬を視野に党内での多数派形成に腐心。その一方で、菅氏も、ポスト岸田をにらんで国民的人気の高い石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相らの総裁選担ぎ出しを画策する構えだ。

これに対し岸田首相の周辺からは「首相は会期末解散見送りを決断した際、党・人事も行わず現体制で総裁選に臨む意向を固めた。しかし、それを秘して党・内閣人事をちらつかせて党内を牽制する一方、ポスト岸田候補に総裁選出馬をためらわせる策謀を練っている」(最側近)との声も漏れてくる。

自民支持層での「岸田支持」はなお健在

国会閉幕に合わせた主要メディアの世論調査をみると、「次の首相」での人気度で石破氏がトップを独走し、岸田首相は下位に低迷している。ただ、自民支持層に限ると岸田首相は1~3位とジャンプアップする。だからこそ旧岸田派からも「自民総裁選は国民的人気より党内の支持がカギで、現状なら総裁再選も十分狙える」(有力幹部)との声が出るのだ。

そこで関係者が注目したのが、国会閉幕直前の6月19日、3年ぶりに開催された「党首討論」でのやり取り。同討論で初めて岸田首相と対峙した泉健太・立憲民主、馬場伸幸・日本維新の会、田村智子・共産、玉木雄一郎国民民主の各代表・委員長はそれぞれ、「今、国民に信を問え」(泉氏)「直ちに退陣を」(馬場・玉木氏)などとそれぞれの立場から厳しく攻撃した。

これに対し岸田首相は、これまでの紳士的対応をかなぐり捨て、「私は四面楚歌とは感じていない」「課題が山積しているからこそ、結果を出さねばならない」「(政治改革では)禁止、禁止、禁止というだけで、現実をみることがない」などと強い口調で反論した。

この強気の言動について、与党内でも「単なる強がり」(閣僚経験者)と冷笑する向きが多い。その一方で「持ち前の“鈍感力”で『とにかく明るい岸田』を演じ切ることで、総裁再選を狙っているのは間違いない」(自民長老)と岸田首相の心中を見透かす声もある。

「再選前提」の物価対策にも政府内から反発

岸田首相はその2日後の6月21日夕、事実上の国会閉幕を受けて首相官邸で記者会見。その中で改めて総裁再選に意欲を示すとともに、7月以降に想定されている物価高への対応策として①8月からの電気・ガス料金の負担を軽減する補助金の再開②低所得者世帯などへの給付金追加の検討――などを表明した。これは「総裁再選がすべての前提」(同)ともみえる。

ただ、財務、経済産業両省への事前説明はなかったとされ、「首相の独断専行で、まさに『孤立の独裁者』そのもの」(財務省幹部)との反発も相次ぐ。このため、政府与党内にも「岸田首相がいくら人気取りの政策を連発しても、現状の支持率低迷から抜け出せない限り、『とにかく明るい岸田』も逆に国民の反感を買うだけ」との厳しい声が広がる。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)

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